「それってデートかも?」
「だよな!?」
その日の放課後、俺が珠代に昼休みのことを報告すると、珠代は天啓を受けたように言った。
俺もこの流れで週末に遊びに行くということはデートになってしまうのではないかと思ったのに、なぜか素直にうなずいていた。
あれよあれよという間に俺が動物好きだからという単純な理由で出掛け先は動物園に決定してしまい、佐倉は今も動物園の情報を調べては俺にメッセージで共有して楽しみにしていることを伝えてきている。
まちがいなくデート前の雰囲気のメッセージのやり取りまでは珠代に見せられなかったが、俺の表情を見て珠代は判断したらしい。
「判定はまちがいなくデート。紡は佐倉と付き合うの?」
「付き合うって……無理だろ。俺も佐倉も男じゃん」
「そんなの気にする人の方がおかしい。好きと好き同士なら付き合うべき」
珠代はいつも通りの無表情のまま、両手でそれぞれキツネを作って唇をくっつける。
我が道を行く珠代ならそう思うだろうが、男同士の交際を気持ち悪いと思う人だっているだろう。
俺はそう簡単に割り切ることはできなかった。
「俺はまだ佐倉を好きってことに決めたわけじゃないから。佐倉も俺を好きって決めたわけじゃない。それを確かめるためのおでかけだって佐倉も言ってたしな」
「もう決まってるようなものなのに」
「いいから! それより俺は服に困ってんの。なんかアドバイスしてくれよ」
「私とのおでかけで服に困ったことはある?」
「……ないけど」
「ふーん」
珠代が顎を上げ気味にしながらこくこくうなずく。
その口角はむにゅっと上がっていて、明らかに俺のことをからかっていたが、珠代はちゃんと俺に服装のアドバイスをしてくれた。
そして迎えた当日。
待ち合わせ場所である動物園最寄り駅の改札に行くと、やたら目立っている佐倉がいた。
人混みの中でも背の高い佐倉は頭一つ分高いから探さなくてもすぐにどこにいるかわかる。
シンプルな服装なのに、手足が長いからそこに立っているだけで佐倉はモデルみたいだった。
佐倉のいる空間だけがドラマのワンシーンみたいで、俺は傍に行くことに気後れしてしまう。
周囲の視線を集めているものの、それにすら慣れっこの様子の佐倉を遠目に見ていると、キョロキョロしていた佐倉と目が合った。
「あ! 凪パイ! ここっすよ!」
いつもの花を飛ばした笑顔で、佐倉が自分の居場所を知らせるためにぶんぶんと手を振る。
言われなくてもわかるのに、全力で自己主張してくる佐倉が可笑しくて笑ってしまった。
「そんなんしなくても、でかいからわかるっての」
「今日めちゃくちゃ楽しみにしてたっす。兎も触りたいっすね!」
「そうだな。行こう」
合流するまでは佐倉と並んで歩いて恥ずかしくないかなんて思っていたのに、話しはじめるとそんなことは何も気にならなくなる。
動物園に入り、いろいろな動物を見て回っている間、佐倉は子どもみたいにはしゃいでいて、俺も久しぶりに訪れた動物園に興奮していた。
小さな子ども達も多い中で、男子高校生二人組っていうのは異色だってわかっていた。
周りの目線は気になったけど、今日だけは気にしないようにして楽しんだ。
「凪パイといるといろんな気持ちになるっす」
広々とした動物園を歩き回り、小動物との触れあいエリアを堪能していると、あっという間に夕方になってしまった。
動物園のベンチに並んで座って、オレンジ色に染まる景色を見ていると、佐倉がぽつりと言った。
「今まで感じたことないくらいに楽しいなって思ったり、寂しいなって思ったりするっす」
「なんで寂しいんだよ?」
「もうすぐお別れじゃないっすか。一日があっという間過ぎて寂しいっす」
長い足を持て余しがちに座っている佐倉が、拗ねた子どもみたいに地面につま先で円を描く。
それを横目に見ながら俺は自販機で買ったカルピスを飲んだ。
「そんだけ楽しめたならよかったよ。俺も楽しかったし」
「俺、ほんとにすやぴの動画が大好きで、今でも毎晩見てるんすよ。だから、凪パイのお休みを独り占めできて、今最高の気分っす」
嬉しそうに話す佐倉の言葉は嬉しい。
だけど、俺はこれ以上佐倉に話させてはいけないと思い、立ち上がった。
「よっし。そろそろ帰ろう」
「後輩が寂しがってるのに、もう帰っちゃうんすか?」
「そうだよ。一日中歩きっぱなしで疲れたし」
うんと伸びをして、あえてさっぱりした空気になるように心掛ける。
空になったカルピスのペットボトルをゴミ箱に放り込み、「行くぞ」と急かしまでしたのは、佐倉に告白させないためだった。
今日一日、佐倉と一緒に過ごして、俺はわかってしまった。
佐倉は俺のことが好きなんだと思う。
そして、俺も佐倉のことが好きだ。
佐倉に惹かれた理由なんてわからない。
最初からピカピカ光って見えた佐倉が、俺が想像していたよりずっといい奴で、かわいかったからかもしれない。
佐倉がずっと感謝していたねむぴだったからなのかもしれない。
理由なんてどうだっていい。
結論として、俺は佐倉と付き合うことはできないっていうことが重要だった。
だって、俺と佐倉は男同士で陰キャと陽キャだ。
後者に関しては佐倉が勝手に区別するなみたいなことを言っていたけど、前者はどうしようもない壁として存在する事実だ。
周囲の視線なんてどうだっていいって思える勇気が俺にあるなら、佐倉とこのまま過ごしていた。
だけど、俺は目立つ佐倉の同性の恋人として隣に立つ自信がどうしてもなかった。
だから、佐倉がこれ以上自身の感情に言及する前に帰らなければと思ったんだ。
「凪パイ、待ってくださいよ」
「そんな早く歩いてないだろ?」
「そんなことないっすよ! めちゃ速っす!」
後ろを着いてくる佐倉の方が足が長いんだから、すぐに追いつけるだろうに、佐倉はとろとろ後ろを歩いてくる。
佐倉はきっと気持ちを俺に告げたいんだ。
わかっていたけど、伝えられたら断るしかないから、俺は早足に駅へと向かう角を曲がった。
「は?」
このまま平穏に家に帰る。
そして、佐倉とは今まで通りの距離感で先輩と後輩をやっていく。
俺はそう決めていたのに、うまくはいかないらしい。
角を曲がった先。
俺の目の前には、狭い道いっぱいに広がった不良集団がいた。
「だよな!?」
その日の放課後、俺が珠代に昼休みのことを報告すると、珠代は天啓を受けたように言った。
俺もこの流れで週末に遊びに行くということはデートになってしまうのではないかと思ったのに、なぜか素直にうなずいていた。
あれよあれよという間に俺が動物好きだからという単純な理由で出掛け先は動物園に決定してしまい、佐倉は今も動物園の情報を調べては俺にメッセージで共有して楽しみにしていることを伝えてきている。
まちがいなくデート前の雰囲気のメッセージのやり取りまでは珠代に見せられなかったが、俺の表情を見て珠代は判断したらしい。
「判定はまちがいなくデート。紡は佐倉と付き合うの?」
「付き合うって……無理だろ。俺も佐倉も男じゃん」
「そんなの気にする人の方がおかしい。好きと好き同士なら付き合うべき」
珠代はいつも通りの無表情のまま、両手でそれぞれキツネを作って唇をくっつける。
我が道を行く珠代ならそう思うだろうが、男同士の交際を気持ち悪いと思う人だっているだろう。
俺はそう簡単に割り切ることはできなかった。
「俺はまだ佐倉を好きってことに決めたわけじゃないから。佐倉も俺を好きって決めたわけじゃない。それを確かめるためのおでかけだって佐倉も言ってたしな」
「もう決まってるようなものなのに」
「いいから! それより俺は服に困ってんの。なんかアドバイスしてくれよ」
「私とのおでかけで服に困ったことはある?」
「……ないけど」
「ふーん」
珠代が顎を上げ気味にしながらこくこくうなずく。
その口角はむにゅっと上がっていて、明らかに俺のことをからかっていたが、珠代はちゃんと俺に服装のアドバイスをしてくれた。
そして迎えた当日。
待ち合わせ場所である動物園最寄り駅の改札に行くと、やたら目立っている佐倉がいた。
人混みの中でも背の高い佐倉は頭一つ分高いから探さなくてもすぐにどこにいるかわかる。
シンプルな服装なのに、手足が長いからそこに立っているだけで佐倉はモデルみたいだった。
佐倉のいる空間だけがドラマのワンシーンみたいで、俺は傍に行くことに気後れしてしまう。
周囲の視線を集めているものの、それにすら慣れっこの様子の佐倉を遠目に見ていると、キョロキョロしていた佐倉と目が合った。
「あ! 凪パイ! ここっすよ!」
いつもの花を飛ばした笑顔で、佐倉が自分の居場所を知らせるためにぶんぶんと手を振る。
言われなくてもわかるのに、全力で自己主張してくる佐倉が可笑しくて笑ってしまった。
「そんなんしなくても、でかいからわかるっての」
「今日めちゃくちゃ楽しみにしてたっす。兎も触りたいっすね!」
「そうだな。行こう」
合流するまでは佐倉と並んで歩いて恥ずかしくないかなんて思っていたのに、話しはじめるとそんなことは何も気にならなくなる。
動物園に入り、いろいろな動物を見て回っている間、佐倉は子どもみたいにはしゃいでいて、俺も久しぶりに訪れた動物園に興奮していた。
小さな子ども達も多い中で、男子高校生二人組っていうのは異色だってわかっていた。
周りの目線は気になったけど、今日だけは気にしないようにして楽しんだ。
「凪パイといるといろんな気持ちになるっす」
広々とした動物園を歩き回り、小動物との触れあいエリアを堪能していると、あっという間に夕方になってしまった。
動物園のベンチに並んで座って、オレンジ色に染まる景色を見ていると、佐倉がぽつりと言った。
「今まで感じたことないくらいに楽しいなって思ったり、寂しいなって思ったりするっす」
「なんで寂しいんだよ?」
「もうすぐお別れじゃないっすか。一日があっという間過ぎて寂しいっす」
長い足を持て余しがちに座っている佐倉が、拗ねた子どもみたいに地面につま先で円を描く。
それを横目に見ながら俺は自販機で買ったカルピスを飲んだ。
「そんだけ楽しめたならよかったよ。俺も楽しかったし」
「俺、ほんとにすやぴの動画が大好きで、今でも毎晩見てるんすよ。だから、凪パイのお休みを独り占めできて、今最高の気分っす」
嬉しそうに話す佐倉の言葉は嬉しい。
だけど、俺はこれ以上佐倉に話させてはいけないと思い、立ち上がった。
「よっし。そろそろ帰ろう」
「後輩が寂しがってるのに、もう帰っちゃうんすか?」
「そうだよ。一日中歩きっぱなしで疲れたし」
うんと伸びをして、あえてさっぱりした空気になるように心掛ける。
空になったカルピスのペットボトルをゴミ箱に放り込み、「行くぞ」と急かしまでしたのは、佐倉に告白させないためだった。
今日一日、佐倉と一緒に過ごして、俺はわかってしまった。
佐倉は俺のことが好きなんだと思う。
そして、俺も佐倉のことが好きだ。
佐倉に惹かれた理由なんてわからない。
最初からピカピカ光って見えた佐倉が、俺が想像していたよりずっといい奴で、かわいかったからかもしれない。
佐倉がずっと感謝していたねむぴだったからなのかもしれない。
理由なんてどうだっていい。
結論として、俺は佐倉と付き合うことはできないっていうことが重要だった。
だって、俺と佐倉は男同士で陰キャと陽キャだ。
後者に関しては佐倉が勝手に区別するなみたいなことを言っていたけど、前者はどうしようもない壁として存在する事実だ。
周囲の視線なんてどうだっていいって思える勇気が俺にあるなら、佐倉とこのまま過ごしていた。
だけど、俺は目立つ佐倉の同性の恋人として隣に立つ自信がどうしてもなかった。
だから、佐倉がこれ以上自身の感情に言及する前に帰らなければと思ったんだ。
「凪パイ、待ってくださいよ」
「そんな早く歩いてないだろ?」
「そんなことないっすよ! めちゃ速っす!」
後ろを着いてくる佐倉の方が足が長いんだから、すぐに追いつけるだろうに、佐倉はとろとろ後ろを歩いてくる。
佐倉はきっと気持ちを俺に告げたいんだ。
わかっていたけど、伝えられたら断るしかないから、俺は早足に駅へと向かう角を曲がった。
「は?」
このまま平穏に家に帰る。
そして、佐倉とは今まで通りの距離感で先輩と後輩をやっていく。
俺はそう決めていたのに、うまくはいかないらしい。
角を曲がった先。
俺の目の前には、狭い道いっぱいに広がった不良集団がいた。
