通り雨みたいな恋だった

時間が経てば、薄れると思っていた。

 あの距離も。
 あの時間も。
 あの人のことも。

 少しずつでいいから。

 思い出さなくなるって。

 気にしなくなるって。

 そう思っていたのに。

 全然、消えない。

 むしろ。

 静かになった分だけ、はっきり残っている。

 授業中。

 ふと、窓の外を見る。

 風が吹いて、木が揺れている。

 それだけなのに。

(あのときも、こんな感じだった)

 勝手に思い出す。

 帰り道の風。

 後ろにいた気配。

(……なんで今)

 関係ないのに。

 全然違うのに。

 なのに、つながる。

 やめようとしても、止まらない。

 夜。

 ベッドに入る。

 電気を消す。

 目を閉じる。

 静かになると。

 余計に浮かぶ。

 声。

 距離。

 あの時間。

(やめて)

 何度も思う。

 でも。

 消えない。

 そのまま、いつの間にか眠る。

 そして。

 夢を見る。

 帰り道。

 いつもの道。

 自転車に乗っている。

 後ろに、誰かいる。

 振り返らなくても分かる。

 あの人。

「遅い」

 いつもの声。

 少しだけ近くて。

「うるさい」

 いつもの返し。

 軽い会話。

 意味のない言葉。

 でも。

 すごく自然で。

 すごく、安心する。

 風が吹く。

 夕焼け。

 全部、あのときのまま。

(……これ)

 夢だって分かる。

 分かってるのに。

 終わってほしくないって思ってしまう。

 もう一回だけでいいから。

 このままでいさせてほしいって。

「なあ」

 後ろから声。

「なに」

「また明日な」

 その一言。

 いつも通り。

 でも。

 今は、少しだけ違う。

(……ないよ)

 もう、そんな明日はない。

 分かってる。

 その瞬間。

 目が覚める。

 真っ暗な部屋。

 静かな空気。

 夢だったって、すぐに分かる。

 でも。

 胸の奥が、じんわり痛い。

(……なんで)

 こんな夢、見なくていいのに。

 忘れたいのに。

 なのに。

 ちゃんと覚えてる。

 全部。

 次の日。

 学校へ行く。

 いつも通り。

 変わらない日常。

 でも。

 あの人を見ると。

 一瞬だけ、夢と重なる。

 あの距離。

 あの時間。

 すぐに切り離す。

(違う)

 もう違う。

 今は、ただのクラスメイト。

 それだけ。

 そう思っても。

 心は、追いつかない。

 まだどこかで。

 残っている。

 消えないまま。

 時間が経っても。

 距離が離れても。

 完全には、消えてくれない。

 むしろ。

 “終わったからこそ”。

 はっきり残る。

 触れられない形で。

 ずっと。

 そこにある。

(……なんだったんだろ)

 何度も考える。

 あの距離は。

 あの時間は。

 恋だったのか。

 違ったのか。

 答えは、出ない。

 でも。

 ひとつだけ、分かることがある。

 消えないってこと。

 どれだけ嫌いになろうとしても。

 どれだけ忘れようとしても。

 ちゃんと残る。

 形を変えて。

 痛みを少しだけ薄くして。

 でも。

 なくならない。

 それが。

 少しだけ、怖くて。

 少しだけ。

 大切だった。