スローライク

「來果くん」
「おお、塩見か」
 声のした方を振り向くと、私服の塩見がいて驚いた。休日に会うとは。塩見は、ゆったりとした、おしゃれな服を着ている。
 制服か体操服の姿しか見たことがないから、新鮮だ。
 服だけじゃなくて、なんか違うな、と少し考えて、塩見が髪をハーフアップにしていることに気づいた。ハーフアップは妹にも時々注文される髪型だ。

「こんなとこで会うと思わなかったー」
 塩見はにこにこしている。
 ここは、ショッピングセンターの中にある、ファンシー雑貨を扱うショップだ。メインの客層は女子小学生と、その親。俺たちのように高校生がいるのは珍しい。
「妹にシール買ってこいって頼まれたんだ」
 妹__舞果はまだ小学二年生だから、親からは一人で出かけることを許されていない。一緒に行こうか、とも提案してみたが、それは恥ずかしいらしい。ということで、舞果は俺に買いに行かせようとしていた。
 舞果には即OKしてしまったけれど、場違い感がすごくて、店内は結構落ち着かない。
 早く用事を済ませて帰ろうとしていたが、想像以上にシールの種類が多く、どれが良いだろうかと、塩見がここに来る前も一人でしばらく悩んでいたのだった。

「優しいお兄ちゃんだね~。うらやましいなあ」
 そう言われると照れるな。
 塩見の顔を見ると、目が合った。「どれにするの」と塩見は笑う。
「迷ってるんだよなあ。……そういえば、お前は何か買うのか?」
「僕もシール。好きだから」
 俺たちの目の前には、食べ物とか動物とか、色々な形のキラキラしたシールがある。薄い紙のものから、立体的なものまで。水入りシールとかもある。
 塩見がシールを好きだというのを聞いても、あまり意外じゃなかった。そういえば、学校に持ってきている持ち物も、かわいい物が多かったし。納得する。
「せっかく趣味が合うと思ったのにー。來果くん自身が欲しいわけじゃないんだね」
「じゃあ、自分のぶんも買おうかな」
 塩見が残念そうなので、よくわからないことを言ってしまった。
「え?」
「実は案外、ハマるかもしれないし。今、流行ってるんだろ」
 俺は舞果がシール帳を作っているのを知っている。舞果がシールに夢中になっているのを見ながら、楽しそうだなといつも思っていた。もしかしたら俺も、そういう趣味ができるかもしれない。
 結局俺は、人気のタイプだと教えてもらったシールを何種類か舞果用に買って、自分もひとつ、犬のキャラクターのキラキラしたカプセルシールを買った。おもちゃみたいでわくわくする見た目だ。

 ショッピングセンターを出てから、塩見と別れた。俺は自転車で来たけれど、向こうは徒歩だと言っていた。近くに住んでるのだろうか。
 「またね」と挨拶された時、なんだか嬉しかった。塩見といると、なぜかリラックスするし、つい最近初めて話したばかりなのに、もっとこれからも話してみたいと思う。
 俺は自転車を漕ぎながら、シールを一度に五つも買っていた塩見を思い出して、つい笑った。真面目な表情で、どれを買うか選んでいて、レジで受け取る時は嬉しそうにしていた。俺はそれを、なんかかわいいよなと思って見ていた。


「わーっ! かわいい!」
 舞果は塾から帰ってきて、俺の買ったシールたちを見るなり、興奮したような声をあげて目を輝かせた。
 こうやって喜んでる様子を見ると、やっぱり嬉しくなる。舞果には、いつも遠慮なくお願いされるし、こき使われている気もするが。

「來果が選んだの?」
 全部かわいくてすごい、とニコニコしている。こんな風にべた褒めされることは、めったにない。
「クラスメイトにおすすめしてもらったんだ」
「あー、來果は確かにこういうの選ばなさそうだもん」
 舞果は生意気な台詞を口にする。まったく……。という気持ちにはなったが、怒りの感情は湧かなかった。年がかなり離れているのもあってか、俺たちは普段、殆ど喧嘩しない。
「來果のクラスでも流行ってたの?」
「いや、そんなことはない。と思う」
 一応、俺の認識では流行っていないが、俺はそもそも流行に疎い方なので、周りでどんなものがブームになっているのか、よく知らない。
「女子?」
 舞果からは好奇心の圧を感じる。もうそういうことを気にするようになっていたなんて。
「男子だよ。かっこいいって評判の」
「見たい」
 見たいって言われてもなあ。写真とか無いし。そして、兄としてはなんだか複雑だ。
「舞果がシール交換したがってるって言っておいてよ」
「そんなの、あいつも困ると思うけど」
 クラスメイトに、妹の相手をさせるのは気が引ける。
「友達とかじゃないの? 呼べない?」
 舞果は食い下がってくる。

 友達……か。
 まだ友達って感じではないよな。会話はするけど。
 今は席が隣だから交流があるだけで、また席替えをしたら話す機会は無くなりそうな、その程度だろう。
「仲良くなりたいとは思ってるんだけどなあ」
 俺は無意識にため息をついていた。
「じゃあ、家に誘おうよ! 舞果が来てほしがってるってことにしていいから」
「なんだそれ」
 良いことを思いついたとでも言いたげな、自信満々な表情の舞果を見て、吹き出す。
「いきなり誘うのは、びっくりされるだろ」
「仲良くなりたいなら、ガンガン行かないと!」
 さすが7歳だ。全く物怖じしていない。
「まあ、そうだな」
 舞果の言う通り、少し強引にでもならないと、塩見とは何もないままで過ぎていくかもしれない。
 舞果のことを持ち出すかはともかくとして、試しに誘ってみようと思った。