宿泊学習から帰ってきた。部屋に入って真っ先に、手にしたのは、四つ葉のクローバー。鼻歌を奏でながら、住所を書き留めたノートに挟んだ。ベッドの上に腰をかけて、かくれんぼを思い出して、ドキドキしていた。
あのまま、見付らなかったら、ずっと一緒に居られたのに……。思い出す甘い香り、山下君との電話は日課になり、私は真ちゃんと呼ぶようになった。よねも、ちゃこも、真ちゃんと呼んでいる。
学校に行くのが楽しい、帰宅してからも楽しい。この気持ち……私は、そうよね。うん……。
ホームルームが始まり、先生の一言が、私の動きを止めた。それは、ちゃこ、よねも同じであった。テストが来週行われ、上位が貼りだされる。教室は前の席の方も、ざわついていた。
男子生徒が質問していた、赤点について、留年という、聞いた事があったのか、なかったのか、テレビドラマの世界の言葉なのか……。
「特に女子、この間の小テストが、酷かった。一生懸命励むように」
よね、ちゃこは、自分の事を指さしていた。私も、同じだ……。
休み時間になり、真ちゃんのところに、私達は集まって、数学を見せると、
「これで、良く高校に入れたな。そもそも、本題のルートに入る前に、掛け算九九で間違っている」
「小学生からやり直した方が、良いだろう」
私達の絶望感と言えば、それは教室でのここだけが、真夜中か、お化け屋敷のようで、照らしている月の明かりだけが、救いであった。ほかの女子も真ちゃんのところに、ノートを持ってやってきた。私達は、暗闇に飲まれて、存在感が無かった。真ちゃんは、頭を左手で抱えてから……。
「数学は答えが、一つ。どのような手法を使っても、論理的に一つになる。構成がバラバラだから、答えにたどり着いていない。逆に設問の意図を読み解けば、答えが導き出して、問題文をつくることも」
他の女子生徒、十数名が、声を揃えて。
「英語で話さないで、日本語で、話してもらえない、真ちゃん?」
真ちゃんは、大きく息を吸い、天井を見つめて、数名の男子生徒を呼び、それぞれに振り分けられていった。四方八方で、グループが出来て、男子生徒が、女子生徒に教えていた。
私は、取り残された。グループ分けに入っていないのだ、どうしてなの? 私は、問題ないと言うことなのかしら、それもそう、この推し量る事等到底できない、潜在能力。流石というしかないだろう、真ちゃん。
「嘉織里、お前は、もっと酷い、次元を超えている。白紙だ、これから、俺の家で勉強を教える」
えー! 真ちゃんのお家に行って良いの? 確か電車乗るのよね。
午前中の授業が終わり、下校、真ちゃんと電車に乗って、歩いて真ちゃんの家に向かうと、ところどころで、お店のおばちゃんが出てきて、果物をくれたり、お菓子をくれたり、真ちゃんを呼び止めては、気が付くと両手はふさがっていた。
どういうことなのだろう? 交差点沿いのお弁当屋さんも、値札を変えて、二つ渡してくれた。車通りの激しい四車線――信号が変わるまで、私は真ちゃんの顔を見ていた。手を繋ぎたいとおもったのは、嘘ではない。真ちゃんの両手はビニール袋が破けてしまうのではないかと、塞がっていた。
角の家で立ち止まると、表札には山下と……。え? 中学校目の前にあった。真ちゃんはポケットを、もぞもぞさせて、鍵を取り出し、扉をあけた。
ここが真ちゃんの家なのだ。玄関に入り、一番先に目にはいったのが、黒電話。その先が階段。真ちゃんここに座って、電話してくれていたのだ。
「おじゃまします。真ちゃんの部屋は? どこ?」
「階段あがって、左、誰もいないから、夜遅くにならないと、帰ってこない」
私は、言葉の末尾を聞き取らずに、勝手に、階段をドタドタとかけあがっていった。
「おーい、パンツ丸見えだぞ」
え! しまった。私の家ではないのに……。
勝手にドアをあけると、私は身動きが出来なくなった。想像していた男子の部屋とは、違う。私の部屋とも明らかに違っていた。
綺麗に整理されいて、コンピューター? があり、電子オルガン、ギター、沢山のトロフィーと賞状があった。女の子の写真等は、なく、左右をくまなく、目で追っていた。真ちゃんはビニール袋から頂いたお弁当を取り出して……。
「コーヒー、紅茶、麦茶、何が良い?」
「紅茶、ねー! 中学校の卒アルある?」
「紅茶、インスタントで良いか? 卒アルは、そこに」
「見ていて、良いから、少し待っててくれ」
真ちゃんは、下に降りて行った。卒アルをめくると、驚いた、寄せ書きは良くあることだと、思うけれど、内容が、大好き等が沢山書き込まれていた。彼女居るのかな、私は一気に、どんより曇り空になってしまった。ページをめくると、文化祭のライブの写真等があった。
真ちゃんが戻ってきて、果物を切ってくれて、紅茶をだしてくれた。聞きたい、聞かなくては……。卒アルを持ち挙げて、寄せ書きを開いて、目の前に出した。
「真ちゃん、彼女いるの?」
「いない。中学入学してすぐに、告白されて、付き合ったことはあるが、何をしてよいのか、一か月で、別れたな、その後は居ない、会話が弾まないし、楽しくないし、嘉織里みたいに、なんというのかフィーリングが合う? ような子はいなかったな?」
どういうこと? それって……。私は真ちゃんの目をずっとみていると。
「じゃ、勉強始めようか?」
飽きられながら、赤点を取らないですむ、対処方法を教えてくれた。わかりやすかった。私にもできる! 右手でグーをつくって、確信した。
「これは、赤点回避の方法だから、せっかく来たのだから、見せてあげよう」
立ち上がり、コンピューターの前に、座り、オルガンに線をつけて、いじり始まった。
「嘉織里、こっちおいで、ここを押してみて」
コンピューターのキーボードを触るのは初めて、言われた通り、人差し指で、四角いボタンを押すと、いきなり、音楽がながれ、音符が表示されて、左から右へ進んでいった。音は物凄く大きかったが、強弱があり優しい音色から、激しい音に……。
「MIDIというのだけれど、こんな感じで曲を作っている。作詞はこれ」
凄い、凄い、凄い、今まで見たことが無かった。
「時間も早いから、少しあるくが、カラオケいこうか?」
カラオケは、私も得意だったので、大賛成! 思いっきり、頭を二、三度上下に振った。中学校を通り過ぎると、目にしたのが、真ちゃんの名前、全国準優勝と垂れ幕があった。
カラオケボックスについて、コンテナの中に入った。私は、何を歌おうか、考えていると、真ちゃんは既に歌い始めていて、宿泊学習とは違い、目の前で、ボーカルの声がダイレクトに、頭から、足の指先まで流れ込んでいた。
歌い終わり、次は私の番。今の私の想いを乗せて、歌うなら、この曲。知っているのかな? 前に出て、イントロが始まる。真ちゃんは、私を見ていた。気持ちを乗せて、こぶしを聞かせて、想いが届けと熱唱した。
「うお、一六歳が天城越えを歌うのか、凄いな」
拍手、上手い!
「今度は一緒に、歌おう。天城越え」
少し首を捻った。私の想いを乗せたのだけれど、伝わっているのかな? 楽しいので良しとする。カラオケデートは終わり、高校の最寄り駅まで送ってもらった。
電車の中でもずっと、おしゃべりをしていた。もう私の想いは止めることはできなかった。
翌日の夕飯を終えた後に、部屋にいると、子機が光った、誰も取らないでねと、手を子機に伸ばした。真ちゃんだ――。
「こんばんわ、電話して大丈夫? ちゃんと勉強した?」
数秒であろうか、無言であった……。
「もちろん、したよ」
「電話切ろうか?」
「切らないで!」
笑いながら、話した。
「昨日見ての通り、うちまだ黒電話なのだよ、階段に座って、話して居る」
「私は、部屋に子機があるから」
「うちも変えてもらいたいな」
真ちゃんの話が始まった。私は毎回違う、話題の宝庫が楽しみで、楽しみで、今日は何を言うのだろう?
「手はさ、なんでこう、指の長さがそれぞれ違うんだろうね?」
「え? 意味が解らないのだけれど?」
「例えばだよ、受話器を持っていない手を広げてみて、嘉織里の手、五本の指が全部同じ長さだったとしたら、どうなる?」
「は? 普通考えないよ、同じ長さ、便利なのか、不便なのか」
「そう、まさに、それ、解らないのだ」
「解らないなら、言う通り、このままで良いのでは?」
「そこを考えると違うのだな、何が違うかというと、既にこの五本の不揃いの長い年月形成されているから、長さの違う指の特徴を捉えて、物体がある。たとえば、鉛筆や、お箸」
「あ! 確かに、指の長さが同じだとしたら、鉛筆をグーで握るよね?」
相変わらず、想定を超えたところの話が、面白い――。
「指の話の延長で、電話は凄いよね?」
「え? 何が? 凄いの?」
「だってさ、俺と嘉織里、今それぞれの家にいるのに、言葉は隣同士、今俺の左隣に、嘉織里がいるのだ」
「というと、私のとなりに、真ちゃんがいるって事? えー! ベッドの上なのだけれど」
「だろ、そう思うと凄い、この電話線を辿って、繋がっているのだ、幸せの赤い糸というけれど、俺の小指と嘉織里の小指に、繋がっているのが、この電話線」
受話器を握る指に視線を落とし、考えたこともなかった、小指に赤い糸が結ばれていた。見えたのだ。その話は、遠まわしに、私に……え? 私は、枕を抱きしめて、心の中で、真ちゃんとつぶやいた。怖いけれど、言いたい、大丈夫だよね。私は……。
ピピ、ピピ
「キャッチフォン。あ、ちょっとまってて、10分後にかけなおすね」
もう、今って時に、何なのよ、覚悟を決めたのに……。早く終わらないか、イライラして、ベッドの上で、子機のランプが消えるのをまつ、睨む。
隣に座っているんだって、あっちの私。こっちの私の隣には、真ちゃん。胸の高鳴りが収まらない、ベッドの上で右へ、ごろごろ、左へ、ごろごろ、消えた、ランプ。電話かかってきた。
「電話していて、大丈夫?」
一息ついて、
「うん。大丈夫」
「何の話していたのだったかな? ……」
「テレフォンカードは、伝わりやすいだろう、電話。どうして、オレンジカードなのだ? フルーツ買うわけじゃないのだよ」
はぁ? 何の話よ、私が真ちゃんの隣にいる話では、なかったの? テレフォンカード? え?
「どういうネーミングセンスしているのだ? 何も伝わってこなくない?」
「だって、オレンジだよ。追加でオレンジ買ってきて と言われたら、どうする嘉織里?」
私は、少し呆れてしまった、このドキドキを返せー、キャッチフォンのバカヤローと心のなかで、叫んだ。
「そうね、八百屋さんかスーパーに行くかな」
「だろう。伝わるものも、伝わらない」
私は、伝えたい。言いたい、でも、怖い。違ったら、どうしよう。フラれたくない。想いは通じ合っているはず。大丈夫。でも、心の底からあふれ出てきた、言葉を喉の先を通過してくれない。声にならない。飲み込んでしまう。
「少し、話をかえて、どうしていつも、私と一緒にいるの? 電話したりするの? 誰とでもするの?」
即答であった、
「嘉織里だから、話す、楽しいから、電話する、一緒にいるだけで、幸せな気分になれるから、一緒」
「それって」
無常にも、ここで、今度もキャッチフォンが入った。私は、高鳴る想いは告げられず、真ちゃんからも、期待した言葉がでずに、今晩の通話は、おやすみなさいで、終わった――。
私は、子機を睨み続けていた……いつになっても消えないランプを――。
あのまま、見付らなかったら、ずっと一緒に居られたのに……。思い出す甘い香り、山下君との電話は日課になり、私は真ちゃんと呼ぶようになった。よねも、ちゃこも、真ちゃんと呼んでいる。
学校に行くのが楽しい、帰宅してからも楽しい。この気持ち……私は、そうよね。うん……。
ホームルームが始まり、先生の一言が、私の動きを止めた。それは、ちゃこ、よねも同じであった。テストが来週行われ、上位が貼りだされる。教室は前の席の方も、ざわついていた。
男子生徒が質問していた、赤点について、留年という、聞いた事があったのか、なかったのか、テレビドラマの世界の言葉なのか……。
「特に女子、この間の小テストが、酷かった。一生懸命励むように」
よね、ちゃこは、自分の事を指さしていた。私も、同じだ……。
休み時間になり、真ちゃんのところに、私達は集まって、数学を見せると、
「これで、良く高校に入れたな。そもそも、本題のルートに入る前に、掛け算九九で間違っている」
「小学生からやり直した方が、良いだろう」
私達の絶望感と言えば、それは教室でのここだけが、真夜中か、お化け屋敷のようで、照らしている月の明かりだけが、救いであった。ほかの女子も真ちゃんのところに、ノートを持ってやってきた。私達は、暗闇に飲まれて、存在感が無かった。真ちゃんは、頭を左手で抱えてから……。
「数学は答えが、一つ。どのような手法を使っても、論理的に一つになる。構成がバラバラだから、答えにたどり着いていない。逆に設問の意図を読み解けば、答えが導き出して、問題文をつくることも」
他の女子生徒、十数名が、声を揃えて。
「英語で話さないで、日本語で、話してもらえない、真ちゃん?」
真ちゃんは、大きく息を吸い、天井を見つめて、数名の男子生徒を呼び、それぞれに振り分けられていった。四方八方で、グループが出来て、男子生徒が、女子生徒に教えていた。
私は、取り残された。グループ分けに入っていないのだ、どうしてなの? 私は、問題ないと言うことなのかしら、それもそう、この推し量る事等到底できない、潜在能力。流石というしかないだろう、真ちゃん。
「嘉織里、お前は、もっと酷い、次元を超えている。白紙だ、これから、俺の家で勉強を教える」
えー! 真ちゃんのお家に行って良いの? 確か電車乗るのよね。
午前中の授業が終わり、下校、真ちゃんと電車に乗って、歩いて真ちゃんの家に向かうと、ところどころで、お店のおばちゃんが出てきて、果物をくれたり、お菓子をくれたり、真ちゃんを呼び止めては、気が付くと両手はふさがっていた。
どういうことなのだろう? 交差点沿いのお弁当屋さんも、値札を変えて、二つ渡してくれた。車通りの激しい四車線――信号が変わるまで、私は真ちゃんの顔を見ていた。手を繋ぎたいとおもったのは、嘘ではない。真ちゃんの両手はビニール袋が破けてしまうのではないかと、塞がっていた。
角の家で立ち止まると、表札には山下と……。え? 中学校目の前にあった。真ちゃんはポケットを、もぞもぞさせて、鍵を取り出し、扉をあけた。
ここが真ちゃんの家なのだ。玄関に入り、一番先に目にはいったのが、黒電話。その先が階段。真ちゃんここに座って、電話してくれていたのだ。
「おじゃまします。真ちゃんの部屋は? どこ?」
「階段あがって、左、誰もいないから、夜遅くにならないと、帰ってこない」
私は、言葉の末尾を聞き取らずに、勝手に、階段をドタドタとかけあがっていった。
「おーい、パンツ丸見えだぞ」
え! しまった。私の家ではないのに……。
勝手にドアをあけると、私は身動きが出来なくなった。想像していた男子の部屋とは、違う。私の部屋とも明らかに違っていた。
綺麗に整理されいて、コンピューター? があり、電子オルガン、ギター、沢山のトロフィーと賞状があった。女の子の写真等は、なく、左右をくまなく、目で追っていた。真ちゃんはビニール袋から頂いたお弁当を取り出して……。
「コーヒー、紅茶、麦茶、何が良い?」
「紅茶、ねー! 中学校の卒アルある?」
「紅茶、インスタントで良いか? 卒アルは、そこに」
「見ていて、良いから、少し待っててくれ」
真ちゃんは、下に降りて行った。卒アルをめくると、驚いた、寄せ書きは良くあることだと、思うけれど、内容が、大好き等が沢山書き込まれていた。彼女居るのかな、私は一気に、どんより曇り空になってしまった。ページをめくると、文化祭のライブの写真等があった。
真ちゃんが戻ってきて、果物を切ってくれて、紅茶をだしてくれた。聞きたい、聞かなくては……。卒アルを持ち挙げて、寄せ書きを開いて、目の前に出した。
「真ちゃん、彼女いるの?」
「いない。中学入学してすぐに、告白されて、付き合ったことはあるが、何をしてよいのか、一か月で、別れたな、その後は居ない、会話が弾まないし、楽しくないし、嘉織里みたいに、なんというのかフィーリングが合う? ような子はいなかったな?」
どういうこと? それって……。私は真ちゃんの目をずっとみていると。
「じゃ、勉強始めようか?」
飽きられながら、赤点を取らないですむ、対処方法を教えてくれた。わかりやすかった。私にもできる! 右手でグーをつくって、確信した。
「これは、赤点回避の方法だから、せっかく来たのだから、見せてあげよう」
立ち上がり、コンピューターの前に、座り、オルガンに線をつけて、いじり始まった。
「嘉織里、こっちおいで、ここを押してみて」
コンピューターのキーボードを触るのは初めて、言われた通り、人差し指で、四角いボタンを押すと、いきなり、音楽がながれ、音符が表示されて、左から右へ進んでいった。音は物凄く大きかったが、強弱があり優しい音色から、激しい音に……。
「MIDIというのだけれど、こんな感じで曲を作っている。作詞はこれ」
凄い、凄い、凄い、今まで見たことが無かった。
「時間も早いから、少しあるくが、カラオケいこうか?」
カラオケは、私も得意だったので、大賛成! 思いっきり、頭を二、三度上下に振った。中学校を通り過ぎると、目にしたのが、真ちゃんの名前、全国準優勝と垂れ幕があった。
カラオケボックスについて、コンテナの中に入った。私は、何を歌おうか、考えていると、真ちゃんは既に歌い始めていて、宿泊学習とは違い、目の前で、ボーカルの声がダイレクトに、頭から、足の指先まで流れ込んでいた。
歌い終わり、次は私の番。今の私の想いを乗せて、歌うなら、この曲。知っているのかな? 前に出て、イントロが始まる。真ちゃんは、私を見ていた。気持ちを乗せて、こぶしを聞かせて、想いが届けと熱唱した。
「うお、一六歳が天城越えを歌うのか、凄いな」
拍手、上手い!
「今度は一緒に、歌おう。天城越え」
少し首を捻った。私の想いを乗せたのだけれど、伝わっているのかな? 楽しいので良しとする。カラオケデートは終わり、高校の最寄り駅まで送ってもらった。
電車の中でもずっと、おしゃべりをしていた。もう私の想いは止めることはできなかった。
翌日の夕飯を終えた後に、部屋にいると、子機が光った、誰も取らないでねと、手を子機に伸ばした。真ちゃんだ――。
「こんばんわ、電話して大丈夫? ちゃんと勉強した?」
数秒であろうか、無言であった……。
「もちろん、したよ」
「電話切ろうか?」
「切らないで!」
笑いながら、話した。
「昨日見ての通り、うちまだ黒電話なのだよ、階段に座って、話して居る」
「私は、部屋に子機があるから」
「うちも変えてもらいたいな」
真ちゃんの話が始まった。私は毎回違う、話題の宝庫が楽しみで、楽しみで、今日は何を言うのだろう?
「手はさ、なんでこう、指の長さがそれぞれ違うんだろうね?」
「え? 意味が解らないのだけれど?」
「例えばだよ、受話器を持っていない手を広げてみて、嘉織里の手、五本の指が全部同じ長さだったとしたら、どうなる?」
「は? 普通考えないよ、同じ長さ、便利なのか、不便なのか」
「そう、まさに、それ、解らないのだ」
「解らないなら、言う通り、このままで良いのでは?」
「そこを考えると違うのだな、何が違うかというと、既にこの五本の不揃いの長い年月形成されているから、長さの違う指の特徴を捉えて、物体がある。たとえば、鉛筆や、お箸」
「あ! 確かに、指の長さが同じだとしたら、鉛筆をグーで握るよね?」
相変わらず、想定を超えたところの話が、面白い――。
「指の話の延長で、電話は凄いよね?」
「え? 何が? 凄いの?」
「だってさ、俺と嘉織里、今それぞれの家にいるのに、言葉は隣同士、今俺の左隣に、嘉織里がいるのだ」
「というと、私のとなりに、真ちゃんがいるって事? えー! ベッドの上なのだけれど」
「だろ、そう思うと凄い、この電話線を辿って、繋がっているのだ、幸せの赤い糸というけれど、俺の小指と嘉織里の小指に、繋がっているのが、この電話線」
受話器を握る指に視線を落とし、考えたこともなかった、小指に赤い糸が結ばれていた。見えたのだ。その話は、遠まわしに、私に……え? 私は、枕を抱きしめて、心の中で、真ちゃんとつぶやいた。怖いけれど、言いたい、大丈夫だよね。私は……。
ピピ、ピピ
「キャッチフォン。あ、ちょっとまってて、10分後にかけなおすね」
もう、今って時に、何なのよ、覚悟を決めたのに……。早く終わらないか、イライラして、ベッドの上で、子機のランプが消えるのをまつ、睨む。
隣に座っているんだって、あっちの私。こっちの私の隣には、真ちゃん。胸の高鳴りが収まらない、ベッドの上で右へ、ごろごろ、左へ、ごろごろ、消えた、ランプ。電話かかってきた。
「電話していて、大丈夫?」
一息ついて、
「うん。大丈夫」
「何の話していたのだったかな? ……」
「テレフォンカードは、伝わりやすいだろう、電話。どうして、オレンジカードなのだ? フルーツ買うわけじゃないのだよ」
はぁ? 何の話よ、私が真ちゃんの隣にいる話では、なかったの? テレフォンカード? え?
「どういうネーミングセンスしているのだ? 何も伝わってこなくない?」
「だって、オレンジだよ。追加でオレンジ買ってきて と言われたら、どうする嘉織里?」
私は、少し呆れてしまった、このドキドキを返せー、キャッチフォンのバカヤローと心のなかで、叫んだ。
「そうね、八百屋さんかスーパーに行くかな」
「だろう。伝わるものも、伝わらない」
私は、伝えたい。言いたい、でも、怖い。違ったら、どうしよう。フラれたくない。想いは通じ合っているはず。大丈夫。でも、心の底からあふれ出てきた、言葉を喉の先を通過してくれない。声にならない。飲み込んでしまう。
「少し、話をかえて、どうしていつも、私と一緒にいるの? 電話したりするの? 誰とでもするの?」
即答であった、
「嘉織里だから、話す、楽しいから、電話する、一緒にいるだけで、幸せな気分になれるから、一緒」
「それって」
無常にも、ここで、今度もキャッチフォンが入った。私は、高鳴る想いは告げられず、真ちゃんからも、期待した言葉がでずに、今晩の通話は、おやすみなさいで、終わった――。
私は、子機を睨み続けていた……いつになっても消えないランプを――。
