入学式。
最近の地球温暖化のせいで暖かくなってしまい、桜の花びらはほとんど落ちてしまった。その代わり、桜の花びらのじゅうたんが一面に広がっている。
「莉奈ー!」
そう言って私に抱き着いてきたのは、中学校から仲がいい朱莉だ。名前に入っている感じが同じということで仲が良くなり、高校まで同じになったのだ。
「朱莉…!」
私が笑顔で朱莉を見つめると、朱莉はニッと笑った。
「莉奈は何組だった?」
朱莉にそう聞かれて私は、
「5組だよ」
と答える。すると、朱莉は残念そうな表情を浮かべて
「私は三組だよ~。莉奈と離れてやっていけるのかなぁ~」
泣きまねをする朱莉を見る。私は朱莉ならどこでもやっていけると思っている。やっていけるか不安なのは私のほうだ。とことんコミュニケーション能力がない。
「じゃあ、またあとで」
私は朱莉に手を振る。
今日は担任の先生からのあいさつと、学校生活についての説明がある。
教室に入ると、すでにみんなが話していた。もう大きくグループは決まっていそうだ。
「あ…」
私は黒板に貼られている席の名簿を見て、自分の席に着く。すると、隣の席の男の子が私を見てきた。私は小さく会釈して、
「こんにちは」
という。すると、その人は、
「こんにちは」
と返事を返してくれた。よくみると、どこかで見たような顔だった。
(ま、そりゃ見たことがある人いるよね…)
私はそう思って考えるのをやめた。
きっと、”あの言葉”をくれた人ではないだろう……
長い長い担任の先生の話の後、私たちはやっと帰れることになった。桜のじゅうたんを踏みしめながら校門を超えようとしたとき、
「えっと、莉奈ちゃんだよね?」
突然、美人の女の子に話しかけられた。
(この人は、教室のグループの一つに入ってる人……)
私がその人のことを見つめていると、
「あたし、華!莉奈って名前、めちゃくそかわいいと思って!」
初対面で名前をほめられたのは初めてだ。私は顔が少し赤くなってしまった。
「ありがとう!えっと…華さん…?」
私がそういうと、華さんは首を横に振る。
「華ちゃんでいいよ!」
笑顔でそう言われて、私は嬉しくなる。
「じゃあ、華ちゃん、また明日!」
私ができるだけ笑顔でそう言うと、華ちゃんは手をぶんぶん振って帰っていった。
すると、後ろから肩をぽんとたたかれた。
「佐藤さん?」
名字で呼ばれて、私は驚く。
「えっと……」
私が返答に困っていると、その子はニコッと笑った。
「西中出身だよね?」
そう聞かれて私はこくんとうなずく。
「同じだ!クラスは違ったけどね」
私はその子と同じ中学だったことを知って、すこしうれしくなる。
「えっとなんて呼んだら…?」
私がそう聞くと、その子はまた笑顔を見せて、
「遥香!」
「私は莉奈!」
「じゃあ、莉奈ちゃん、また明日!」
そう言って遥香ちゃんは嵐のように去っていった。
(でも待って、あの子も教室にいたグループ作ってた子だよね?華ちゃんとは違うグループだったはず…)
私はそのあと大変な目に合うのに、その時は何も考えなかった。思考をやめてしまった。
その時のことをのちのち後悔するだろう。
入学から三か月、文化祭の季節がやってきた。
我が校、古宮高校では、文化祭を七月にやるのだ。
「莉奈ちゃん!あたしと一緒に委員やんない?」
そう言って声をかけてきたのは、華ちゃんだ。華ちゃんのグループのほかの子も引き連れている。
すると、遥香ちゃんも私の腕をつかんできた。そして、
「私たちとやろうよ!」
遥香ちゃんもまたグループのほかの子を引き連れている。
(うわぁ…これまずい状況かも…)
今まで二つのグループの中立の立場を守ってきたが、今日はうまくはいかなそうだ。
「えっと……」
私が返答に困っていると、華ちゃんがあからさまに不満を表し始める。それは遥香ちゃんもまた同じだ。
華ちゃんのグループと遥香ちゃんのグループはあまり仲が良くないのだ。
(どうしよう…)
私は考えた結果、今回も中立の立場を保った発言をすることにした。
「えっと……華ちゃんと遥香ちゃんと私の三人でやらない…?」
おずおずと聞くと、華ちゃんと遥香ちゃんは私をにらみつけてくる。
「佐藤さんってずーっとそうじゃない?」
「仲を取り持つためにやってるわけ?」
「いっつもへらへらしてて嫌なんだよね」
みんなの不満が一気にあふれ出す。すると、華ちゃんと遥香ちゃんも口を開き始めた。
「莉奈ちゃんは何がしたいの?」
「いつもへらへらしてて嫌なんだよね」
「どっちがいいのかはっきり言ったら?」
華ちゃんと遥香ちゃんにずいっと詰め寄られて私は返事ができない。
「え…」
答えられずにいる私を一瞥して華ちゃんと遥香ちゃんは私にこう言った。
「もういいよ、莉奈ちゃん」
「人と合わせてるばかりでつまんないよ、莉奈ちゃん」
そう言って二人は去っていった。
教室で一人になってしまった私を残して。
「文化祭実行委員は藤咲華さんと山口遥香さんに決まりました」
(あの事があってから、二人のグループは一気に仲が良くなった…)
しかし、私はずっと一人だ。時々悪口に陰口を言われることもある。
少し前までは二人にすがるようにしていたが、今ではそんな気力もない。
「あーどうしよ…」
私が悩んでいると、隣の席の男子が声をかけてきた。
「なんかあった…?」
優しくて勉強ができてスポーツ万能のクラスでもモテモテの男子の鈴木優介くん。
(確か…華ちゃんと遥香ちゃんのグループにも何人か好きな子がいたはず…)
そのことから私はあまり優介くんとかかわらないほうがいいと思った。またこれがいじめの種になると思ったからだ。
「あー…なんでもないよ」
いびつな笑みになってしまっただろうか、優介くんは心配そうな表情でこちらを見ている。
「やっぱ話しづらいか…じゃあ、放課後図書室で?」
そう聞かれて私はうなずいてしまった。断るべきなのに、力強くうなずいてしまった。
「図書室って確かこの辺…」
入学してから図書室で本を借りたことはない。ましてや、図書室に来たことがない。
(なんでまた鈴木くんは図書室を指定したんだろ…)
謎が深くて深くて困惑してしまう。鈴木くんがどういう人なのかもわからないのに、二人で放課後に会うことになったからだ。
図書室をコンコンとノックして、扉を開ける。中にはすでに鈴木くんがいた。
「やぁ、佐藤さん」
そう名前を呼ばれて、私は少しドキッとする。しかし、その気持ちはすぐに落ち着く。彼がどういう理由で私を呼んだのかを聞くのが一番大事だからだ。
「鈴木くんはどうして私にやさしくするの?」
私が私の中の純粋な疑問をぶつけると鈴木くんはニコッと笑った。
「なんとなく」
そんな答えが返ってきたもんだから、私は少しカチンと来てしまった。
「はぁっ?!じゃあ、私が来た意味ないじゃん!」
私がそう怒鳴りつけると、鈴木くんはまたにこっと笑みを浮かべた。そして、
「なんで俺が呼んだと思う?」
それまで本を読んでいた鈴木くんが目を私に向ける。その時、風がふわっと吹く。陽光が彼の顔に差し込む。彼のまつげが光に照らされ、色鮮やかな光景が目に飛び込んでくる。
それは普段、彼がクラスでも輝いているからなのか、それとも別の理由で輝いて見えるのか…。
(綺麗…)
私はこの瞬間、彼の顔を見るために図書室に来てしまったんだと思ってしまった。神様が見せてくれた最高の光景。
「……さん、さ…さん、佐藤さん?」
私ははっとした。自分の思いに深入りしすぎて、鈴木くんの声が聞こえてなかったのだ。
「えっと……」
私は、鈴木くんに聞こうとしていた質問を忘れてしまった。
「どうして俺が呼んだのか気になるんでしょ?」
そう聞かれて私はうなずく。すると、彼はゆっくりと話し始める。
「今まで藤咲さんと山口さんのグループで何か起こりそうだなって思って見てたらやっぱり…って感じ。だからせめて佐藤さんの気持ちを軽くできればなーって感じ」
鈴木くんはゆらっとした感じで自分の思いを語ったが、その言葉は想像以上に私の心に染み入った。深く切られた傷をいやす薬のように。
(うれしいなぁ…)
鈴木くんのやさしさに少しうれしさが出てくる。いじめが始まってから、この世界に私は独りぼっちだと思っていたけれど、ちゃんと見てくれている人がいたから。
「…っ」
涙がポタと膝に落ちる。頑張って止めようとしたが、止まらず、どんどんあふれてくる。
「佐藤さん、泣いてもいいよ?我慢する必要なんてない」
そう言われた瞬間、私の脳内には小学生の頃の男の子の言葉が浮かび上がった。
『出会いも別れもいつ起こるかは誰にもわかんねーよ』
チラリと彼の顔を見る。すると、目に飛び込んできたのは、小学生の頃であった男の子と顔が重なる鈴木くんの笑みだった。
(もしかして…本当にあの人…?)
私がポカンとしていると、鈴木くんはそっぽを向いた。
「じゃあ、またなんかあれば聞くから……LINE、交換する?」
私はそう聞かれてスマホを取り出す。
きっと彼の優しさは、私への好意ではなく、隣の席に座っているからだろう。
(うん…きっとそうだよ……)
私がそう思っていると、彼が手を差し出してきた。
「はい。帰るよね?昇降口まで送る」
そう言われて私は一瞬躊躇ってしまった。しかし、今の時間帯、残っている生徒は受験のある三年生だけだと思い、私は鈴木くんと一緒に昇降口に行くことにした。
「佐藤さん、本当に辛かったら、頼ってほしい。隣の席だからさ」
そう言われて私は少しがっかりする。でも、彼の少し柔らかい笑みを見て、嬉しくなる。
「ありがとう。何かあったときはよろしくね」
そう言うと、鈴木くんはニコッと笑ってくれた。
その頃
「先生の補習長すぎー」
「それな〜」
藤咲華と山口遥香は補習を終えた帰りだった。私たちは共通の敵として、佐藤莉奈を恨んでいる。
(だってあの子は…私のことを……)
藤咲華は心の中で舌打ちする。すると、
「華!あれ…」
遥香が指差したその先には鈴木くんと佐藤莉奈の姿が。
(私が仲良くしたかったのに…)
山口遥香もまた、舌打ちする。
「遥香…どういうこと……」
クラス一かっこいい鈴木くんのことが好きな人はたくさんいる。私たちのグループにも数人。
(あの子は釣り合わない)
きっと二人はそう思ったのだろう。
「遥香いくよ……」
「華、わかってる…」
二人は悪い笑みを浮かべて二人の背中をみる。もちろん佐藤莉奈だけを。
こうして莉奈に暗黒が迫っていく………。
最近の地球温暖化のせいで暖かくなってしまい、桜の花びらはほとんど落ちてしまった。その代わり、桜の花びらのじゅうたんが一面に広がっている。
「莉奈ー!」
そう言って私に抱き着いてきたのは、中学校から仲がいい朱莉だ。名前に入っている感じが同じということで仲が良くなり、高校まで同じになったのだ。
「朱莉…!」
私が笑顔で朱莉を見つめると、朱莉はニッと笑った。
「莉奈は何組だった?」
朱莉にそう聞かれて私は、
「5組だよ」
と答える。すると、朱莉は残念そうな表情を浮かべて
「私は三組だよ~。莉奈と離れてやっていけるのかなぁ~」
泣きまねをする朱莉を見る。私は朱莉ならどこでもやっていけると思っている。やっていけるか不安なのは私のほうだ。とことんコミュニケーション能力がない。
「じゃあ、またあとで」
私は朱莉に手を振る。
今日は担任の先生からのあいさつと、学校生活についての説明がある。
教室に入ると、すでにみんなが話していた。もう大きくグループは決まっていそうだ。
「あ…」
私は黒板に貼られている席の名簿を見て、自分の席に着く。すると、隣の席の男の子が私を見てきた。私は小さく会釈して、
「こんにちは」
という。すると、その人は、
「こんにちは」
と返事を返してくれた。よくみると、どこかで見たような顔だった。
(ま、そりゃ見たことがある人いるよね…)
私はそう思って考えるのをやめた。
きっと、”あの言葉”をくれた人ではないだろう……
長い長い担任の先生の話の後、私たちはやっと帰れることになった。桜のじゅうたんを踏みしめながら校門を超えようとしたとき、
「えっと、莉奈ちゃんだよね?」
突然、美人の女の子に話しかけられた。
(この人は、教室のグループの一つに入ってる人……)
私がその人のことを見つめていると、
「あたし、華!莉奈って名前、めちゃくそかわいいと思って!」
初対面で名前をほめられたのは初めてだ。私は顔が少し赤くなってしまった。
「ありがとう!えっと…華さん…?」
私がそういうと、華さんは首を横に振る。
「華ちゃんでいいよ!」
笑顔でそう言われて、私は嬉しくなる。
「じゃあ、華ちゃん、また明日!」
私ができるだけ笑顔でそう言うと、華ちゃんは手をぶんぶん振って帰っていった。
すると、後ろから肩をぽんとたたかれた。
「佐藤さん?」
名字で呼ばれて、私は驚く。
「えっと……」
私が返答に困っていると、その子はニコッと笑った。
「西中出身だよね?」
そう聞かれて私はこくんとうなずく。
「同じだ!クラスは違ったけどね」
私はその子と同じ中学だったことを知って、すこしうれしくなる。
「えっとなんて呼んだら…?」
私がそう聞くと、その子はまた笑顔を見せて、
「遥香!」
「私は莉奈!」
「じゃあ、莉奈ちゃん、また明日!」
そう言って遥香ちゃんは嵐のように去っていった。
(でも待って、あの子も教室にいたグループ作ってた子だよね?華ちゃんとは違うグループだったはず…)
私はそのあと大変な目に合うのに、その時は何も考えなかった。思考をやめてしまった。
その時のことをのちのち後悔するだろう。
入学から三か月、文化祭の季節がやってきた。
我が校、古宮高校では、文化祭を七月にやるのだ。
「莉奈ちゃん!あたしと一緒に委員やんない?」
そう言って声をかけてきたのは、華ちゃんだ。華ちゃんのグループのほかの子も引き連れている。
すると、遥香ちゃんも私の腕をつかんできた。そして、
「私たちとやろうよ!」
遥香ちゃんもまたグループのほかの子を引き連れている。
(うわぁ…これまずい状況かも…)
今まで二つのグループの中立の立場を守ってきたが、今日はうまくはいかなそうだ。
「えっと……」
私が返答に困っていると、華ちゃんがあからさまに不満を表し始める。それは遥香ちゃんもまた同じだ。
華ちゃんのグループと遥香ちゃんのグループはあまり仲が良くないのだ。
(どうしよう…)
私は考えた結果、今回も中立の立場を保った発言をすることにした。
「えっと……華ちゃんと遥香ちゃんと私の三人でやらない…?」
おずおずと聞くと、華ちゃんと遥香ちゃんは私をにらみつけてくる。
「佐藤さんってずーっとそうじゃない?」
「仲を取り持つためにやってるわけ?」
「いっつもへらへらしてて嫌なんだよね」
みんなの不満が一気にあふれ出す。すると、華ちゃんと遥香ちゃんも口を開き始めた。
「莉奈ちゃんは何がしたいの?」
「いつもへらへらしてて嫌なんだよね」
「どっちがいいのかはっきり言ったら?」
華ちゃんと遥香ちゃんにずいっと詰め寄られて私は返事ができない。
「え…」
答えられずにいる私を一瞥して華ちゃんと遥香ちゃんは私にこう言った。
「もういいよ、莉奈ちゃん」
「人と合わせてるばかりでつまんないよ、莉奈ちゃん」
そう言って二人は去っていった。
教室で一人になってしまった私を残して。
「文化祭実行委員は藤咲華さんと山口遥香さんに決まりました」
(あの事があってから、二人のグループは一気に仲が良くなった…)
しかし、私はずっと一人だ。時々悪口に陰口を言われることもある。
少し前までは二人にすがるようにしていたが、今ではそんな気力もない。
「あーどうしよ…」
私が悩んでいると、隣の席の男子が声をかけてきた。
「なんかあった…?」
優しくて勉強ができてスポーツ万能のクラスでもモテモテの男子の鈴木優介くん。
(確か…華ちゃんと遥香ちゃんのグループにも何人か好きな子がいたはず…)
そのことから私はあまり優介くんとかかわらないほうがいいと思った。またこれがいじめの種になると思ったからだ。
「あー…なんでもないよ」
いびつな笑みになってしまっただろうか、優介くんは心配そうな表情でこちらを見ている。
「やっぱ話しづらいか…じゃあ、放課後図書室で?」
そう聞かれて私はうなずいてしまった。断るべきなのに、力強くうなずいてしまった。
「図書室って確かこの辺…」
入学してから図書室で本を借りたことはない。ましてや、図書室に来たことがない。
(なんでまた鈴木くんは図書室を指定したんだろ…)
謎が深くて深くて困惑してしまう。鈴木くんがどういう人なのかもわからないのに、二人で放課後に会うことになったからだ。
図書室をコンコンとノックして、扉を開ける。中にはすでに鈴木くんがいた。
「やぁ、佐藤さん」
そう名前を呼ばれて、私は少しドキッとする。しかし、その気持ちはすぐに落ち着く。彼がどういう理由で私を呼んだのかを聞くのが一番大事だからだ。
「鈴木くんはどうして私にやさしくするの?」
私が私の中の純粋な疑問をぶつけると鈴木くんはニコッと笑った。
「なんとなく」
そんな答えが返ってきたもんだから、私は少しカチンと来てしまった。
「はぁっ?!じゃあ、私が来た意味ないじゃん!」
私がそう怒鳴りつけると、鈴木くんはまたにこっと笑みを浮かべた。そして、
「なんで俺が呼んだと思う?」
それまで本を読んでいた鈴木くんが目を私に向ける。その時、風がふわっと吹く。陽光が彼の顔に差し込む。彼のまつげが光に照らされ、色鮮やかな光景が目に飛び込んでくる。
それは普段、彼がクラスでも輝いているからなのか、それとも別の理由で輝いて見えるのか…。
(綺麗…)
私はこの瞬間、彼の顔を見るために図書室に来てしまったんだと思ってしまった。神様が見せてくれた最高の光景。
「……さん、さ…さん、佐藤さん?」
私ははっとした。自分の思いに深入りしすぎて、鈴木くんの声が聞こえてなかったのだ。
「えっと……」
私は、鈴木くんに聞こうとしていた質問を忘れてしまった。
「どうして俺が呼んだのか気になるんでしょ?」
そう聞かれて私はうなずく。すると、彼はゆっくりと話し始める。
「今まで藤咲さんと山口さんのグループで何か起こりそうだなって思って見てたらやっぱり…って感じ。だからせめて佐藤さんの気持ちを軽くできればなーって感じ」
鈴木くんはゆらっとした感じで自分の思いを語ったが、その言葉は想像以上に私の心に染み入った。深く切られた傷をいやす薬のように。
(うれしいなぁ…)
鈴木くんのやさしさに少しうれしさが出てくる。いじめが始まってから、この世界に私は独りぼっちだと思っていたけれど、ちゃんと見てくれている人がいたから。
「…っ」
涙がポタと膝に落ちる。頑張って止めようとしたが、止まらず、どんどんあふれてくる。
「佐藤さん、泣いてもいいよ?我慢する必要なんてない」
そう言われた瞬間、私の脳内には小学生の頃の男の子の言葉が浮かび上がった。
『出会いも別れもいつ起こるかは誰にもわかんねーよ』
チラリと彼の顔を見る。すると、目に飛び込んできたのは、小学生の頃であった男の子と顔が重なる鈴木くんの笑みだった。
(もしかして…本当にあの人…?)
私がポカンとしていると、鈴木くんはそっぽを向いた。
「じゃあ、またなんかあれば聞くから……LINE、交換する?」
私はそう聞かれてスマホを取り出す。
きっと彼の優しさは、私への好意ではなく、隣の席に座っているからだろう。
(うん…きっとそうだよ……)
私がそう思っていると、彼が手を差し出してきた。
「はい。帰るよね?昇降口まで送る」
そう言われて私は一瞬躊躇ってしまった。しかし、今の時間帯、残っている生徒は受験のある三年生だけだと思い、私は鈴木くんと一緒に昇降口に行くことにした。
「佐藤さん、本当に辛かったら、頼ってほしい。隣の席だからさ」
そう言われて私は少しがっかりする。でも、彼の少し柔らかい笑みを見て、嬉しくなる。
「ありがとう。何かあったときはよろしくね」
そう言うと、鈴木くんはニコッと笑ってくれた。
その頃
「先生の補習長すぎー」
「それな〜」
藤咲華と山口遥香は補習を終えた帰りだった。私たちは共通の敵として、佐藤莉奈を恨んでいる。
(だってあの子は…私のことを……)
藤咲華は心の中で舌打ちする。すると、
「華!あれ…」
遥香が指差したその先には鈴木くんと佐藤莉奈の姿が。
(私が仲良くしたかったのに…)
山口遥香もまた、舌打ちする。
「遥香…どういうこと……」
クラス一かっこいい鈴木くんのことが好きな人はたくさんいる。私たちのグループにも数人。
(あの子は釣り合わない)
きっと二人はそう思ったのだろう。
「遥香いくよ……」
「華、わかってる…」
二人は悪い笑みを浮かべて二人の背中をみる。もちろん佐藤莉奈だけを。
こうして莉奈に暗黒が迫っていく………。



