恋愛ごっこ

 心底恨めしそうなあたしの声に、追い打ちをかけるよう、鉛色の空に稲妻が走る。

「花火大会中止だね……」

 夏祭り。
 海水浴にプール。
 涼を求める目的で出掛けた寂れた遊園地のお化け屋敷。
 それからありふれたラブストーリーを上映する映画館。

 新学期が始まるまでの少しの間、あたしたちは行く夏を惜しむように、沢山の場所に出かけた。

 特に今年は如月が彼女と別れたばかりと云う事も手伝い、例年に比べると、彼の部活が休みの日には、かなりの確率であたしにお誘いがかかる。

 相変わらずあたしには特定の相手が居なかったし、根っこの所で寂しがり屋の如月の相手をする為に、せっせとこの居心地の良い部屋に通っていた。

 一応、親友だから。

「残念だなー」

 隣に立った如月が、結い上げたあたしの髪を留めている、和風な髪飾りに触れる。

「せっかく、浴衣着たのに」

「本当だなー」

「うわ、なんか心こもってないわ。その言い方」

「ま、また来年行こう」

 宥めるように肩を叩かれて、あたしはむうっと頬を膨らませる。
 天気に文句を言っても仕方ないのは判っているけど、久しぶりに腕を通した浴衣に、朝から花火を見る気満々だったのだ。

「とか言っちゃって、来年は彼女が居るかもしれないでしょ。いーんだどうせ友情より愛情だよね」

 突き放すように背中を向けると、途端に腕が伸びてくる。

「重い……」

「いいじゃん、体温好きだろ」

「いーやー、暑苦しい」

「エアコンついてるし」

「如月みたいな巨大な人間に圧し掛かられたら、圧死する」

 そんな言葉に、如月はいっそう腕に力を込めてあたしを抱き寄せた。

「だから重いっての、縮む」

 もしかして、あたしと同じくらいの身長しかない、彼とバッテリーを組んでいる足立なんかも、こうして如月に抱き締められたりするのかな、なんて気持ち悪い事を考えていると、クスクスと低い笑いが耳元で落とされる。

「こんなんで縮んだら、ギネスもの」

 如月は、ゆっくりと笑いを収めていく。
 再び、ぼろぼろと泣いている空に、銀色の光が走った。

「――本当に、好きだったんだよ」

「うん。知ってる」

「でも、駄目だった」

「――うん」

 あたしの肩に額を押し付け、ぽつりぽつりと主語の無い言葉を漏らす如月を慰めるように、あたしは首を傾ける。
 首筋を擽る如月の髪が、少しくすぐったかったけれど、いつものように。

「また、恋するよ。大丈夫」

 少しの沈黙の後に、そうだな。と如月は答え、あたしを腕から解放した。