本来、「姉」という存在は、どのようなものだろうか?
巷の噂では、とても頼りになる存在らしい。激怒する母親から守ってくれたり、一緒に怒られて緩衝材になってくれたりする事もあるらしい。
友人の話では、遊びに行ったときにはお土産を買ってきたり、誕生日にはサプライズのプレゼントを用意してくれる事があるらしい。食事を奢ってくれたり、映画代金を負担した上で誘ってくれたりもするとか。
作り話だと思う。
テレビドラマでは、上手くいかなくて落ち込んでいると陰ながら支えになり、立ち直る手助けをしてくれる。さりげなく助言をしてくれる事だってある。
どの世界線でも女神に匹敵する存在だ。いつも弟の味方で、慈しみ、励まし、共に前進する。そんな光り輝く存在が「姉」だと定義されている。
絵空事だと確信している。
4つ年上の姉はクソったれな存在だ。
父親が他界した年の4月。一番大変な時期に、姉はさっさと進学先の大学があるこの街に引っ越して行った。決して実家から通えない距離ではなかったが、まだ落ち着かない母を残して家からいなくなった。中学3年生で反抗期真っ只中だったため、思い切り荒れた。荒れたといっても、夜の校舎を窓ガラス壊して回ったりした訳ではない。ただ、誰の言葉も信じなくなって、今思えば恥ずかしい悪態をつきまくっただけだ。
基本的に、姉は何でもできた。
外見は・・・血縁者であるだけに、大した違いはない。よく見掛ける田舎で背伸びをしている学生でしかなかった。しかし、自分とは違い勉強ができた。確かに、自宅でいつも勉強をしていたが、常に学年で10番以内に入るレベルの優秀さだった。だからといって、運動ができないタイプでもない。走れば短距離も長距離も陸上部と張り合えたし、球技全般も得意だった。時々、バスケットボール部やバレー部に助っ人として呼ばれていたほどだ。
全ての面でトップクラスだった。
そんな状況にも関わらず、姉は美術部に入部して絵を描いていた。正直なところ絵はあまり上手くはなかったが、片手間で習っていた書道は8段だ。どうかしている。
そんな姉が卒業して1年後に、同じ高校に進学した。
いくら偏差値が高くても、田舎ではランク上の高校が遠いため同じ学校に進学することが多い。通学が難しい事が根本的な原因ではあるが、実施に進学すると結構厳しい状況に晒されてしまう。偏差値が上は70から下は55くらいまでの人が入り乱れているのだ。都会では有り得ないが、田舎では普通に発生する事故だ。当然、学校内での格差が激しくなる。上位の生徒は学校からも教師からも優遇され、下位の者は完全にお荷物と化してしまう。当然のように姉は上位数パーセントの人間だった。
入学すると、学校からも教師からもあの姉の弟として見られる。名前を覚えられることもなく、弟として認識される。そして、その期待をことごとく裏切ってしまう。
「姉はできたのに」だとか、「姉とは違ってダメだな」だとか、言われ続けた。これだけでも、「姉の存在が疎ましくて仕方がない」という理由には十分だと思う。それに加え、姉は一番大変なときに逃げ出した人間だ。仲が良くなる要素が微塵も無い。
当然、父親も母親も姉にだけに期待していた。
通わせてもらえなかった学習塾に中学2年生のときから行っていたし、テストの結果が良いときには特別に小遣いも貰っていた。まあ、これについては結果が違うので、仕方がないことだと納得はしている。
姉の発表会等には必ず出席していたのに、中学最後の試合には来てくれなかった。中学のバスケットボール部はそこそこ強かったため、地区大会の決勝戦までは勝ち残った。それなに、最後まで家族は誰も応援に来なかった。高校のときは、もう伝えることもしなかった。
もう6年間も一緒に生活をしていないし、姉とは元々仲良くもない。自分から関係性を改善するつもりもない。それなのに、月1回のペースで連絡がある。一度完全にスルーしたことがあったが、その後、あまりにもしつくこく電話が鳴ったため、今は素直に出ることにしている。
話すことなど何も無い。「うん」「ああ」「いや」の3種類を録音しておけば事足りるレベルだ。何がしたいのか、まったく理解できない。
今回の電話も、いつもの定期連絡だと思っていた。
道路脇でバイクを停め、スマートフォンを取り出して登録しておいた住所を地図アプリで検索する。一度も訪れたことはないが、姉の住まいがこの辺りだということくらいは知っている。
「道を真っ直ぐ行って、3つ目の通りを右折して、30メートルくらい。そこにある5階建ての賃貸マンション・・・か」
視線を前に向け、地図が示している方向を見ると、白い壁のマンションが見えた。バルコニーの感じからワンルームか1DKくらいの間取りだと想像できる。
「・・・とりあえず、行ってみるか」
そう呟いて、そのマンションに向かってバイクを走らせた。
マンションに到着すると、敷地内が駐車場になってた。駐車できる台数は10台程度ではあるが、そこに姉の軽自動車が停まっていた。天候を見据えて、台風が通り過ぎてから移動しようと考えているのかも知れない。
「後悔するな、とか、今すぐ向かえとか言ったくせに」
そう文句を言いながら、マンションの陰にバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。そして仕方なく、初めて自分から姉に電話をかけた。
巷の噂では、とても頼りになる存在らしい。激怒する母親から守ってくれたり、一緒に怒られて緩衝材になってくれたりする事もあるらしい。
友人の話では、遊びに行ったときにはお土産を買ってきたり、誕生日にはサプライズのプレゼントを用意してくれる事があるらしい。食事を奢ってくれたり、映画代金を負担した上で誘ってくれたりもするとか。
作り話だと思う。
テレビドラマでは、上手くいかなくて落ち込んでいると陰ながら支えになり、立ち直る手助けをしてくれる。さりげなく助言をしてくれる事だってある。
どの世界線でも女神に匹敵する存在だ。いつも弟の味方で、慈しみ、励まし、共に前進する。そんな光り輝く存在が「姉」だと定義されている。
絵空事だと確信している。
4つ年上の姉はクソったれな存在だ。
父親が他界した年の4月。一番大変な時期に、姉はさっさと進学先の大学があるこの街に引っ越して行った。決して実家から通えない距離ではなかったが、まだ落ち着かない母を残して家からいなくなった。中学3年生で反抗期真っ只中だったため、思い切り荒れた。荒れたといっても、夜の校舎を窓ガラス壊して回ったりした訳ではない。ただ、誰の言葉も信じなくなって、今思えば恥ずかしい悪態をつきまくっただけだ。
基本的に、姉は何でもできた。
外見は・・・血縁者であるだけに、大した違いはない。よく見掛ける田舎で背伸びをしている学生でしかなかった。しかし、自分とは違い勉強ができた。確かに、自宅でいつも勉強をしていたが、常に学年で10番以内に入るレベルの優秀さだった。だからといって、運動ができないタイプでもない。走れば短距離も長距離も陸上部と張り合えたし、球技全般も得意だった。時々、バスケットボール部やバレー部に助っ人として呼ばれていたほどだ。
全ての面でトップクラスだった。
そんな状況にも関わらず、姉は美術部に入部して絵を描いていた。正直なところ絵はあまり上手くはなかったが、片手間で習っていた書道は8段だ。どうかしている。
そんな姉が卒業して1年後に、同じ高校に進学した。
いくら偏差値が高くても、田舎ではランク上の高校が遠いため同じ学校に進学することが多い。通学が難しい事が根本的な原因ではあるが、実施に進学すると結構厳しい状況に晒されてしまう。偏差値が上は70から下は55くらいまでの人が入り乱れているのだ。都会では有り得ないが、田舎では普通に発生する事故だ。当然、学校内での格差が激しくなる。上位の生徒は学校からも教師からも優遇され、下位の者は完全にお荷物と化してしまう。当然のように姉は上位数パーセントの人間だった。
入学すると、学校からも教師からもあの姉の弟として見られる。名前を覚えられることもなく、弟として認識される。そして、その期待をことごとく裏切ってしまう。
「姉はできたのに」だとか、「姉とは違ってダメだな」だとか、言われ続けた。これだけでも、「姉の存在が疎ましくて仕方がない」という理由には十分だと思う。それに加え、姉は一番大変なときに逃げ出した人間だ。仲が良くなる要素が微塵も無い。
当然、父親も母親も姉にだけに期待していた。
通わせてもらえなかった学習塾に中学2年生のときから行っていたし、テストの結果が良いときには特別に小遣いも貰っていた。まあ、これについては結果が違うので、仕方がないことだと納得はしている。
姉の発表会等には必ず出席していたのに、中学最後の試合には来てくれなかった。中学のバスケットボール部はそこそこ強かったため、地区大会の決勝戦までは勝ち残った。それなに、最後まで家族は誰も応援に来なかった。高校のときは、もう伝えることもしなかった。
もう6年間も一緒に生活をしていないし、姉とは元々仲良くもない。自分から関係性を改善するつもりもない。それなのに、月1回のペースで連絡がある。一度完全にスルーしたことがあったが、その後、あまりにもしつくこく電話が鳴ったため、今は素直に出ることにしている。
話すことなど何も無い。「うん」「ああ」「いや」の3種類を録音しておけば事足りるレベルだ。何がしたいのか、まったく理解できない。
今回の電話も、いつもの定期連絡だと思っていた。
道路脇でバイクを停め、スマートフォンを取り出して登録しておいた住所を地図アプリで検索する。一度も訪れたことはないが、姉の住まいがこの辺りだということくらいは知っている。
「道を真っ直ぐ行って、3つ目の通りを右折して、30メートルくらい。そこにある5階建ての賃貸マンション・・・か」
視線を前に向け、地図が示している方向を見ると、白い壁のマンションが見えた。バルコニーの感じからワンルームか1DKくらいの間取りだと想像できる。
「・・・とりあえず、行ってみるか」
そう呟いて、そのマンションに向かってバイクを走らせた。
マンションに到着すると、敷地内が駐車場になってた。駐車できる台数は10台程度ではあるが、そこに姉の軽自動車が停まっていた。天候を見据えて、台風が通り過ぎてから移動しようと考えているのかも知れない。
「後悔するな、とか、今すぐ向かえとか言ったくせに」
そう文句を言いながら、マンションの陰にバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。そして仕方なく、初めて自分から姉に電話をかけた。



