君が忘れた物語

 のだが。

 「秋岡くん、説明して」

 後日、夏目さんからの接触があったらしい春木さんは、原因が俺だとすぐさま察知して、詰問してきた。

 「で、でも、メイクはしてくれるって……」

 「それはありがたいし楽しみだけど、だからって……。せめて相談はしてほしかった」

 「……勝手に決めてごめん。ちゃんと相談するべきだった」

 その通りだ。自らひとりでいようとする春木さんの気持ちを、もっと考慮すべきだった。良かれと思って、ではあるけど、それはただの俺のお節介なんだ。

 「まあ、言っちゃったなら仕方ないしいいよ。夏目さん、いい人そうだし」

 実際、夏目さんはいい人だし、そう感じたからこそ承諾したのはある。もしも春木さんがなにかの問題を抱えてクラスに馴染もうとしていないのであれば、きっと同性の友人として夏目さんは助けになってくれると思ったから。

 「気遣いも嬉しいけど、夏目さんと関わると無駄に注目されそうだなぁ……」

 「大丈夫。そこはちゃんと言ってあるから」

 「……ならいいけど」

 そこまでクラスメイトと馴染むことを避けている理由に踏み込むことは躊躇(ためら)われたけど、わからないなりに春木さんの役に立てたらいいと思った。

 「それで、今から美術室に行くんだけどいい? そこで夏目さんが待ってるから」

 「わかった」

 そこが人目の少ない目立たない場所なのだと納得したようで、俺と春木さんはそのまま校舎内の端に位置する美術室に向かった。