狭い道幅いっぱいに広がっているのは、見るからに不良という感じの派手な装いの連中だった。
街中で遭遇したら、目を合わせないように気を付けて、足早に過ぎ去るような連中だ。
そんな奴らが、なぜか俺達……というか、佐倉をガン見していた。
俺が角を曲がってすぐは、連中はどうでもよさそうにゴミでも転がってきたような表情をしていた。
なのに、遅れて佐倉が現れた途端に全員が目をかっ開いた。
「佐倉……?」
これだけがっつり反応された上で無視をして通り過ぎることは難しい。
不良達に背を向けることは怖かったため、そろそろと後ろに下がって佐倉の隣に並んでから横目に佐倉の様子を窺う。
佐倉は佐倉で気まずそうに唇を歪めて目を細めていた。
「知り合い?」
「いやぁ、俺は知らないっすけど……」
「はあ!? 俺のこと殴り倒したのに忘れたってのか!?」
「俺のことは蹴り飛ばしただろうが!」
佐倉が首を捻りながら言ったことを、不良達がやいやいと否定する。
いつも明るく元気で爽やかな佐倉が、こいつらを殴ったり蹴ったりする様子は想像できない。
だけど不良達が嘘をつく理由もわからずに俺が困惑していると、佐倉が困った様子で頬を掻いた。
「そんなことも……、あったかもしれないっすけど、忘れたっす」
「忘れたっておまえ……」
相手を忘れるほど、暴力を振るうことが当たり前だった過去が佐倉にあったのか。
呆然としていると、不良達がいきり立ってこちらににじり寄ってきた。
「よくわかんねぇが、俺らは忘れてねぇんだよ!」
「この人数相手なら、さすがの佐倉も相手できねぇだろ」
拳をポキポキ鳴らしながら、不良漫画のテンプレみたいな表情で迫ってくる相手に俺は簡単に怯んでしまう。
こういう連中に絡まれたくないから、俺は陰キャとして地味に生きて来たのだ。
どう対応すればいいのかわからないのは当然のことだろう。
でも、佐倉が暴力を振るったり振るわれたりすることは嫌だと感じて、俺は佐倉の前にずいっと踏み出していた。
「凪パイ?」
「佐倉。逃げろ」
俺がボコボコにされている間で、どれだけ時間を稼げるかわからないが、佐倉が全力で走れば逃げることはできるはずだ。
自分にこんな勇気があるだなんて意外だったが、震える足を叱咤して、その場に踏みとどまっていると、佐倉が後ろから俺の手を掴んだ。
「一緒に逃げるっす!」
驚きで俺が声も出せないでいる間に、佐倉が俺の手を引いて駆け出す。
背後からは不良達の制止の声が届いていたけど、佐倉が長い脚で走るのに必死について行っていると、耳元で風を切る音に紛れて、そんな声も聞こえなくなった。
運動が苦手な俺のペースなんて考えることもなく、佐倉はぐんぐん足を前に出して俺を引っ張って走って行く。
動物園の傍にある人けのない公園まで走ったところで、俺は佐倉の手を強く握り返した。
「さっ、さくら! まって!」
人生でこんなに必死になって走ったことはない。
もう背後に不良の気配もしないため、俺がなんとか声をあげて止めると、佐倉も徐々に足を緩めて停まってくれた。
佐倉と片手は繋いだまま、もう片方の手を膝に突いてひいひい呼吸を整える。
息も絶え絶えな俺とは違って、佐倉も肩で息はしていたが、俺よりずっと涼しげな表情をしていた。
「大丈夫っすか?」
「大丈夫じゃねーよ。なんなんだよ、ほんとにっ」
どこかに座りたくて、佐倉と手を離した俺はふらふらとブランコに歩み寄ってドスンと腰掛ける。
佐倉は俺の様子を窺った後に、傍で水を二本買って来て、一本を俺に渡して隣のブランコに座った。
その佐倉を横目に一気に半分呷った水は、世界で一番美味しいんじゃないかと思うくらい冷たくて気持ちのいい味がした。
「ぷはっ、あー、ありがとな、佐倉」
「いや、巻き込んで申し訳なかったっす」
佐倉も軽く水分補給をしてはいたが、その横顔はわかりやすく落ち込んでいる。
覚えていないと言っていたが、あの不良達に佐倉が暴力を振るったというのはきっと本当なのだろう。
「一方的に殴ったり蹴ったりしたわけじゃなかったんじゃないの?」
事情は知らない。
だが、佐倉が何もないのに他人に暴力を振るうとは思えない。
佐倉を信じていることを伝えたくて、穏やかに話しかけると、佐倉が弾かれたようにこちらを向く。
そして、その大きな瞳に涙の膜を張って、突然ぼろっとこぼした。
街中で遭遇したら、目を合わせないように気を付けて、足早に過ぎ去るような連中だ。
そんな奴らが、なぜか俺達……というか、佐倉をガン見していた。
俺が角を曲がってすぐは、連中はどうでもよさそうにゴミでも転がってきたような表情をしていた。
なのに、遅れて佐倉が現れた途端に全員が目をかっ開いた。
「佐倉……?」
これだけがっつり反応された上で無視をして通り過ぎることは難しい。
不良達に背を向けることは怖かったため、そろそろと後ろに下がって佐倉の隣に並んでから横目に佐倉の様子を窺う。
佐倉は佐倉で気まずそうに唇を歪めて目を細めていた。
「知り合い?」
「いやぁ、俺は知らないっすけど……」
「はあ!? 俺のこと殴り倒したのに忘れたってのか!?」
「俺のことは蹴り飛ばしただろうが!」
佐倉が首を捻りながら言ったことを、不良達がやいやいと否定する。
いつも明るく元気で爽やかな佐倉が、こいつらを殴ったり蹴ったりする様子は想像できない。
だけど不良達が嘘をつく理由もわからずに俺が困惑していると、佐倉が困った様子で頬を掻いた。
「そんなことも……、あったかもしれないっすけど、忘れたっす」
「忘れたっておまえ……」
相手を忘れるほど、暴力を振るうことが当たり前だった過去が佐倉にあったのか。
呆然としていると、不良達がいきり立ってこちらににじり寄ってきた。
「よくわかんねぇが、俺らは忘れてねぇんだよ!」
「この人数相手なら、さすがの佐倉も相手できねぇだろ」
拳をポキポキ鳴らしながら、不良漫画のテンプレみたいな表情で迫ってくる相手に俺は簡単に怯んでしまう。
こういう連中に絡まれたくないから、俺は陰キャとして地味に生きて来たのだ。
どう対応すればいいのかわからないのは当然のことだろう。
でも、佐倉が暴力を振るったり振るわれたりすることは嫌だと感じて、俺は佐倉の前にずいっと踏み出していた。
「凪パイ?」
「佐倉。逃げろ」
俺がボコボコにされている間で、どれだけ時間を稼げるかわからないが、佐倉が全力で走れば逃げることはできるはずだ。
自分にこんな勇気があるだなんて意外だったが、震える足を叱咤して、その場に踏みとどまっていると、佐倉が後ろから俺の手を掴んだ。
「一緒に逃げるっす!」
驚きで俺が声も出せないでいる間に、佐倉が俺の手を引いて駆け出す。
背後からは不良達の制止の声が届いていたけど、佐倉が長い脚で走るのに必死について行っていると、耳元で風を切る音に紛れて、そんな声も聞こえなくなった。
運動が苦手な俺のペースなんて考えることもなく、佐倉はぐんぐん足を前に出して俺を引っ張って走って行く。
動物園の傍にある人けのない公園まで走ったところで、俺は佐倉の手を強く握り返した。
「さっ、さくら! まって!」
人生でこんなに必死になって走ったことはない。
もう背後に不良の気配もしないため、俺がなんとか声をあげて止めると、佐倉も徐々に足を緩めて停まってくれた。
佐倉と片手は繋いだまま、もう片方の手を膝に突いてひいひい呼吸を整える。
息も絶え絶えな俺とは違って、佐倉も肩で息はしていたが、俺よりずっと涼しげな表情をしていた。
「大丈夫っすか?」
「大丈夫じゃねーよ。なんなんだよ、ほんとにっ」
どこかに座りたくて、佐倉と手を離した俺はふらふらとブランコに歩み寄ってドスンと腰掛ける。
佐倉は俺の様子を窺った後に、傍で水を二本買って来て、一本を俺に渡して隣のブランコに座った。
その佐倉を横目に一気に半分呷った水は、世界で一番美味しいんじゃないかと思うくらい冷たくて気持ちのいい味がした。
「ぷはっ、あー、ありがとな、佐倉」
「いや、巻き込んで申し訳なかったっす」
佐倉も軽く水分補給をしてはいたが、その横顔はわかりやすく落ち込んでいる。
覚えていないと言っていたが、あの不良達に佐倉が暴力を振るったというのはきっと本当なのだろう。
「一方的に殴ったり蹴ったりしたわけじゃなかったんじゃないの?」
事情は知らない。
だが、佐倉が何もないのに他人に暴力を振るうとは思えない。
佐倉を信じていることを伝えたくて、穏やかに話しかけると、佐倉が弾かれたようにこちらを向く。
そして、その大きな瞳に涙の膜を張って、突然ぼろっとこぼした。
