通り雨みたいな恋だった

 もう、分かっている。

 これはたぶん——

 好き、なんだと思う。

 はっきり言えるわけじゃない。

 でも。

 否定できないところまで来ている。

 放課後。

 教室を出る前、無意識にあの人を探す。

 見つける。

 それだけで、少しだけ安心する。

(やっぱり)

 いると、安心する。

 いないと、不安になる。

 それだけで、もう十分だった。

「帰る?」

 いつもの声。

 いつもの距離。

「……帰る」

 短く返す。

 でも、前より少しだけ柔らかい。

 自分でも分かるくらい。

 自転車置き場。

 何も言わなくても、後ろに乗る。

 もう止めない。

 止める理由も、なくなっている。

 走り出す。

 風が少し暖かい。

 季節が変わっていくのが分かる。

 それと同じくらい。

 自分の中も、変わっている。

「今日さ」

 後ろから声。

「なに」

「なんか機嫌よくない?」

「普通」

「嘘」

 すぐに言われる。

 前と同じやり取り。

 でも、意味が少し違う。

「分かりやすい」

「分かりやすくない」

「分かりやすいって」

 少しだけ笑う。

 その気配が、背中越しに伝わる。

(……好きかも)

 ふと、思う。

 今まで何度も避けてきた言葉。

 考えないようにしてきた言葉。

 でも。

 もう、無理だった。

 この距離が好きで。

 この時間が好きで。

 この人が、気になって仕方なくて。

 それを、全部まとめたら。

 もう、それしか残らなかった。

「お前さ」

 後ろから声。

「なに」

「ほんと分かりやすい」

「だから違うって」

「いや、絶対そう」

 少しだけ笑う。

 からかうみたいに。

 でも。

 その言葉が、少しだけ怖い。

(バレてる?)

 もし、そうだったら。

 どうなるんだろう。

 怖い。

 でも。

 少しだけ、期待してしまう。

「なあ」

 少しだけ低い声。

「なに」

「もしさ」

 間が空く。

 その一瞬が、やけに長く感じる。

「……好きなやついたら、どうする?」

 一瞬、呼吸が止まる。

 意味が分からない。

 分かりたくない。

「……なにそれ」

 なんとか言葉を出す。

「いや、なんとなく」

 軽く言う。

 いつもみたいに。

 でも。

 その質問だけは、軽く聞こえなかった。

(好きなやつ)

 その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

「……別に」

 曖昧に返す。

 逃げるみたいに。

「ふーん」

 短い返事。

 それだけ。

 でも。

 そのあと、ほんの少しだけ。

 距離が近くなる。

 触れてはいない。

 でも。

 確実に近い。

(……なにそれ)

 分からない。

 全部が。

 期待していいのか。

 ダメなのか。

 分からないまま。

 ただ、心臓の音だけがうるさい。

 そのまま、いつもの場所まで走る。

「ここでいい」

 止まる。

 後ろの重みが消える。

「ありがと」

「……うん」

「またな」

 いつもの言葉。

 でも今日は。

 少しだけ、違って聞こえた。

 一人になる。

 走り出す。

(好きかも)

 もう一度、思う。

 今度は、はっきりと。

 否定できないくらい。

 でも。

 その気持ちを認めるのは。

 まだ、少し怖かった。

 壊れる気がして。

 この距離が。

 だから。

 もう少しだけ。

 このままでいたいと思ってしまった。

 それが、一番危ないって。

 分か