波にはじまり、波におわる。

「そんな体調が悪い母さんに、あんたは迷惑ばっかり掛けてたよね。反抗的な態度とかはさ、私も通った道だから仕方ないと思うけどさ。大人になってくると、何であんなバカなことを言っていたんだろうとか、いちいち反抗せず素直に聞いておけば良かったのにとか思うけど。あの頃は『世界のすべてが自分の敵』みたいな歌が好きになったり、アングラ的なことがカッコ良いとか勘違いして。
 というか、あんたの場合、今でも反抗期真っ只中よね。それ、カッコ悪いからやめた方が良いわよ。そんなの、中学と一緒に卒業しないと」

 唐突に始まったディスりに心を抉られながらも、言い返すことができない自分がいた。確かに、20歳になった今でも、反抗期を継続している自覚はある。
 さすがに、反抗的な口調で言い返したりはしない。ただ、連絡しない、帰省しない、電話に出ない、メールをスルー・・・確かに、第三者からしたら情けなくなるだろうな。それに、「親孝行したいときには親は無し」という有名な(コトワザ)もある。「さればとて、石にふとんも着せられず」という、あまり知られていない続きがあったりする。父親が亡くなったときに、嫌というほど思い知ったことなのに。

「確かに、そうだよなあ・・・とりあえず、盆と正月には帰省することにしようかな。ただ、母さんの方はどうなんだろうな。いつも邪険にされていたし、帰って来ない方が良い、とか思ってる可能性も否定できないんだけどね」
 そう口にすると、運転中にも関わらず、姉が信じられないものを見るような視線を向けてきた。
「は? 何を言ってるの?」
「は? どういう意味?」
 今度は、コチラ側が目を丸くする番だった。

「あんなに愛情が深い人もないと思うけれど。そもそも、高校1年生の頃にあんたが同級生を殴ってケガをさせたとき、誰が尻拭いしたと思ってるの?それに、実家の田植えや稲刈り、誰がしていると思ってるわけ?あんたが手伝いもしないのがいけないのに、学生生活の邪魔はしたくないからって、母さんが1人で全部やっているんだけど?」
「そ、それは・・・」
「あんた、父さんが亡くなったとき、親戚や近所の人達の前で宣言してたよね。これからは自分が全部やるって。でも、結局、あんたは最初の3ヶ月間、しかも草刈だけしかやらなかったよね」
 手伝うだの任せろだの、相談してこいだの群がってくる大人達が鬱陶しくて、自分がやるから大丈夫だと言った。でも、面倒臭くて、麦藁帽子を被って汗まみれになることが格好悪くて、母がやっている姿を見て、やらなくても問題ないと思って。
「本当に、くだらない。どうでもいい自尊心のために、自分の言葉に責任を持たず、若くもない母親に重労働を押し付けて反抗的な態度? もう、いい加減にしなさいよ」

 耳が痛いことを一方的に言われ、打ち消そうとして口を開くが何も言葉が出てこない。それは、本当のことを言われたからだ。それが事実で、自分の罪だと理解したからだ。

「あんたが高校1年生のとき、1学期の終業式の日よ。大学が夏休みで実家に帰っているときだから覚えてる。学校から母さんに対して呼び出しの電話があった。当然、覚えているわよね?そのとき、私も母さんについて学校に行ったの。
 誰もいなくなった教室に呼ばれ、警察官が犯人を尋問するような口調で担任から告げられた。あんたが、クラスメートを殴ってケガをさせたって。担任が言うには、普通に話しをしていただけなのに、突然キレて殴りかかったと。相手も、一緒にいた他のクラスメートも、全員それが事実だと言っているって。一方的にあんたが悪いから、相手に頭を下げて謝罪しろ、しないなら停学だと」

 問題を起したからと、夏休みに1週間ほど学校で奉仕作業をさせられたが、謝罪や停学とかといった話は初耳だ。

「停学とかなってないんだけど・・・」
「そりゃあ、母さんが暴れたからよ」
「は?」
「うちの子が理由もなく暴力を振るうはずがないから、絶対に何か理由があるはず。それをしっかりと調べてもらいたい。それをしないのであれば、このまま教育委員会に行って、学校の対応について相談させてもらう。ただ、暴力は良くない事なので、それについての処分については受けさせる。って言い切って、その場で知り合いの弁護士に電話を掛け始めてさ。
 それで、慌てた担任が相手と一緒にいたクラスメートを問い詰めたところ、相手の子が嘘を吐いていたことが分かって。まあ、あれよ、あんたは愛されてもいるし、守られてもきた」

 そんなことがあったなんて全く知らなかった。運が良かったとか、学校も処分するなどと脅してきたが、結局何もできないんだな、とか思っていた。
 言葉に詰まっていると、再び姉が口を開いた。

「あんたも二十歳(ハタチ)になったんだし、そろそろ、守られる側から、守る側にならないといけないんじゃないの?」

 確かに、その通りだ。
 口には出さなかったものの、姉の言葉に納得するしかない。
 自分の欲求を優先して、父親の霊前で宣言したことをあっさり放棄し、全てを母親に押し付けて逃げ出していた。年齢だとか責任だとか関係無く、やると決めたことは責任を負うべきだ。親の言いなりになる事が恥ずかしいだとか、主義主張も何もなく逆らう行為が格好良いだとか・・・何だそれ。

 本当に情けないのは、自分のことしか考えない自分自身じゃないか。