怪異、お持ち帰り注意

 骨董市は思ったより人が多かった。河川敷に露店が並び、古い食器や着物や木箱が雑多に積まれている。
「なんで俺まで来てるんだろうな」
「暇だったからだろ」
 朔也はいつもの調子だった。昂夜は小さく息を吐く。
「暇だとは言ったけど、骨董市に付き合うとは言ってねえ」
「今いるじゃん」
 軽口を交わしながら歩いていた時、朔也の足が止まった。
 露店の端に、二枚貝の小物が並んでいた。白と薄桃の貝殻が二つ、ぴたりと対になるように置かれている。朔也が片方を持ち上げると、もう片方が小さく揺れた。
「二枚でひとつっぽいな」
 店番の老人が奥から言う。
「昔の縁起物らしいよ。蔵から出たとかでねえ」
 朔也はそのまま貝殻を見ていた。昂夜は嫌な予感がした。
「やめとけ」
「でも、気になる」
 下に敷かれていた古びた札まで見つけて、昂夜はすぐ顔をしかめる。
「札付きの時点でアウトだろ」
「でも綺麗じゃね」
「綺麗かどうかじゃねえ」
 結局、止めきれなかった。朔也は二枚貝を買い、帰りの駅で袋を開けた拍子に封じ札を落とした。電車の風と人の足元に紛れて、そのまま見失う。
「……まあ、いっか」
「よくねえだろ」
 昂夜が呆れる間に電車が来る。乗り込んだ車内で、朔也は片方を昂夜へ差し出した。
「はい」
「いらねえよ」
「二つで一組なら、分けた方がいいだろ」
 変な理屈だったが、昂夜は押し切られて受け取ってしまった。
「何かあったらお前のせいだからな」
「だろうな」
 その夜、昂夜はすぐ後悔した。
 帰ってしばらくは何もなかった。だが寝る前になって急に体が重くなる。熱はないのにだるい。胸のあたりが詰まって息が浅い。立ち上がると足元がふらつき、ひとりでいるのが妙に不安だった。
 机の上の貝殻が目に入る。
「……まさか」
 昂夜はスマホを掴み、朔也へ送った。
 これ、ヤバいやつだろ……
 すぐ既読がつく。返事も早かった。
 俺も少し変
 その一文で確信した。やはりこれだ。
 だが今から朔也の部屋へ行く気力はなかった。体が重すぎる。布団へ倒れ込み、スマホを握ったまま夜をやり過ごす。息苦しさは朝方に少しずつ引いたが、完全には消えない。
 むしろ、一晩で死なない程度に収まったことの方が不気味だった。