白い君、紅い唇

1話
ずっと退屈で飽き飽きしている人生だった。
俺は何でもできてしまう。勉強も運動も、芸術だってお手の物だ。周りからは「天才だね」「完璧だね」とよく言われた。
ただ、そのせいでクラスの奴らには疎まれてしまっている。
小さい頃は考えず、先生に質問攻めをしていたり、周りの子にも自分の意見を押し付けていたが、さすがに今はそういうのは弁えるようにしている。 
カチカチカチ
シャープペンシルの芯をぼーっとしながら出す。暇なときはこれをやる。頭を休めるのも必要だ。
すると教室の扉が開く。
「はい、席すわれー」
(…今日も退屈な一日になるかな)
(明日からサボって別の勉強でもしようか…)
退屈すぎて、良くない考えがよぎってしまう。駄目だな俺。
「今日は…まず最初に転校生を紹介します」
(転校生?)
(そういえば、そんな話が聞こえてきたような…)
無気力な俺の担任が転校生を呼び、現れたのは…
とても、白い青年だった。ウェディングドレスのように穢れなき真っ白の肌で、髪も目も色素が薄く、彼をひと言で表すなら「美」がふさわしいだろう。
そんな彼をひときわ目立たせるのはあの唇だろう。鮮烈な紅い色だ。
「じゃ、自己紹介頼む」
「白川凛人(しらかわりんと)です」
「皆さんよろしくお願いします」
「……もうちょっと情報を」
「あっ…読書が趣味です」
「…以上です」
「まぁ…そういうことだ、皆仲良くしろよ」
彼は無口なのだろうか、それもまた白い孤高の美しさを引き立てていて良い。俺は一瞬で、彼の魅力に取り憑かれてしまった。
俺の退屈は一瞬で崩れさった。白川凛人が全てを崩した。
彼がいれば…
「じゃ、早頭の横が空いてるからそこに座りなさい」
そういえば俺の隣は空席だった。なんともまぁ奇跡は起きるものだ、サボる必要性は無くなったな。
「そんじゃ早頭。昼休みに白川を案内してやれ」
「…はい」
今日だけは担任に感謝だな。…周りは冷ややかな目で俺を見てくるが、そんなもんどうでもいい。
「授業始めるぞ」
あぁ、早く昼休みにならないだろうか。
***
こうして念願の昼休みが訪れた。俺は彼を案内する。
「俺、早頭修(はやがしらしゅう)よろしくな」
「よろしく」
相変わらず無口。本当に美しい。どんな色を混ぜても白から変わることはないだろう。
「ここが図書室、うるさい音を出すと司書にしばかれるから気をつけてな」
「…そうなんだ」
……読書が趣味と聞いたから、ここに連れてきたけどあんまり興味ないのか?
「ここが理科室、まぁ実験するだけの場所だな。試験管とか割らないように気をつけてな」
「…………」
「どうした?」
「これの匂い、落ち着く」
指を指したのは死んだメダカだった。
「…このメダカ死んだのか、谷先生…あ、理科の先生ね」
「きっと泣きわめくな」
「このメダカってどうなるの?」
「まぁ、土にでも埋めるんじゃないか。あの先生はそういうことする人だから」
「そっか」
「じゃ、次行くか」
死んだメダカを慈しんでいるのか、美しさの中に優しさまで持つか…。
まぁ…死んだメダカの匂いが落ち着くっていうのは少し以外な一面だな。
やっぱり彼は俺を凌駕する未知の存在だ。
彼のこと、もっと知りたい。
***
重要な所を回って、昼休みが終わる少し前に校内案内を終える。教室へ一緒に戻る時、周りの奴は彼のことを綺麗な存在だと噂立てている。
男子のグループの一人の肩にぶつかりそうになるが、俺は最小限の動きで避ける。
「チッ」
…突っ掛かりたかったのだな、邪魔は辞めて欲しいが。
「大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
「また明日、紹介するから」
「ありがとう」
「……………」 
「……………」
「……………」
ヤバい、沈黙ができてしまった。
「………………白川君」
「?」
「君の紅い唇、綺麗だね」
「………」
…やってしまった。焦ってキモすぎることを言ってしまった。まずい、ここはなんとかカバーしないといけない。いやでも事実だしな…。
「ありがとう」
「…えっ?」
「そんなこと言ってくれる人、初めて」
「あ…あぁそう…はははっ」動揺するな俺。
「この唇。血が滲んでいるみたいで怖いって言われたことはあるけど」
「そいつは分かってない」
彼を褒める長文が沢山連なるが、それはたった数行しか言葉にならなかった。
「君の、純白の美しさと鮮烈な紅い唇は全て計算されていて、完成されている。本当に君は他を圧倒する人間だ。自身を持って生きてほしい…」
「………ふふ」
あっ……これは終わった。絶対気持ち悪がられた。
「君、実際にアルビノをみるのは初めて?」
「…あぁ、そうだ、希少な存在だから、中々会わない」
「その褒め言葉は他のアルビノの人にも言えることだよ?」
「いや、違う。こんな褒め言葉は君にしか言えない」
「…ほんとう?」
「勿論、本当だ」
「面白い人、お友達になってくれない?」
そんな質問。「はい」「イエス」以外の選択肢はないだろう。
「…じゃよろしくね、修君」
「?!??!」
「…まだ名前呼びは早かった?」
「いや、続けてくれ」
「僕のことも凛人って呼んでいいよ」
昂る気持ちを一旦鎮めて、冷静に返答する。
「こちらこそよろしく、凛人」
彼は美しい笑みを浮かべた。
キーンコーンカーンコーン
5時間のチャイムも俺には聞こえなかった。