皇帝が妻・李后の閨を離れないと、後宮どころか王城にまで激震が走った。
それを多くの者が喜んだ。
「李后様、陛下からの贈り物ですわ」
うきうきとした様子で、丹が他の女官とともにたくさんの箱を運び込んだ。
あの夜、丹はたまたま僅かな時間、離れてしまっていたのだ。
罰を覚悟していた丹だったが、武徳も桂麗も咎めるつもりはなく、あくまでその場を離れたことについての注意に留めた。
「まぁ、見事な紗帔(肩掛け)ですわ。こちらの箱には、髪飾り。翡翠に、珊瑚、瑪瑙……こちらも綺麗ですわね」
皇后の格に相応しい仕様ではあるものの、まるで寵妃に与えるかのような贈り物の多さに、桂麗は戸惑いを隠せなかった。
結ばれた後で知ったことだが、これまで武徳は後宮には立ち寄りこそすれど、特定の女に入れ込んだ記憶はないらしい。
即位してから寝るのは、もっぱら執務室だったという。
妃の一人である花花は、寵妃であると吹聴していたが、その事実はないと武徳は語った。
もっとも、彼女が身につけているものは武徳からの贈り物ではなく、家から送られてきたものだと桂麗は知っていた。
「……良いのかしら」
「李后様?」
「こんな贅沢な品ばかりいただいてしまっては、他の后妃たちに示しが……」
「いいえ、李后様。慎み深いことは大事でございますが、あまりに飾り気がないのもよろしくありません」
「丹……」
「全てを一度に飾る必要はないのです。そう、今日はいただいた紗帔をまといましょう」
丹がいそいそと、贈られてきたばかりの紗帔を桂麗に着せた。
強風に煽られただけで破れてしまいそうなほど、薄くて透き通るような生地だ。
しかし、まるで金剛石をちりばめたような輝きを放っている。陽のもとでは、どれほど美しく光るだろうか。
「簪は翡翠を。この鮮やかな緑は、本日の白梅の宴に、よく合いますわ」
盆に乗せられている簪は、翡翠で装飾されている。これも届いたばかりのものだ。
今日はこれから、昼食会を兼ねて白梅を眺める宴を開くことになっている。
元々後宮の女たちだけで予定していたことだが、武徳も顔を出すと言ってくれた。
そのことはすぐに、后妃たちにも伝えた。
体調不良だと言っていた者からは、具合がよくなったので伺いたいという返事があった。后妃は全員が揃うことになる。
「はい。李后様は、ごてごてに飾り立てるよりも、このように気品良くなさるのが一番。これは贅沢ではありませんよ」
「丹……ありがとう」
「これが私の仕事ですわ。さぁ、紅はこちらを」
鏡に映り込んだ自分の顔が、以前よりもずっと艶やかに見える。
ふと、桂麗は机のうえに置いている紙に視線をやった。
それは、武徳と初めて結ばれた翌朝に、木簡に記した詩を清書したものだった。
(この詩が、陛下と私を繋いでくれた。まさに、お守りだわ)
もう清書をしてしまったので、試行錯誤の痕跡がある木簡は処分した。
(でも、皇后が艶歌を好むなんて、他の者にはまだ言えないわ。もっと皆から信頼されてからでなくては)
桂麗は紙を手に取ると、丁寧に折って胸元にそっと仕舞い込んだ。
そろそろ刻限だった。桂麗は、悠然とした足取りで庭園へと向かった。
それを多くの者が喜んだ。
「李后様、陛下からの贈り物ですわ」
うきうきとした様子で、丹が他の女官とともにたくさんの箱を運び込んだ。
あの夜、丹はたまたま僅かな時間、離れてしまっていたのだ。
罰を覚悟していた丹だったが、武徳も桂麗も咎めるつもりはなく、あくまでその場を離れたことについての注意に留めた。
「まぁ、見事な紗帔(肩掛け)ですわ。こちらの箱には、髪飾り。翡翠に、珊瑚、瑪瑙……こちらも綺麗ですわね」
皇后の格に相応しい仕様ではあるものの、まるで寵妃に与えるかのような贈り物の多さに、桂麗は戸惑いを隠せなかった。
結ばれた後で知ったことだが、これまで武徳は後宮には立ち寄りこそすれど、特定の女に入れ込んだ記憶はないらしい。
即位してから寝るのは、もっぱら執務室だったという。
妃の一人である花花は、寵妃であると吹聴していたが、その事実はないと武徳は語った。
もっとも、彼女が身につけているものは武徳からの贈り物ではなく、家から送られてきたものだと桂麗は知っていた。
「……良いのかしら」
「李后様?」
「こんな贅沢な品ばかりいただいてしまっては、他の后妃たちに示しが……」
「いいえ、李后様。慎み深いことは大事でございますが、あまりに飾り気がないのもよろしくありません」
「丹……」
「全てを一度に飾る必要はないのです。そう、今日はいただいた紗帔をまといましょう」
丹がいそいそと、贈られてきたばかりの紗帔を桂麗に着せた。
強風に煽られただけで破れてしまいそうなほど、薄くて透き通るような生地だ。
しかし、まるで金剛石をちりばめたような輝きを放っている。陽のもとでは、どれほど美しく光るだろうか。
「簪は翡翠を。この鮮やかな緑は、本日の白梅の宴に、よく合いますわ」
盆に乗せられている簪は、翡翠で装飾されている。これも届いたばかりのものだ。
今日はこれから、昼食会を兼ねて白梅を眺める宴を開くことになっている。
元々後宮の女たちだけで予定していたことだが、武徳も顔を出すと言ってくれた。
そのことはすぐに、后妃たちにも伝えた。
体調不良だと言っていた者からは、具合がよくなったので伺いたいという返事があった。后妃は全員が揃うことになる。
「はい。李后様は、ごてごてに飾り立てるよりも、このように気品良くなさるのが一番。これは贅沢ではありませんよ」
「丹……ありがとう」
「これが私の仕事ですわ。さぁ、紅はこちらを」
鏡に映り込んだ自分の顔が、以前よりもずっと艶やかに見える。
ふと、桂麗は机のうえに置いている紙に視線をやった。
それは、武徳と初めて結ばれた翌朝に、木簡に記した詩を清書したものだった。
(この詩が、陛下と私を繋いでくれた。まさに、お守りだわ)
もう清書をしてしまったので、試行錯誤の痕跡がある木簡は処分した。
(でも、皇后が艶歌を好むなんて、他の者にはまだ言えないわ。もっと皆から信頼されてからでなくては)
桂麗は紙を手に取ると、丁寧に折って胸元にそっと仕舞い込んだ。
そろそろ刻限だった。桂麗は、悠然とした足取りで庭園へと向かった。

