コンビニで買ってきた、花火。
無謀な事に、あたしたちはアパートのベランダに腰を下ろし、ボウルを受け皿にして、線香花火に火を点ける。
花火大会の埋め合わせにしてはかなり、ささやかなものだが、どうしても夜の闇に浮かぶ華を見たかった。
如月は我侭を聞くのが上手い。
如月の彼女だった子は皆、幸せだったんだろうな。なんて思うと、少しだけ羨ましくなった。
けれどあたしは頭を横に振る。
恋人同士って別れたら、その先に待ち受けているのは永遠の別離。
たとえ友達に戻れたとしても、以前の関係は望めないだろう。
あたしは如月と云う人間が好きだ。
キスをしたいとかセックスをしたいとか、そういう欲求をすべて超えて、好きなのだ。
友達という位置、恋人という位置。
どちらかを選べと言われたら迷わず前者を選ぶ。
体を一つに繋がなくても、あたしたちの心は繋がっている。
そして友情で結ばれた時間は、きっと永遠に近い。
恋人同士よりも、ずっとずっと長い。
少なくともあたしはこの五年間そう思ってきた筈だった。
――まさか、それが過去形になる日が来ようとは考えもしなかった。
「先に落ちたほうが、夕飯を奢る!」
言いながら、如月の肩に自分の肩をぶつける。
「こら! 揺らすなよ!」
「あはは。落ちたほうが、おごりー!」
「妨害工作なんてフェアじゃないし」
「聞こえなーい」
顔を背けたあたしに、如月が反撃に出る。首筋を撫でられて、早速逃げの体勢。
「ちょっと!そこ急所なんだから」
「性感帯の間違い、だろ」
「なーに言ってんの! このエロ!」
脇腹を擽ってやろうと、花火を持っていない方の手を、如月に向かって突き出した瞬間だった。
如月の手元からぽろりと赤い小さな火の塊が落ちる。
「――! あっつーーい!」
「馬鹿か!」
裸足の足の甲に落ちた赤い塊は、あたしが飛び上がった瞬間に、雨の名残のあるベランダのコンクリートの上に転がって、ゆっくりと消火し黒くなった。
じんわりと痛み始める足を擦ると、如月の大きな手がそれを止める。
手は腰に回され、そのまま抱えあげられる。
まるで荷物を持つかのような体勢で、如月はあたしをバスルームへと、タイルの上にそっと降ろした。
蛇口が捻られ、勢い良く飛び出した水が、あたしの足を打つ。
立っているあたしに対して、如月は屈んだままで、黒い髪の毛しか見えない。
何も言わない如月は、きっと怒っているのだろうな、と思った。
「ごめん……」
はしゃぎ過ぎていた。
「すぐ冷やしたし、痕は残らないと思う」
「ごめん」
「そういう時は『ありがとさん』だろ?」
パチンとバスルームのスイッチが音を立てる。
薄闇からの解放。
ニッコリと微笑まれ、なんだか泣きそうになった。
「『さん』も付けなきゃ駄目?」
「『飴ちゃん』には『ちゃん』だろ」
「あはは関西人みたい」
今思うと、あたしはこの頃からとても不安定だったように思える。
過ぎて行く時間、この居心地の良い場所を失くしてしまうのでは無いかと云う焦燥が、あたしの与り知らぬ所で頭を擡げはじめている事に、必死で目を逸らそうとしていた。
「――ありがと、如月」
親愛の意味を存分に込めて、立ち上がった如月の背中に腕を回した。
「ずっと友達でいてね」
無謀な事に、あたしたちはアパートのベランダに腰を下ろし、ボウルを受け皿にして、線香花火に火を点ける。
花火大会の埋め合わせにしてはかなり、ささやかなものだが、どうしても夜の闇に浮かぶ華を見たかった。
如月は我侭を聞くのが上手い。
如月の彼女だった子は皆、幸せだったんだろうな。なんて思うと、少しだけ羨ましくなった。
けれどあたしは頭を横に振る。
恋人同士って別れたら、その先に待ち受けているのは永遠の別離。
たとえ友達に戻れたとしても、以前の関係は望めないだろう。
あたしは如月と云う人間が好きだ。
キスをしたいとかセックスをしたいとか、そういう欲求をすべて超えて、好きなのだ。
友達という位置、恋人という位置。
どちらかを選べと言われたら迷わず前者を選ぶ。
体を一つに繋がなくても、あたしたちの心は繋がっている。
そして友情で結ばれた時間は、きっと永遠に近い。
恋人同士よりも、ずっとずっと長い。
少なくともあたしはこの五年間そう思ってきた筈だった。
――まさか、それが過去形になる日が来ようとは考えもしなかった。
「先に落ちたほうが、夕飯を奢る!」
言いながら、如月の肩に自分の肩をぶつける。
「こら! 揺らすなよ!」
「あはは。落ちたほうが、おごりー!」
「妨害工作なんてフェアじゃないし」
「聞こえなーい」
顔を背けたあたしに、如月が反撃に出る。首筋を撫でられて、早速逃げの体勢。
「ちょっと!そこ急所なんだから」
「性感帯の間違い、だろ」
「なーに言ってんの! このエロ!」
脇腹を擽ってやろうと、花火を持っていない方の手を、如月に向かって突き出した瞬間だった。
如月の手元からぽろりと赤い小さな火の塊が落ちる。
「――! あっつーーい!」
「馬鹿か!」
裸足の足の甲に落ちた赤い塊は、あたしが飛び上がった瞬間に、雨の名残のあるベランダのコンクリートの上に転がって、ゆっくりと消火し黒くなった。
じんわりと痛み始める足を擦ると、如月の大きな手がそれを止める。
手は腰に回され、そのまま抱えあげられる。
まるで荷物を持つかのような体勢で、如月はあたしをバスルームへと、タイルの上にそっと降ろした。
蛇口が捻られ、勢い良く飛び出した水が、あたしの足を打つ。
立っているあたしに対して、如月は屈んだままで、黒い髪の毛しか見えない。
何も言わない如月は、きっと怒っているのだろうな、と思った。
「ごめん……」
はしゃぎ過ぎていた。
「すぐ冷やしたし、痕は残らないと思う」
「ごめん」
「そういう時は『ありがとさん』だろ?」
パチンとバスルームのスイッチが音を立てる。
薄闇からの解放。
ニッコリと微笑まれ、なんだか泣きそうになった。
「『さん』も付けなきゃ駄目?」
「『飴ちゃん』には『ちゃん』だろ」
「あはは関西人みたい」
今思うと、あたしはこの頃からとても不安定だったように思える。
過ぎて行く時間、この居心地の良い場所を失くしてしまうのでは無いかと云う焦燥が、あたしの与り知らぬ所で頭を擡げはじめている事に、必死で目を逸らそうとしていた。
「――ありがと、如月」
親愛の意味を存分に込めて、立ち上がった如月の背中に腕を回した。
「ずっと友達でいてね」



