恋愛ごっこ

 神様が居るのならば、怒鳴りたい気持ちで一杯だった。あたしはクラス分けの張り出された掲示板の前で、これでもか、と云う位、呆然とした表情で立ち尽くしていた。
 
「よお」

「――星名……?」

 ひっそりと目立たぬように座っていたあたしの本意を無碍にしてくれた当人は、椅子に対して横向きに腰を下ろすと、優雅な所作で足を組んだ。
 その堂に入った態度を、こんなに近くで見るのは、久しぶりの事。

「別れたらしいな?」

「は?」

「如月とお前」

 と、言いながら顎をしゃくる。
 示された方向を辿って行くと、中央の列の後方で、如月が新しいクラスメイトに囲まれているのが見えた。

「あのねぇ――そもそも付き合ってない」

「アイツが隠したがる理由が、判らないでも無いな」

 がっくりと肩を落とすあたしの言葉を、星名は全く聞いていないようで、唇を持ち上げるとじっとあたしの顔を覗きこんだ。

「お前、可愛くなったよ」

「はいぃ?」

「中等部の頃は、どこの田舎モノだって感じだったのにな。女って怖ぇ」

「あ、ほ、星名?」

「ま、三年ぶりのクラスメイトだ。一年間仲良くやっていこうぜ」

 すっとあたしに向かって伸ばされた手を、取ってしまった。
 星名はそれをきゅっと握り返すと唇に綺麗な笑みを模る。

「俺も外部受験組みだし、選択授業、重なるだろ」

「そうなんだ?」

 意外だった。

「星名も外部かー。って何で知ってるの」

「足立が騒いでいたし、アイツも――かなり落ち込んでいたから」
 
 星名にしては珍しく、顰められた声に、首を捻ると、机の上に影が落ちた。

「星名、顧問から呼び出し。行こうぜ」

 低い声に、身が切り裂かれる。
 如月は一度もあたしの方を見なかった。
 あんな酷い言葉を投げつけたのだから、それは当然の事なのだけど、無い物をねだる様、あたしは遠ざかる背中を呆然と眺めていた。