通り雨みたいな恋だった

それは、すごくあっさりだった。

 昼休み。

 いつも通り、教室は少し騒がしくて。

 友達の声とか、笑い声とか、全部が混ざっている中で。

 その一言は、普通に紛れていた。

「ねえ、聞いた?」

 隣の席の子が、少しだけ声をひそめて言う。

「なに」

「——あの人、付き合ったらしいよ」

 一瞬、意味が分からなかった。

「……誰と」

 聞き返す。

 声が少しだけ遅れる。

「ほら、あの子」

 名前を言われる。

 すぐに分かる。

 あのとき、廊下で笑っていた子。

(……ああ)

 納得してしまう。

 あの距離。

 あの空気。

 全部。

 最初から、そっちだったんだって。

「へえ」

 それだけ返す。

 ちゃんと普通に聞こえるように。

 何も思ってないみたいに。

 心臓の音が、やけに静かだった。

 さっきまであった音が、急に消えたみたいに。

(そっか)

 それだけ。

 ショックとか、悲しいとか。

 そういうのは、少し遅れてくる。

 そのときはまだ、ただ。

 終わった、って思っただけだった。

 放課後。

 教室を出る。

 いつも通り。

 何も変わらない顔で。

 でも。
 何もかも違う。

 距離も。

 温度も。

 全部。

 近いはずなのに、遠い。

 さっきまで好きだった距離が。

 今はただ、苦しいだけで。

「なあ」

 後ろから声。

「なに」

「なんか怒ってる?」

 軽く聞いてくる。

 いつもみたいに。

(分かんないの?)

 そう思う。

 でも。

「別に」

 また、同じ答え。

 何も言えない。

 言えるわけがない。

 そのまま、少しだけ走る。

「ここでいい」

 いつもより、ずっと手前。

 止まる。

 後ろの重みが消える。

 一気に軽くなる。

 その軽さが。

 やけに痛かった。

「ありがと」

 いつもの言葉。

「……うん」

「またな」

 その一言。

 今日は、やけに遠く聞こえた。

 振り返らない。

 振り返ったら、たぶん無理になる。

 そのまま、走り出す。

 風が強い。

 前が少しだけ滲む。

(終わった)

 やっと、ちゃんと分かる。

 これは最初から、恋じゃなかった。

 私だけが、そう思ってただけ。

 ただ——

 それでも。

 この距離だけは、本物だった気がして。

 それが、一番つ