姉と2人きりになりことなど無かったため、何を話して良いのか分からず気まずい沈黙が続いた。どうやらそれは姉も同じようで、前を向いたまま助手席をチラリとも見ない。
それでも、姉は年上だという責任感からなのか、コホンと咳払いをして口を開いた。
「それで、最近どうなの?」
ちょっと意味が分からない。
最近どころか、生活環境の話などしたことがない。
どう答えたものか思案しながら、正面を向いたままで答えた。
「特に変わりない。普通に大学に行って、バイトに行って、帰って、寝るって感じかな。姉貴の方はどうなんだよ。彼氏とかできたのか?」
久し振りに会う同級生と会話をする調子で答えると、姉が道路に転がっている空き缶を避けながら振り向いた。
「ちょっ、前、前、前見て。危ないから!!」
「あ、う、うん。私も24歳だし、彼氏の1人や2人、3人や4人はいるわよ、当然っ」
あー、と思いながら、表情を変えないようにして前を向く。まだ24歳だし、今から良い人を見付けて頂きたい。
再び車内が静かになる。共通の話題や趣味がある訳でもなく、一緒に生活をしなくなって長い。性別が違うこともあり、元々同じ空間にいることも少なかった。とは言え、無理に会話をする必要はない。母親が入院している病院まで連れて行ってもらえれば良い。
その時、ブレーキを掛けて車がスピードを落とした。理由を確認しようとして前方に視線を送ると、道路に覆い被さるように竹が垂れ下がっていた。路面との間は1メートルほどしかない。そのまま通れないこともないだろうが、確実に車にキズが付く。
「ちょっと、停めて」
そう言うと、ゆっくりと車が停止した。
そにれを確認すると、助手席のドアを開けて外に出る。そのまま垂れ下がっている数本の竹を掴み、路肩の方へと引っ張った。
「さっさと通り抜けて!!」
そう叫ぶと姉の車が動き出し、10メートルほど先で停止した。竹を持ったままゆっくりと移動し、元の場所で放す。道路の維持管理をしている訳ではないので、通過できればその後のことまでは知ったことではない。
車の所まで小走りで移動し、再び助手席に乗り込んだ。
「あー、ありがとね」
「うん」
少しだけ、車内の空気が柔らかくなった気がした。
それでも、それ以降も会話が弾む、などということは無かった。基本的に姉の方向には、底が見えないほどの溝が掘ってあるのだ。橋でも架けない限りは通行できない。その橋を、自分から建設する予定は無い。当然、プライドが高い姉も自分からも、ジョイント・ベンチャーを申し出てくることもないだろう。
そう思っていたのだが、前方の路面状況を観察していると、唐突に姉が口を開いた。
「あんたさ、私のことキライでしょ?」
余りにも意外な問い掛けに、ゆっくりと振り返って言葉に詰まる。とてもではないが「当たり前だろ!!」とは言えない。それくらいの常識はある。とはいえ、「キライな訳ないだろ」とも返事はできない。たぶん、嘘を吐くと分かる。これでも一応、姉弟なのだから。
「ああ、いいの、いいの。答え難いよね。でも、無言ってことが明確な答えになってるから」
苦笑いしている姉をフォローしようとも思ったが、やめた。
「大丈夫、大丈夫。私も、あんたがキライだから」
歪んだ口元から吐き出された言葉に、目を見開いた。薄々分かってはいたが、姉がこんなにハッキリ口にするとは思わなかったのだ。
「もう、そろそろ、こういうのも決着しておいた方が良いと思うのよね。結局は、私たち2人になってしまうのだから」
道路は上り坂に差し掛かる。
この峠道を通り抜ければ、実家がある街に辿り着く。まだそこから病院までは距離があるが、それでも少しだけ気分が楽になるだろう。
「あんたが私をキライな理由は、だいたい分かってる」
姉に宣言に言い返そうとしるが、それを目で制される。
「私と比較されてイヤだったんでしょう?
お姉ちゃんはできたのに、何で弟のあなたはできないの?
お姉ちゃんの方が優秀だった。弟の方はイマイチだな。
そう言われてきたんじゃないの?それが悔しくて、逆恨みして、私のことを避けて、嫌っていたんじゃないの?」
完全に図星だった。
姉は前を向いて運転しながら、自嘲気味に笑う。
「それ、全部自分のせいよね?
私は少しも悪くない。
ただ一生懸命努力してきただけ。
私は完全に努力型の人間。頭が良いなんて思ったことがないし、人の倍以上頑張って、やっと人並み。3倍も4倍も勉強も運動もしていたから、学校でも上位に入ることができた。寝る時間を削って勉強して、朝晩ランニングをして、部活動も早朝練習も居残りして個人練習もした。だからレギュラーにもなったし、それなりに活躍もした。
だけど、あんたは違った。ちょっと勉強しただけで平均以上の点を取る。どんなスポーツだって、少しやっただけで人並み以上にできるようになる。そんなあんたが羨ましくて仕方がなかった。同時に、大キライだった。私が必死に努力して手に入れたものを、あんたは少しやっただけでできるようになって、興味無さそうに捨ててしまう。
あんたは、努力しないだけ。自分が頑張ろうとしないから、ずっと私に負け続けてきただけ。それを私のせいにして、勝手に恨んでいる。バッカじゃないの?本当に腹が立って仕方が無い。人のせいにすんなっつうの!!」
峠の頂上を越える瞬間、姉がコチラを向いて睨み付けてきた。
それでも、姉は年上だという責任感からなのか、コホンと咳払いをして口を開いた。
「それで、最近どうなの?」
ちょっと意味が分からない。
最近どころか、生活環境の話などしたことがない。
どう答えたものか思案しながら、正面を向いたままで答えた。
「特に変わりない。普通に大学に行って、バイトに行って、帰って、寝るって感じかな。姉貴の方はどうなんだよ。彼氏とかできたのか?」
久し振りに会う同級生と会話をする調子で答えると、姉が道路に転がっている空き缶を避けながら振り向いた。
「ちょっ、前、前、前見て。危ないから!!」
「あ、う、うん。私も24歳だし、彼氏の1人や2人、3人や4人はいるわよ、当然っ」
あー、と思いながら、表情を変えないようにして前を向く。まだ24歳だし、今から良い人を見付けて頂きたい。
再び車内が静かになる。共通の話題や趣味がある訳でもなく、一緒に生活をしなくなって長い。性別が違うこともあり、元々同じ空間にいることも少なかった。とは言え、無理に会話をする必要はない。母親が入院している病院まで連れて行ってもらえれば良い。
その時、ブレーキを掛けて車がスピードを落とした。理由を確認しようとして前方に視線を送ると、道路に覆い被さるように竹が垂れ下がっていた。路面との間は1メートルほどしかない。そのまま通れないこともないだろうが、確実に車にキズが付く。
「ちょっと、停めて」
そう言うと、ゆっくりと車が停止した。
そにれを確認すると、助手席のドアを開けて外に出る。そのまま垂れ下がっている数本の竹を掴み、路肩の方へと引っ張った。
「さっさと通り抜けて!!」
そう叫ぶと姉の車が動き出し、10メートルほど先で停止した。竹を持ったままゆっくりと移動し、元の場所で放す。道路の維持管理をしている訳ではないので、通過できればその後のことまでは知ったことではない。
車の所まで小走りで移動し、再び助手席に乗り込んだ。
「あー、ありがとね」
「うん」
少しだけ、車内の空気が柔らかくなった気がした。
それでも、それ以降も会話が弾む、などということは無かった。基本的に姉の方向には、底が見えないほどの溝が掘ってあるのだ。橋でも架けない限りは通行できない。その橋を、自分から建設する予定は無い。当然、プライドが高い姉も自分からも、ジョイント・ベンチャーを申し出てくることもないだろう。
そう思っていたのだが、前方の路面状況を観察していると、唐突に姉が口を開いた。
「あんたさ、私のことキライでしょ?」
余りにも意外な問い掛けに、ゆっくりと振り返って言葉に詰まる。とてもではないが「当たり前だろ!!」とは言えない。それくらいの常識はある。とはいえ、「キライな訳ないだろ」とも返事はできない。たぶん、嘘を吐くと分かる。これでも一応、姉弟なのだから。
「ああ、いいの、いいの。答え難いよね。でも、無言ってことが明確な答えになってるから」
苦笑いしている姉をフォローしようとも思ったが、やめた。
「大丈夫、大丈夫。私も、あんたがキライだから」
歪んだ口元から吐き出された言葉に、目を見開いた。薄々分かってはいたが、姉がこんなにハッキリ口にするとは思わなかったのだ。
「もう、そろそろ、こういうのも決着しておいた方が良いと思うのよね。結局は、私たち2人になってしまうのだから」
道路は上り坂に差し掛かる。
この峠道を通り抜ければ、実家がある街に辿り着く。まだそこから病院までは距離があるが、それでも少しだけ気分が楽になるだろう。
「あんたが私をキライな理由は、だいたい分かってる」
姉に宣言に言い返そうとしるが、それを目で制される。
「私と比較されてイヤだったんでしょう?
お姉ちゃんはできたのに、何で弟のあなたはできないの?
お姉ちゃんの方が優秀だった。弟の方はイマイチだな。
そう言われてきたんじゃないの?それが悔しくて、逆恨みして、私のことを避けて、嫌っていたんじゃないの?」
完全に図星だった。
姉は前を向いて運転しながら、自嘲気味に笑う。
「それ、全部自分のせいよね?
私は少しも悪くない。
ただ一生懸命努力してきただけ。
私は完全に努力型の人間。頭が良いなんて思ったことがないし、人の倍以上頑張って、やっと人並み。3倍も4倍も勉強も運動もしていたから、学校でも上位に入ることができた。寝る時間を削って勉強して、朝晩ランニングをして、部活動も早朝練習も居残りして個人練習もした。だからレギュラーにもなったし、それなりに活躍もした。
だけど、あんたは違った。ちょっと勉強しただけで平均以上の点を取る。どんなスポーツだって、少しやっただけで人並み以上にできるようになる。そんなあんたが羨ましくて仕方がなかった。同時に、大キライだった。私が必死に努力して手に入れたものを、あんたは少しやっただけでできるようになって、興味無さそうに捨ててしまう。
あんたは、努力しないだけ。自分が頑張ろうとしないから、ずっと私に負け続けてきただけ。それを私のせいにして、勝手に恨んでいる。バッカじゃないの?本当に腹が立って仕方が無い。人のせいにすんなっつうの!!」
峠の頂上を越える瞬間、姉がコチラを向いて睨み付けてきた。



