しばらくすると、后妃と女官たちがぞろぞろとやってきた。
皆、武徳がいると聞いたからか、いつもの昼食会よりも装いを凝らしてきている。
一瞬、桂麗は気後れした。
やはり地味だっただろうか。そして地味であるがゆえに、武徳に恥をかかせてはいないか。
だが、武徳はなおも愛しいといわんばかりの目線を、こちらに向けてくれる。
そのことに、心がほっと落ち着く。
「皇帝陛下。ご機嫌麗しく存じます、呉花花でございます」
一人ずつ前に出て、武徳に膝をついて挨拶をする。そのとき、皆必ず隣の桂麗のことも呼ぶ──のだが、花花だけは違った。
彼女は腰こそ低くしているが、顔をあげると、挑むような視線を桂麗にぶつけてきた。
「……呉妃。李后への挨拶はどうした」
武徳が静かに訊ねると、花花は眉を寄せ、今にも泣き出しそうな顔をした。
「おいたわしい陛下。不忠の后をお持ちになったことを、今なお存じ上げないとは!」
そう叫ぶと、花花は顔を両手で覆った。
(え、なに? 不忠の后って……どうして?)
桂麗は困惑した。身に覚えがない。
もしかしたら、武徳が皇后の閨に通っている今の現状を訴えようとしているのか。
だが、後宮は皇帝の家。誰を寵愛しようと、それは皇帝の気持ち一つなのだ。
ただ、正式な妻は皇后一人──その皇后が愛まで独り占めしては、妃たちの立場はないのは、自明のことだ。
しかし、そんなことをあろうことか、皇帝に直接進言するなど、有り得ない。罰を与えられても仕方ないことだった。
周りの后妃たちがざわめきだす。
桂麗は、ひとまず花花を下がらせようとした。が、そのとき、花花付きの白髪の女官が、スッと近づいて膝をつく。
彼女は、何かを包んだ布を手にしていた。
「畏れ多くも、私からも申し上げます。陛下、どうかこちらをご覧下さいませ」
女官が包みを花花に渡した。
受け取った花花が、慎重に布を開いていく。
包まれていたのは、土で汚れた人の形をした木像と、墨がついた削りカスだった。
桂麗には既視感があった。木像ではなく、削りカスのほうだった。
「なんだ、それは」
「はい。人形と申します。呪詛に用いる道具でございます」
武徳の問いに、花花が答える。
后妃らのざわめきが、いっそう大きくなった。
「人形は、後宮の庭に埋められておりました。不自然に土が盛られていて、不審に思った私の女官が掘り返しました。そして出てきたのがこちらなのです」
人形と呼ばれた木像は表面が少しぼこぼこしていた。よくよく見ると、胴体に何か文字が書いてあるようだった。
「人形に書かれているのは『黄』『呪』。黄は、皇帝を示す……つまり、陛下を呪ったということ!」
后妃の誰かが、悲鳴をあげた。
「……それで、先ほどお前は不忠の后と言ったが……」
武徳の怒りを滲ませた言葉に、花花が口角をぐっと上げて胸を張った。
「はい。この人形、どうも作り手は文字を最初間違えたのか、削り取った跡があります」
「ほう……」
「この人形と同じ木の削りカスを、別の部屋の女官が発見しております。それにも同じ文字……しかも同じ筆蹟のものがありました」
そこまで言ってから、花花はゆっくりと立ち上がった。
そして、大きく息を吸った。
「李后様、いえ、大罪人・李桂麗! これはあなたの部屋の屑籠から発見されたものよ!」
その声は、庭園中に響くほどに大きなものだった。
皆、武徳がいると聞いたからか、いつもの昼食会よりも装いを凝らしてきている。
一瞬、桂麗は気後れした。
やはり地味だっただろうか。そして地味であるがゆえに、武徳に恥をかかせてはいないか。
だが、武徳はなおも愛しいといわんばかりの目線を、こちらに向けてくれる。
そのことに、心がほっと落ち着く。
「皇帝陛下。ご機嫌麗しく存じます、呉花花でございます」
一人ずつ前に出て、武徳に膝をついて挨拶をする。そのとき、皆必ず隣の桂麗のことも呼ぶ──のだが、花花だけは違った。
彼女は腰こそ低くしているが、顔をあげると、挑むような視線を桂麗にぶつけてきた。
「……呉妃。李后への挨拶はどうした」
武徳が静かに訊ねると、花花は眉を寄せ、今にも泣き出しそうな顔をした。
「おいたわしい陛下。不忠の后をお持ちになったことを、今なお存じ上げないとは!」
そう叫ぶと、花花は顔を両手で覆った。
(え、なに? 不忠の后って……どうして?)
桂麗は困惑した。身に覚えがない。
もしかしたら、武徳が皇后の閨に通っている今の現状を訴えようとしているのか。
だが、後宮は皇帝の家。誰を寵愛しようと、それは皇帝の気持ち一つなのだ。
ただ、正式な妻は皇后一人──その皇后が愛まで独り占めしては、妃たちの立場はないのは、自明のことだ。
しかし、そんなことをあろうことか、皇帝に直接進言するなど、有り得ない。罰を与えられても仕方ないことだった。
周りの后妃たちがざわめきだす。
桂麗は、ひとまず花花を下がらせようとした。が、そのとき、花花付きの白髪の女官が、スッと近づいて膝をつく。
彼女は、何かを包んだ布を手にしていた。
「畏れ多くも、私からも申し上げます。陛下、どうかこちらをご覧下さいませ」
女官が包みを花花に渡した。
受け取った花花が、慎重に布を開いていく。
包まれていたのは、土で汚れた人の形をした木像と、墨がついた削りカスだった。
桂麗には既視感があった。木像ではなく、削りカスのほうだった。
「なんだ、それは」
「はい。人形と申します。呪詛に用いる道具でございます」
武徳の問いに、花花が答える。
后妃らのざわめきが、いっそう大きくなった。
「人形は、後宮の庭に埋められておりました。不自然に土が盛られていて、不審に思った私の女官が掘り返しました。そして出てきたのがこちらなのです」
人形と呼ばれた木像は表面が少しぼこぼこしていた。よくよく見ると、胴体に何か文字が書いてあるようだった。
「人形に書かれているのは『黄』『呪』。黄は、皇帝を示す……つまり、陛下を呪ったということ!」
后妃の誰かが、悲鳴をあげた。
「……それで、先ほどお前は不忠の后と言ったが……」
武徳の怒りを滲ませた言葉に、花花が口角をぐっと上げて胸を張った。
「はい。この人形、どうも作り手は文字を最初間違えたのか、削り取った跡があります」
「ほう……」
「この人形と同じ木の削りカスを、別の部屋の女官が発見しております。それにも同じ文字……しかも同じ筆蹟のものがありました」
そこまで言ってから、花花はゆっくりと立ち上がった。
そして、大きく息を吸った。
「李后様、いえ、大罪人・李桂麗! これはあなたの部屋の屑籠から発見されたものよ!」
その声は、庭園中に響くほどに大きなものだった。

