深淵の幼なじみ

「わぁー!!!」

至は、黄色いワンピースを着たガイ骨女への恐怖で絶叫し、後ろに倒れそうになった。

そこに葵の体にいる僚が、至が倒れないように前から抱き締めた。

そして、からかうように笑った。

「オイっ!しっかりしろよ!ガキの頃から本当変わんねービビリだな」

「誰でも、誰でもビビるわ!普通!」

至は、抱き締めてくる僚に猛抗議したが、やがて恐る恐る再びガイ骨女の方にゆっくり視線を向けた。

彼女はその場から動かず、ただ、ただじっと至達を見ていた。

至は、ガイ骨なので彼女の感情が表情から読み取れない。

だだ、美しい長い黒髪がサラサラと風に揺れている。

やがて、ガイ骨女の姿が消えていく。

「あっ!」

至が驚くと、僚がニヤリとして言った。

「美人とお別れは辛いか?」

「僚!お前なぁ!でも……消えた!」

「ああ…俺が左手を人間の身体に当てればその人間に霊を視せられるけど、長い時間は無理だ」

「えっ?!」

「俺が体を借りてる葵のその日の体力にもよるが…長くて5分がいい所だな…それに今日は、葵の調子がまぁいいから長い方だな」

事も無げにあっけらかんとそう言う僚。

それを聞き至は、思わずさっきまでの恐怖を忘れ、僚に迫るように真剣に聞いた。

「葵は、葵は…今、今、どうしてるんだ?」

すると、僚は何故か目を眇め、背の高さから至を暫く黙って見おろしたが…

「……葵もこの体の中にいて、俺と入れ替わっただけでちゃんと意識はある。こうやって喋ってる事もちゃんと聞いてるよ…」

僚は何故か、ふてくされたように言った。

「そうか…葵…葵…今、俺の声、聞いてる?」

至は、嬉しそうに言った。

すると…

「てんめぇ…至!今お前を助けてんの…誰か分かってんのかよ!」

葵の両手を使い僚が、至の両頬を左右から思いっきりはさみ上げ、更に上下にずらし変顔にする。

小さい頃、よく僚が至にしていたそのままだ。

決して、葵はこんな事を至にはしなかった。

「いらい!(いたい!)いらい!(いたい!)りょほー!(僚ー!)」

至が叫んだ。

僚はすぐに手を離すと、今度は至の腕を強く掴み真剣に言った。

「あの霊がどんな奴かはわからない。どうする?おばちゃん助けに行くか?それともやめとくか?」

至は、真っすぐに葵の中にいる僚を見詰めて答えた。

「僚と葵はここで待ってて。おばさんは俺が探してくる」

本当は、至は死ぬ程怖かった。
でも、自分の母親と同じ年齢くらいの女性を、至はほってはおけなかった。

すると…

「ダメだよ、至。至こそここにいて」

その声は静かで優しくて、至は、すぐに今は葵が目の前にいると確信した。