ASMRのジャンルにはASMR初心者にやらせてみるというものが存在する。
初心者特有のぎこちない感じをほっこり楽しむことができる人気企画だ。
俺はそんな動画を投稿する気はなかったが、昼休みで一緒に弁当を食べていると佐倉が「俺も凪パイにASMRの耳かきとかやってみたいっす」と言ったので試してみることになった。
「えー、カメラがあるってだけでなんか緊張するっすね」
「慣れだよ、慣れ」
佐倉と恋人になった文化祭から月日は流れて今は夏休みまっただ中。
毎週木曜日の飼育委員の当番で兎の世話を佐倉と一緒にする生活は変わらないが、恋人になったんだから週イチ会うだけではやっぱり寂しい。
そんなわけで俺と佐倉は外は暑いからということもあって、互いの家を行き来することには慣れていたけど、カメラを設置して囁き声で話すのは初めてのことだった。
「じゃあ、膝枕するっす」
「よろしく」
慣れだよなんて偉そうなことを言ったけど、佐倉と一緒にカメラの前に立つのはまた違った意味で緊張する。
正座をした佐倉の膝に頭を乗せて見上げると、こちらを見下ろした佐倉が「うわぁ」と感動の声を上げた。
「凪パイって上から見てもかわいいっすね」
「ッいいから、早く耳かき」
この動画は『ASMR初心者の友達に耳かきしてもらった』という内容で、後録りで耳かきの音を重ねて投稿するつもりだった。
こんな恋人っぽいやり取りはカットしなければならない。
余計な手間を増やすなと耳かきを手渡すと、佐倉はくすくす笑いながら受け取った。
「照れると怒るっすよね」
「早くしろって」
「はいはい」
照れギレする俺を適当にあしらって、佐倉が俺の耳の浅い部分をゆっくりと円を描くように耳かきでなぞる。
ゾワゾワする心地よさに身震いしそうになるのを押さえて息を吐くと、佐倉が俺の耳たぶを揉んだ。
「気持ちいいっすか?」
「かなり」
「よかったっす。痛かったら言ってください」
真剣な声で囁いた佐倉がカリカリと耳かきで耳の中を軽く引っ掻く。
その手つきが絶妙に心地よくて、俺は瞼がだんだん重くなるのを感じた。
「あー……、寝そう」
脳味噌をとろとろに溶かされるような気持ちよさだ。
佐倉は相変わらず俺のすやぴとしてのASMR動画を聞いて毎晩眠っていて、佐倉からの強い希望で寝落ち通話をしたときも佐倉はわりとあっさり先に眠っていた。
俺のことを佐倉はASMRの天才だなんて言ってくれるけど、佐倉のこの耳かきは極上だ。
佐倉こそがASMRの天才なんじゃないだろうか。
俺が寝落ちしてしまいそうになりながらそんなことを考えていると、耳かきが唐突に終了してしまう。
もう終わりなのかと思いつつも、佐倉の膝枕でうとうとすることをやめられない。
ぼんやりしている俺の耳に、ふうっと優しく息が吹き込まれたのは突然のことだった。
「ひうっ!」
裏返った悲鳴みたいな声を上げて、俺は佐倉に膝枕されたまま仰向けになる。
自分が耳が弱いだなんて思ったことはなかったが、耳に息をかけられただけで突然電流が背中を駆けたような不思議な感覚があって焦った。
こちらを見下ろしている佐倉と至近距離で目が合う。
驚きからパチパチと瞬きを繰り返す俺をじっと見ていた佐倉は、突然ちゅっと口づけてきた。
「またカットしなきゃいけないじゃん」
「すみません。かわいかったんすもん」
へらっと笑う佐倉をこれ以上責める気になれない。
はあ、とため息をついて呆れたふりをしつつ起き上がった俺は、佐倉の頬にキスをした。
「もうこの動画、投稿すんのやめる」
「そうなんすか?」
「おまえのこと友達って雰囲気で撮影すんの無理じゃん。すぐキスしてくるし」
「あはっ、そっすね!」
楽しげに笑った佐倉がまたキスをしてくる。
もうやめろと怒ったふりをしながらも、俺は佐倉の唇が追いかけてくるのから逃げることはなかった。
この動画は当然お蔵入りだ。
今夜はまた新しいASMR動画を録らなくては。
佐倉には俺の囁き声だけを聞いて、今夜も眠ってほしいから。
初心者特有のぎこちない感じをほっこり楽しむことができる人気企画だ。
俺はそんな動画を投稿する気はなかったが、昼休みで一緒に弁当を食べていると佐倉が「俺も凪パイにASMRの耳かきとかやってみたいっす」と言ったので試してみることになった。
「えー、カメラがあるってだけでなんか緊張するっすね」
「慣れだよ、慣れ」
佐倉と恋人になった文化祭から月日は流れて今は夏休みまっただ中。
毎週木曜日の飼育委員の当番で兎の世話を佐倉と一緒にする生活は変わらないが、恋人になったんだから週イチ会うだけではやっぱり寂しい。
そんなわけで俺と佐倉は外は暑いからということもあって、互いの家を行き来することには慣れていたけど、カメラを設置して囁き声で話すのは初めてのことだった。
「じゃあ、膝枕するっす」
「よろしく」
慣れだよなんて偉そうなことを言ったけど、佐倉と一緒にカメラの前に立つのはまた違った意味で緊張する。
正座をした佐倉の膝に頭を乗せて見上げると、こちらを見下ろした佐倉が「うわぁ」と感動の声を上げた。
「凪パイって上から見てもかわいいっすね」
「ッいいから、早く耳かき」
この動画は『ASMR初心者の友達に耳かきしてもらった』という内容で、後録りで耳かきの音を重ねて投稿するつもりだった。
こんな恋人っぽいやり取りはカットしなければならない。
余計な手間を増やすなと耳かきを手渡すと、佐倉はくすくす笑いながら受け取った。
「照れると怒るっすよね」
「早くしろって」
「はいはい」
照れギレする俺を適当にあしらって、佐倉が俺の耳の浅い部分をゆっくりと円を描くように耳かきでなぞる。
ゾワゾワする心地よさに身震いしそうになるのを押さえて息を吐くと、佐倉が俺の耳たぶを揉んだ。
「気持ちいいっすか?」
「かなり」
「よかったっす。痛かったら言ってください」
真剣な声で囁いた佐倉がカリカリと耳かきで耳の中を軽く引っ掻く。
その手つきが絶妙に心地よくて、俺は瞼がだんだん重くなるのを感じた。
「あー……、寝そう」
脳味噌をとろとろに溶かされるような気持ちよさだ。
佐倉は相変わらず俺のすやぴとしてのASMR動画を聞いて毎晩眠っていて、佐倉からの強い希望で寝落ち通話をしたときも佐倉はわりとあっさり先に眠っていた。
俺のことを佐倉はASMRの天才だなんて言ってくれるけど、佐倉のこの耳かきは極上だ。
佐倉こそがASMRの天才なんじゃないだろうか。
俺が寝落ちしてしまいそうになりながらそんなことを考えていると、耳かきが唐突に終了してしまう。
もう終わりなのかと思いつつも、佐倉の膝枕でうとうとすることをやめられない。
ぼんやりしている俺の耳に、ふうっと優しく息が吹き込まれたのは突然のことだった。
「ひうっ!」
裏返った悲鳴みたいな声を上げて、俺は佐倉に膝枕されたまま仰向けになる。
自分が耳が弱いだなんて思ったことはなかったが、耳に息をかけられただけで突然電流が背中を駆けたような不思議な感覚があって焦った。
こちらを見下ろしている佐倉と至近距離で目が合う。
驚きからパチパチと瞬きを繰り返す俺をじっと見ていた佐倉は、突然ちゅっと口づけてきた。
「またカットしなきゃいけないじゃん」
「すみません。かわいかったんすもん」
へらっと笑う佐倉をこれ以上責める気になれない。
はあ、とため息をついて呆れたふりをしつつ起き上がった俺は、佐倉の頬にキスをした。
「もうこの動画、投稿すんのやめる」
「そうなんすか?」
「おまえのこと友達って雰囲気で撮影すんの無理じゃん。すぐキスしてくるし」
「あはっ、そっすね!」
楽しげに笑った佐倉がまたキスをしてくる。
もうやめろと怒ったふりをしながらも、俺は佐倉の唇が追いかけてくるのから逃げることはなかった。
この動画は当然お蔵入りだ。
今夜はまた新しいASMR動画を録らなくては。
佐倉には俺の囁き声だけを聞いて、今夜も眠ってほしいから。
