窓の外に視線を移す。
どう考えても、公共交通機関を利用するしかない。最寄り駅まで徒歩で移動し、そこから電車に乗る方法。ここから駅までは徒歩で15分ほど。暴風雨の中であろうが、濡れる覚悟さえあればどうにかなる。
ここで、「そういえば」とテレビ画面のテロップを思い出す。スマートフォンで電車の運行情報を確認すると、見事なまでの全線運行停止の文字。今日は終日動く気配がない。
それなら、と、今度はバスの運行状況を確認する。電車は強風による倒木等の影響で停止しやすいが、バスのは少々の天候不良では運行していることが多い。
「運行停止、かよ・・・」
この街の実家がある街を繋ぐ直通のバス路線は、1日に3本ほど往復している。バス自体は運行しているものの、実家がある街に入る手前で土砂崩れが発生し、運休になったよのことだった。
公共の交通手段は、この2つ以外の方法はない。そうなると、自力での移動になってしまう。
窓から外を見ると、変わらず暴風が吹き荒れている。
歩行者も自転車で移動している人も、当然のように見当たらない。そもそも、自動車すらほとんど走っていない。そういえば、さっきのニュースで横転するトラックが映し出されていた。
窓から見える駐輪場に、自分のバイクが停まっている。
一応屋根は設置されているが、横殴りの雨と飛んできたゴミとでみすぼらしい状態になっている。その愛車を眺めて嘆息する。
必要な物を薄手のジャンパーのポケットに無理矢理押し込み、部屋の電気を消す。玄関先で厚手の合羽を羽織り、もう1度大きくため息を吐く。
「行ってくるか」
自分に言い聞かせるように声に出し、強風で押し込まれている扉に体重を掛けて開けた。
雨ざらしの廊下を歩き、階段を下りて駐輪場に向かう。
駐輪場の自転車は大半がドミノ倒しになっていて、バイクに寄りかかっているものまである。軽く舌打ちをしてバイクに近付き、シートに寄り掛かっていす自転車を起した。
どうなるかは分からないが、これで行くしかない。
シートに跨るとキーを挿し込み、キックスターターを踏み込む。
ブルルンという駆動音を立てるものの、雨で冷えているのかエンジンはかからない。もう1度、2度目、3度目でようやくエンジンが始動した。
この悪天候。距離を考えると、途中で1度給油して4時間で着けばいいところだろうか。それでも、もう、あの時のような後悔はしたくない。言葉はその場限りだけど、人の思いは変わっていく。あの時に感じていたことと、今感じていることは違う。言葉は置き去りになっているけど、時間は止まらない。
だから、もう後悔はしたくないんだ。
道路まで出ると、遮蔽物が無くなった影響なのか、時折吹き荒れる突風によってバイクごと倒れそうになる。自分以外の人には、とてもオススメできない移動方法だ。さあ、行こうか。
スロットルを回そうとした瞬間、唐突に雨が止んだ。
信号機を揺らしていた強風が止んでいる。
徐々に明るくなっていく。
夕方のような景色が、夜が明けたように鮮明になる。
真上に太陽が見えた。
神様の奇跡?
と一瞬思ったが、子どもの頃から思っていた不思議に取り込まれたことに気が付いた。思わず口元が緩む。
「台風の目じゃん」
子どもの頃、天気予報を見ていてずっと思っていた。いや、だれもが願ってきたはずだ。
台風の目に入ること。
人生で1度あるかどうかの体験。
本当に、台風の目の中は晴れているのか?
一度でいいから、あの中に入ってみたい、と。
「ははは、快晴じゃん」
以前、ヒマなときにネットで調べたころがある。台風の目の大きさはどれくらいなのか。超大型の強い台風だと直径が200キロなんてこともあるらしいが、そんな巨大な台風が上陸することはない。天気予報で見た感じだと、大きくて直径が60キロあるかどうか。
今から偏西風に乗って速度を上げていくだろうが、現状の速度は時速20キロ程度。つまり、3時間ほどは台風の目の中にいられる可能性がある。その中を移動できれば、悪天候の影響を受けなくて済む可能性がある。
夢物語を頭の中で連想しながらスロットルを回す。
実家のある方向は北東方向。台風の予想進路は北北東。可能性はゼロではない。途中まででもいい。少しでも距離を稼ぐことができるだけでも助かる。
台風の目の中を、暴風雨との境界線に追い掛けられながら移動する。いくら台風の方が遅いとはいえ、悪化している道路の状態や信号で停まることを考慮すれば余裕は全くない。そもそも、空中を移動している台風は直進しているが、バイクは蛇行する道路に沿ってしか移動ができないのだ。
水溜りで路面状態が悪化している中、飛来物を避けながら悠太が運転するバイクは母が搬送された病院向かって走り始めた。
どう考えても、公共交通機関を利用するしかない。最寄り駅まで徒歩で移動し、そこから電車に乗る方法。ここから駅までは徒歩で15分ほど。暴風雨の中であろうが、濡れる覚悟さえあればどうにかなる。
ここで、「そういえば」とテレビ画面のテロップを思い出す。スマートフォンで電車の運行情報を確認すると、見事なまでの全線運行停止の文字。今日は終日動く気配がない。
それなら、と、今度はバスの運行状況を確認する。電車は強風による倒木等の影響で停止しやすいが、バスのは少々の天候不良では運行していることが多い。
「運行停止、かよ・・・」
この街の実家がある街を繋ぐ直通のバス路線は、1日に3本ほど往復している。バス自体は運行しているものの、実家がある街に入る手前で土砂崩れが発生し、運休になったよのことだった。
公共の交通手段は、この2つ以外の方法はない。そうなると、自力での移動になってしまう。
窓から外を見ると、変わらず暴風が吹き荒れている。
歩行者も自転車で移動している人も、当然のように見当たらない。そもそも、自動車すらほとんど走っていない。そういえば、さっきのニュースで横転するトラックが映し出されていた。
窓から見える駐輪場に、自分のバイクが停まっている。
一応屋根は設置されているが、横殴りの雨と飛んできたゴミとでみすぼらしい状態になっている。その愛車を眺めて嘆息する。
必要な物を薄手のジャンパーのポケットに無理矢理押し込み、部屋の電気を消す。玄関先で厚手の合羽を羽織り、もう1度大きくため息を吐く。
「行ってくるか」
自分に言い聞かせるように声に出し、強風で押し込まれている扉に体重を掛けて開けた。
雨ざらしの廊下を歩き、階段を下りて駐輪場に向かう。
駐輪場の自転車は大半がドミノ倒しになっていて、バイクに寄りかかっているものまである。軽く舌打ちをしてバイクに近付き、シートに寄り掛かっていす自転車を起した。
どうなるかは分からないが、これで行くしかない。
シートに跨るとキーを挿し込み、キックスターターを踏み込む。
ブルルンという駆動音を立てるものの、雨で冷えているのかエンジンはかからない。もう1度、2度目、3度目でようやくエンジンが始動した。
この悪天候。距離を考えると、途中で1度給油して4時間で着けばいいところだろうか。それでも、もう、あの時のような後悔はしたくない。言葉はその場限りだけど、人の思いは変わっていく。あの時に感じていたことと、今感じていることは違う。言葉は置き去りになっているけど、時間は止まらない。
だから、もう後悔はしたくないんだ。
道路まで出ると、遮蔽物が無くなった影響なのか、時折吹き荒れる突風によってバイクごと倒れそうになる。自分以外の人には、とてもオススメできない移動方法だ。さあ、行こうか。
スロットルを回そうとした瞬間、唐突に雨が止んだ。
信号機を揺らしていた強風が止んでいる。
徐々に明るくなっていく。
夕方のような景色が、夜が明けたように鮮明になる。
真上に太陽が見えた。
神様の奇跡?
と一瞬思ったが、子どもの頃から思っていた不思議に取り込まれたことに気が付いた。思わず口元が緩む。
「台風の目じゃん」
子どもの頃、天気予報を見ていてずっと思っていた。いや、だれもが願ってきたはずだ。
台風の目に入ること。
人生で1度あるかどうかの体験。
本当に、台風の目の中は晴れているのか?
一度でいいから、あの中に入ってみたい、と。
「ははは、快晴じゃん」
以前、ヒマなときにネットで調べたころがある。台風の目の大きさはどれくらいなのか。超大型の強い台風だと直径が200キロなんてこともあるらしいが、そんな巨大な台風が上陸することはない。天気予報で見た感じだと、大きくて直径が60キロあるかどうか。
今から偏西風に乗って速度を上げていくだろうが、現状の速度は時速20キロ程度。つまり、3時間ほどは台風の目の中にいられる可能性がある。その中を移動できれば、悪天候の影響を受けなくて済む可能性がある。
夢物語を頭の中で連想しながらスロットルを回す。
実家のある方向は北東方向。台風の予想進路は北北東。可能性はゼロではない。途中まででもいい。少しでも距離を稼ぐことができるだけでも助かる。
台風の目の中を、暴風雨との境界線に追い掛けられながら移動する。いくら台風の方が遅いとはいえ、悪化している道路の状態や信号で停まることを考慮すれば余裕は全くない。そもそも、空中を移動している台風は直進しているが、バイクは蛇行する道路に沿ってしか移動ができないのだ。
水溜りで路面状態が悪化している中、飛来物を避けながら悠太が運転するバイクは母が搬送された病院向かって走り始めた。



