白い君、紅い唇

2話
授業中も俺はひっそり難解な数式や、英文を解きながら、凛人のことを横目でこっそり見る。すると凛人と目が合い、微笑まれる。ハイテンションを抑えて、問題を解く。
チャイムが鳴り、授業が終わる。
「はい、号令」
「起立」
「礼」
凛人は号令すらも美しい。
「トイレ行ってくるから待ってて」
「おう」
凛人は教室から去る。すると理科の谷先生と女子生徒の会話が聞こえる。
「谷せん、まだあのメダカのこと思ってるの?」
「そうだよぉ俺のトルネード・ドリルが逝っちまったんだよ〜もう悲しくて悲しくて震えちゃう」
「谷せんの命名センスは相変わらずだね」
「あとそれは会いたくて、でしょ」
「あっそうだ聞いてよ」
「俺さ、トルネード・ドリルを土に埋めたのね」
俺の予想はバッチリ当たっている。
「土葬したんだ」
「そう土葬して、毎日祈ろうって思ってたら…」
「誰かに…掘り起こされてたの」
「ふぇへ〜〜〜〜ん」
「気味悪いね」
確かにそれは気味が悪い。メダカの死体が欲しいやつなんて…
いや、いる…か。まさか?
俺は教室を出て、トイレのところまで行く。
「凛人」
しかし人の気配はしない。まさか帰ったか?「どこにいる?」と連絡をする。
うーん。凛人に限って勝手に帰るとかなさそうだけど、他の階層のトイレも探すか…。
***
しかし、どこにもいない。数十分経ったものの連絡がつかない。メッセージすら見ていないようだ。
仕方ない。今日は帰るか…。俺の家はここから近い、ざっと30分くらいでつく。
「ただいま」
しかし、誰もいない。母親は仕事で今しばらく帰ってこない。
「作るか…」
凛人のことが心配で腹が空かないので卵かけご飯とサラダで済ます。すると、電話がかかってくる。
凛人かと思えば母親だった。
「もしもし、母さん?」
「あっ修?ごめんね今日は職場で寝泊まりするからそっち帰れないの」
「うん、分かった」
「ごめんね、ちゃんとご飯食べてね」
あんまり食べてないけど。
「心配しないで、母さんこそ働きすぎないでね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、おやすみ。修」
「うん、おやすみ」
電話を終了する。
凛人に送ったメッセージを確認する。だがまだ見ていない様子だ。どこに行ったんだと、モヤモヤする。凛人の家も知らないし、こんな夜に探すのは駄目だ。今日は寝て、明日来ていることを祈る。
***
夢をみた。凛人がどこへ行ってしまう、歩いても歩いても、その美しさは遠のいて。
届かない。届かない。俺のそばにいてほしい。そう願っているのにひたすらどこかへと進んでしまう。いかないで!
そう思って、俺は目が覚めた。いつもより1時間早く起きてしまった。
「17年の中で一番最悪な目覚めだ…」
***
翌日学校へ行くと、凛人は何事もないようにそこにいた。余りにも自然にそこにいた。
「凛人…」
「あ、おはよう。修」
「昨日、どこで何してた?」
「……………………………」
「内緒」
ちゃんと誤魔化された。だがその誤魔化しかたも可愛い。
「……そっか、あんまり心配させないでよ」
「あっ、心配かけちゃってた?ごめんね…」
「大丈夫。無事ならそれでいいよ」 
「あ、そうだ今日の放課後、二人でどっか出かけない?」
「えっ!勿論!」 
「よかった」
退屈から外れた一日を過ごす。今日は特に退屈から遠ざかった。
……まぁ相変わらず授業は聞き流しているが。
そんな授業も終わり、ついに放課後がやってきた。
「どこに出かけるんだ」
「…………ファミレス?」
「決めてなかったのか?なら一緒に決めてもよかったのに」
「いややっぱり…書店がいい」
「おぉ、結構変えたな」
「書店で行くか?」
「うん」
俺達はここから50分くらいの中田書店へ向かう。50分はこのほどよく寒い11月初旬と凛人と歩けることと条件が揃い、全く苦じゃない。
「やっぱり、本好きなんだな」
「…うん、昨日小説を読み切ったから新しいの買おうと思って」
「俺も小説買うか、最近読んでないし」
「じゃあ僕のおすすめ、買って、読んで」
「…分かった、3日で読み切るよ」
「結構ページ多いよ?」
「……それなら無理かも」
「ふふふふっ」
「…ふへへっ」
ただ凄く幸せな瞬間。でも一つ頭に残るのは、
メダカの掘り起こし事件。死んだメダカの匂いが落ち着くといった。彼を心の隅で疑ってしまう。いや優しい彼ならきっと雑な土葬じゃなくて、ちゃんとした埋葬でメダカを看取ったんだ。うん、そうだ。
というか、凛人の匂い、色んな消臭剤のような匂いがする。体臭が気になるのかな、俺はそれでもいいけど。
「着いたよ」
知らず知らずに書店に到着して、小説コーナーを練り歩く。凛人がお目当ての小説を見つけて、俺に知らせる。
「これ」
「おう」
本を取ろうと手を伸ばすと俺と凛人の手が触れた。凛人の手は一瞬当たっただけでも、
冷たかった。