呉花花は焦っていた。
皇后である桂麗の部屋で、武徳が夜を明かしたと聞いたからだ。
もちろん、一度だけだったら、たまたま休息に来ただけかもしれない。
だが、今のところ五日続けて通っており、しかも必ず朝まで過ごしているという。
「ええいっ、忌々しいっ!」
花花は茶器を、近くにいた女官に投げつけた。
女官が「ひいっ」と情けない声をあげて避けたため、パリーンと派手な音を立てて茶器が割れた。
「何避けているのっ」
「も、申し訳ありませんっ」
「お前まで私の神経を逆なでにするのね! 今すぐ罰をくれてやるわ」
「お、お許しをっ」
「うるさい、裸でつるし上げて百叩きよっ」
花花の憂さ晴らしはもっぱら、女官いじめだった。
しかしあの皇后が何度も注意をしてくるのが鬱陶しくて、しばらくは大人しくしていた。
だが、もう我慢の限界だ。
(馬鹿にして! 陛下も陛下よ! 何で一度も訪れないの。それでも皇帝なの!)
むしゃくしゃしたときは、誰かの苦しむ様を見るのが一番だ。
「呉妃様、どうか落ち着かれませ」
白髪の女官が、慌てて仲裁に入った。彼女は花花の乳母で、実家から連れてきた腹心でもあった。
「何よっ、止めないで。いいじゃない、久しぶりなのよ」
まずは頬を思いきり叩いてやる、と、震える女官の胸ぐらを掴んだ。
「まぁまぁ。元を正せば、呉妃様をご不快にさせているのは、この者ではなく李后様……でございましょう?」
女官に向かって振り上げた手を、花花はゆっくりと下ろした。
その言葉は、まさに図星だったからだ。
「お前、少し部屋を出ていなさい。呉妃様と二人きりにさせてね」
「は、はい」
女官は、安堵したような顔で、そそくさと部屋を出て行った。
「なんなの? 人払いなんて……」
「恐ろしい噂を聞いたからですわ。呉妃様、どうかお耳を……」
乳母のいう通りに、呉妃は耳を貸した。
そして、信じがたいことを聞いた。
「それは本当なの?」
「間違いございません。李后様付きの、一番若い女官をこっそり買収しておりまして」
皇后には、丹という実家から連れてきた女官がいる。彼女は忠誠心が篤い。
だが、家が困窮している年若の女官は、金目のものを渡したらすぐになびいたという。
「証拠はすでに回収させております」
「陛下に知れたら、一大事ね。あの小賢しい李桂麗は廃后よ」
「ええ。むしろ、李后様が陛下の寵愛を受け始めたのは好都合。廃された後、呉妃様が傷心の陛下をお慰めすれば……」
「ほほほ、今日は実にめでたい日になるわね!」
ふっふっふっ、あはははと、どちらからともなく、花花と乳母は笑い合った。
皇后である桂麗の部屋で、武徳が夜を明かしたと聞いたからだ。
もちろん、一度だけだったら、たまたま休息に来ただけかもしれない。
だが、今のところ五日続けて通っており、しかも必ず朝まで過ごしているという。
「ええいっ、忌々しいっ!」
花花は茶器を、近くにいた女官に投げつけた。
女官が「ひいっ」と情けない声をあげて避けたため、パリーンと派手な音を立てて茶器が割れた。
「何避けているのっ」
「も、申し訳ありませんっ」
「お前まで私の神経を逆なでにするのね! 今すぐ罰をくれてやるわ」
「お、お許しをっ」
「うるさい、裸でつるし上げて百叩きよっ」
花花の憂さ晴らしはもっぱら、女官いじめだった。
しかしあの皇后が何度も注意をしてくるのが鬱陶しくて、しばらくは大人しくしていた。
だが、もう我慢の限界だ。
(馬鹿にして! 陛下も陛下よ! 何で一度も訪れないの。それでも皇帝なの!)
むしゃくしゃしたときは、誰かの苦しむ様を見るのが一番だ。
「呉妃様、どうか落ち着かれませ」
白髪の女官が、慌てて仲裁に入った。彼女は花花の乳母で、実家から連れてきた腹心でもあった。
「何よっ、止めないで。いいじゃない、久しぶりなのよ」
まずは頬を思いきり叩いてやる、と、震える女官の胸ぐらを掴んだ。
「まぁまぁ。元を正せば、呉妃様をご不快にさせているのは、この者ではなく李后様……でございましょう?」
女官に向かって振り上げた手を、花花はゆっくりと下ろした。
その言葉は、まさに図星だったからだ。
「お前、少し部屋を出ていなさい。呉妃様と二人きりにさせてね」
「は、はい」
女官は、安堵したような顔で、そそくさと部屋を出て行った。
「なんなの? 人払いなんて……」
「恐ろしい噂を聞いたからですわ。呉妃様、どうかお耳を……」
乳母のいう通りに、呉妃は耳を貸した。
そして、信じがたいことを聞いた。
「それは本当なの?」
「間違いございません。李后様付きの、一番若い女官をこっそり買収しておりまして」
皇后には、丹という実家から連れてきた女官がいる。彼女は忠誠心が篤い。
だが、家が困窮している年若の女官は、金目のものを渡したらすぐになびいたという。
「証拠はすでに回収させております」
「陛下に知れたら、一大事ね。あの小賢しい李桂麗は廃后よ」
「ええ。むしろ、李后様が陛下の寵愛を受け始めたのは好都合。廃された後、呉妃様が傷心の陛下をお慰めすれば……」
「ほほほ、今日は実にめでたい日になるわね!」
ふっふっふっ、あはははと、どちらからともなく、花花と乳母は笑い合った。

