怪異、お持ち帰り注意

 ぱち、と最後に小さな音が弾けて、火が落ち着いた。  煙は細くなり、夜の空気に溶けていく。
「これで、ひとまずは」
 神主の穏やかな声が区切りをつけた。  供養は滞りなく終わったらしい。昂夜は頭を下げ、隣で朔也も軽く会釈する。
「長く人の手にあったものには、どうしても念が残りますから」
「……ええ」
 神主の説明はよくあるものだった。  だからこそ、さっきの違和感が余計に引っかかった。炎の中で崩れなかった人形。壱太の様子。そして、何も見えていない朔也。
 神主が去り、残されたのはふたりだけだった。
「……終わったな」  昂夜が言う。
「そうだな」  朔也はあっさり返した。 「なんもなかったじゃん」
 昂夜はすぐに返せなかった。
「……お前、本当に何も感じなかったのか」
「何が」
「さっきの燃え方」
「ああ。普通に燃えてただろ」
「普通じゃなかった。形、残ってた」
「そうか?」
 食い違いがあまりにも自然だった。  演技ではない。本当に見えていない。
「壱太のことも見てたよな」
「見てたけど。ちょっとぼーっとしてただけだろ」
「……あれがか」
「よくあるじゃん、ああいうの」
 その“よくある”の基準が分からない。  これ以上聞いても、答えは変わらない気がした。
「まあ、終わったならいいんじゃね」  朔也は軽く伸びをした。 「司と壱太のとこ戻るか」
「……ああ」
 そう答えた時、昂夜のスマホが震えた。  動画のコメント通知だった。
「……なんだ、これ」
「どうした」  朔也が覗き込む。
 昂夜は画面をスクロールする。
 かわいい  うちに来てほしい  大丈夫だよ、寂しくないから  ちゃんと大事にするよ  戻ってきて
「……は?」  朔也が小さく笑う。 「普通じゃん」
「どこがだ」  昂夜は思わず声を強めた。 「人形だぞ」
「だからだろ」
「違う」
 即座に否定する。  単なる感想じゃない。もっと直接的な、呼びかけに近い。
 背筋が冷えた。  さっきの炎の中の形が、頭をよぎる。崩れなかった人形。そして今、消えていない対象。
「……消えてない」
「何が」
「終わってない」
 どこまで見ても、同じような言葉が並んでいる。数が多すぎる。偶然じゃない。
「……おい」  朔也が呼ぶ。
 昂夜が顔を上げると、朔也はいつも通りの調子で言った。
「そんな顔すんなよ。終わったって」
 その言葉を、昂夜はすぐには受け入れられなかった。
 終わったはずなのに、何かがまだ続いている。  見えないまま、確実に。