そろそろ秋が深まり、雪の予報が始まりそうな乾燥した寒空の下、次の会う日がやってきた。この二年半の中で何度も待ち望んだ朝。昨晩のうちに招待するための家の準備はすべて済ませていて、新調したメイク用品に、新しく練習していたヘアアレンジと、私自身が彼を出迎えるための準備も万端だ。
「奏多おはよ! 今日やっと会えるよ!」
私の元気すぎる声に、奏多は寝ぼけながらも苦笑して『待っててね』なんて返答してくれる。
早朝のバスに乗る奏多を電話で起こして、そうして会う日も朝から声を聞くのがいつも会う日の流れだ。それから都度、どこどこを通り過ぎたという道中の報告のメッセージが届いたり、バスの窓越しの風景の写真が送られてきたり、そんなことを経て片道十時間の長旅の末に会いにきてくれていたのだけど。
朝電話で起こしてから準備をしてくると言われた以降、返信が途絶えていた。
たまに、バスに乗ってからすぐに眠りに落ちて、長らく返信がない、なんてことはあったのだけど、バスに乗ったという報告すらないのははじめてだった。
何かあったのだろうか。バスが事故にあったのか、それともバス停に向かう道中で……。楽しみに浮かれていた思考は落ち着き、次々と嫌な予感が頭をもたげ、いつか見たニュースの事故映像が、超記憶により鮮明に蘇ってくる。
私の心の安寧を何よりも重んじてくれる奏多から、こうして違和感なほどに返信がないというのは、それほど心配が立ち込めるようなことだった。
そして、次に返信があったのは、本来であれば私の住む街から一番近くの都市でバスを乗り換えたと報告が入るような昼過ぎの時間帯だった。『まだここから三時間もかかる!』なんて少し愚痴っぽく言ってくるところなのに。返ってきたメッセージは、まるで違う内容だった。
【ごめん、バス乗り過ごして、辿り着けそうにない】
寝過ごしてしまって、乗り換えのバスに間に合わなかったのだろうか。ただ、辿り着けないという言い方が気になって、先程よりもなぜかものすごい嫌な予感がして、気づけば衝動的に通話のボタンを押していた。
四コール目で『もしもし』と愛おしい声が聞こえた。
「奏多? どうしたの、なにかあった?」
『…………』
明確な返答は戻ってこない。重く冷たい沈黙は、会えることを楽しみにしていた私の心を、たちまちに真っ暗な不安へと変えていく。
「奏多……?」
『……なにもないよ』
それは温度感のない声だった。
『というか、なにもわからない』
それは安堵感のない言葉だった。
『ごめん瑚子、今日は会いに行けない』
そう言い放たれたかと思えば、一方的に通話を切られてしまい、困惑と虚しさが静寂の中に残った。
奏多が来てくれるのを心待ちにして準備していた自室が、今はすごく目障りに思えてしまう。
「どうしたの、奏多……」
また私に相談とかなく、自分の中だけで何かを抱えているのだろうか。
私は、少しでも支えられる相手でいたいと思っているし、なんだって受け止めるって言ったはずだよ、と、そんな思考が不安という感情の輪郭をなぞるように脳裏に蠢いていた。
「奏多おはよ! 今日やっと会えるよ!」
私の元気すぎる声に、奏多は寝ぼけながらも苦笑して『待っててね』なんて返答してくれる。
早朝のバスに乗る奏多を電話で起こして、そうして会う日も朝から声を聞くのがいつも会う日の流れだ。それから都度、どこどこを通り過ぎたという道中の報告のメッセージが届いたり、バスの窓越しの風景の写真が送られてきたり、そんなことを経て片道十時間の長旅の末に会いにきてくれていたのだけど。
朝電話で起こしてから準備をしてくると言われた以降、返信が途絶えていた。
たまに、バスに乗ってからすぐに眠りに落ちて、長らく返信がない、なんてことはあったのだけど、バスに乗ったという報告すらないのははじめてだった。
何かあったのだろうか。バスが事故にあったのか、それともバス停に向かう道中で……。楽しみに浮かれていた思考は落ち着き、次々と嫌な予感が頭をもたげ、いつか見たニュースの事故映像が、超記憶により鮮明に蘇ってくる。
私の心の安寧を何よりも重んじてくれる奏多から、こうして違和感なほどに返信がないというのは、それほど心配が立ち込めるようなことだった。
そして、次に返信があったのは、本来であれば私の住む街から一番近くの都市でバスを乗り換えたと報告が入るような昼過ぎの時間帯だった。『まだここから三時間もかかる!』なんて少し愚痴っぽく言ってくるところなのに。返ってきたメッセージは、まるで違う内容だった。
【ごめん、バス乗り過ごして、辿り着けそうにない】
寝過ごしてしまって、乗り換えのバスに間に合わなかったのだろうか。ただ、辿り着けないという言い方が気になって、先程よりもなぜかものすごい嫌な予感がして、気づけば衝動的に通話のボタンを押していた。
四コール目で『もしもし』と愛おしい声が聞こえた。
「奏多? どうしたの、なにかあった?」
『…………』
明確な返答は戻ってこない。重く冷たい沈黙は、会えることを楽しみにしていた私の心を、たちまちに真っ暗な不安へと変えていく。
「奏多……?」
『……なにもないよ』
それは温度感のない声だった。
『というか、なにもわからない』
それは安堵感のない言葉だった。
『ごめん瑚子、今日は会いに行けない』
そう言い放たれたかと思えば、一方的に通話を切られてしまい、困惑と虚しさが静寂の中に残った。
奏多が来てくれるのを心待ちにして準備していた自室が、今はすごく目障りに思えてしまう。
「どうしたの、奏多……」
また私に相談とかなく、自分の中だけで何かを抱えているのだろうか。
私は、少しでも支えられる相手でいたいと思っているし、なんだって受け止めるって言ったはずだよ、と、そんな思考が不安という感情の輪郭をなぞるように脳裏に蠢いていた。



