境内の灯りは変わらず柔らかいのに、その静けさだけが妙に遠かった。
「……戻るか」 昂夜が低く言うと、朔也は気楽に「ん」とだけ返した。
社務所の方へ向かい、渡り廊下の先の和室へ戻る。 障子の向こうに人の気配があって、昂夜は何気なく襖を開けた。
「司、壱太――」
言葉が止まる。
畳の真ん中で、壱太はまだ横になっていた。 しかも頭は、司の膝の上にあった。
「……」
一瞬、誰も動かなかった。
先に固まったのは司だった。昂夜と目が合った瞬間、みるみる耳まで赤くなる。
「ち、違います!」 反射的に声を上げる。 「これは、その、まだ起き上がらせるのもどうかと思って、休ませていただけで――」
「いや、別に何も言ってねぇけど」 昂夜は気まずそうに視線を逸らした。
言っていない。 言っていないが、見てしまった感じはある。
壱太だけはまるで動じていなかった。 司の膝に頭を乗せたまま、のんびりこちらを見上げる。
「あ、おかえりー」 いつもの調子だった。 「なんか司、起きたあともこのままでいてくれたんだよね」
「壱太!」 司の声が裏返る。 「余計なこと言わないでください!」
「余計じゃなくない?」 壱太はきょとんとする。 「優しいなーって思ってたとこ」
その一言で、司は完全に言葉を失った。
昂夜は片手で口元を押さえる。 笑う場面でもないのに、変な間ができると余計に困る。
「……悪い、入るタイミング間違えた」
「いえ、そういう問題ではなくてですね……!」
司は慌てて壱太の頭をどかそうとする。 けれど壱太は微動だにしない。
「えー、別にいいじゃん」
「よくないです!」
「なんで?」
「なんでもです!」
その横で、朔也だけがやけに静かだった。
と思ったら。
「へえ」 口元を緩める。 「そういう感じなんだ」
「そういう感じじゃありません!」 司が即座に否定する。
否定が早すぎて、余計に怪しい。 朔也は小さく笑った。
「ふうん」
それ以上は言わない。 でも顔は完全に言いたげだった。
昂夜はその表情を見て、なんとなく嫌な予感がした。 こいつ、絶対に今ので何か掴んだ顔してるな。
「……朔也、お前あとで余計なこと言うなよ」
「言わないって」
そう答えながら、目はまったく笑っていない。
壱太はそんな空気にも頓着せず、司の膝の上で少しだけ体勢を変えた。
「でも司の膝、思ったより楽なんだよね」
「もう起きてください!」 司が限界みたいな声を出す。 「顔色も戻ってるでしょう!」
「えー」
「えー、じゃないです!」
ようやく壱太がゆっくり起き上がる。 少し名残惜しそうですらあった。
司はすぐに距離を取り、膝の上から重みがなくなったことにほっとしているのか、逆に落ち着かないのか、自分でも分かっていない顔をしていた。
「……で」 壱太は何事もなかったみたいに座り直して昂夜たちを見る。 「そっちは終わった?」
その一言で、部屋の空気が少し戻る。
昂夜は一瞬だけ黙ってから、「一応な」と短く返した。
和んだような、和みきれないような、妙な空気のまま。 それでも、さっきまでの張り詰めた感じよりは少しだけ息がしやすくなっていた。
朔也はまだ薄く笑っている。 司はそれに気づいて、明らかに警戒した顔をした。 壱太だけが、どこか満足そうだった。
「……戻るか」 昂夜が低く言うと、朔也は気楽に「ん」とだけ返した。
社務所の方へ向かい、渡り廊下の先の和室へ戻る。 障子の向こうに人の気配があって、昂夜は何気なく襖を開けた。
「司、壱太――」
言葉が止まる。
畳の真ん中で、壱太はまだ横になっていた。 しかも頭は、司の膝の上にあった。
「……」
一瞬、誰も動かなかった。
先に固まったのは司だった。昂夜と目が合った瞬間、みるみる耳まで赤くなる。
「ち、違います!」 反射的に声を上げる。 「これは、その、まだ起き上がらせるのもどうかと思って、休ませていただけで――」
「いや、別に何も言ってねぇけど」 昂夜は気まずそうに視線を逸らした。
言っていない。 言っていないが、見てしまった感じはある。
壱太だけはまるで動じていなかった。 司の膝に頭を乗せたまま、のんびりこちらを見上げる。
「あ、おかえりー」 いつもの調子だった。 「なんか司、起きたあともこのままでいてくれたんだよね」
「壱太!」 司の声が裏返る。 「余計なこと言わないでください!」
「余計じゃなくない?」 壱太はきょとんとする。 「優しいなーって思ってたとこ」
その一言で、司は完全に言葉を失った。
昂夜は片手で口元を押さえる。 笑う場面でもないのに、変な間ができると余計に困る。
「……悪い、入るタイミング間違えた」
「いえ、そういう問題ではなくてですね……!」
司は慌てて壱太の頭をどかそうとする。 けれど壱太は微動だにしない。
「えー、別にいいじゃん」
「よくないです!」
「なんで?」
「なんでもです!」
その横で、朔也だけがやけに静かだった。
と思ったら。
「へえ」 口元を緩める。 「そういう感じなんだ」
「そういう感じじゃありません!」 司が即座に否定する。
否定が早すぎて、余計に怪しい。 朔也は小さく笑った。
「ふうん」
それ以上は言わない。 でも顔は完全に言いたげだった。
昂夜はその表情を見て、なんとなく嫌な予感がした。 こいつ、絶対に今ので何か掴んだ顔してるな。
「……朔也、お前あとで余計なこと言うなよ」
「言わないって」
そう答えながら、目はまったく笑っていない。
壱太はそんな空気にも頓着せず、司の膝の上で少しだけ体勢を変えた。
「でも司の膝、思ったより楽なんだよね」
「もう起きてください!」 司が限界みたいな声を出す。 「顔色も戻ってるでしょう!」
「えー」
「えー、じゃないです!」
ようやく壱太がゆっくり起き上がる。 少し名残惜しそうですらあった。
司はすぐに距離を取り、膝の上から重みがなくなったことにほっとしているのか、逆に落ち着かないのか、自分でも分かっていない顔をしていた。
「……で」 壱太は何事もなかったみたいに座り直して昂夜たちを見る。 「そっちは終わった?」
その一言で、部屋の空気が少し戻る。
昂夜は一瞬だけ黙ってから、「一応な」と短く返した。
和んだような、和みきれないような、妙な空気のまま。 それでも、さっきまでの張り詰めた感じよりは少しだけ息がしやすくなっていた。
朔也はまだ薄く笑っている。 司はそれに気づいて、明らかに警戒した顔をした。 壱太だけが、どこか満足そうだった。



