バレンタイン。
それは、一年に一度、愛を伝える特別な日──。
「なにがバレンタインデーじゃボケぇ!」
朝の登校中。
友人の佐々木哲司の咆哮に、俺、須田良平は耳を押さえて怒鳴り返す。
「朝からなんやねん! 荒れすぎやろ!」
「どこもかしこも、チョコ! 愛! ラブ! もうええて!」
「ええやんかバレンタイン。佐々木だってチョコもらえるかもしれんやん」
「適当なこと言うなや〇すぞ」
言い過ぎやろ。
「いや、可能性もなくはないやろ?」
「ないって!」
佐々木はぴしゃりと言い捨て、薄汚れた校門をばんばん叩く。
「だってここ、男子校やぞ!?」
俺たちが通っているのは創立七十年を超える老舗の男子校。
校内には世間のようなラブラブな雰囲気は一切なく、絶望と諦め、悟りの境地に至った生徒たちがさまよっている。
「こんなところに入学した時点で、俺たちの青春は終わってるも同然や!」
昇降口につくと、佐々木は靴を乱暴に脱ぎ捨てる。
「バレンタインなんて、どうせ俺らには無縁の……!?」
下駄箱の扉を開けた瞬間、佐々木が石のように固まる。
「どした?」
「チョ、チョチョチョチョ、チョコや……!?」
佐々木が下駄箱から取り出したのは透明なビニールの小さな包み。
ピンク色のリボンがあしらわれた袋の中にはカップに入った一口サイズのチョコが入っていた。
「しかもこれ手作りやん……! このかわいい梱包! 間違いない! 絶対に女子や!」
そういって家宝のように包みを抱きしめる佐々木に、俺は唇をぎゅっと結んで笑いをこらえる。
「あれれぇ? なんか入ってるぞぉ?」
「え……? 手紙や!?」
やっと気づいた佐々木はキレイに折られた花柄の手紙を広げる。
「『ずっと前から好きでした。放課後、体育館裏で待ってます』……って。このかわいい字、絶対に女子や!」
「ぶふぉっ……!」
俺は顔をそらし、必死に耐える。
あかん。今はまだ笑ったらあかん……。
呼吸を整え、佐々木に問いかける。
「うーん、誰なんやろなぁ」
「この際もう誰でもいい! だって見てみ、このかわちこなチョコ!」
かわちこ、て。
「俺はこの愛情たっぷりな手作りチョコに惚れたんや! バレンタインデー最高ぉう!」
愛情たっぷり、ねぇ。
舞い上がる佐々木に気づかれないよう、俺はにやりと口角を上げる。
放課後。
強く差し込む西日を浴びながら階段を下りていると、前を歩いていた佐々木が疎ましそうに振り返る。
「お前ついてくんなや」
「ええやん。てか、なにその髪型?」
「なにが? べつにいつも通りですけど」
べったりとワックスで塗り固めたオールバック佐々木とともに体育館裏で待っていると、背後から足音が聞こえる。
「来た!?」
緊張と期待に染まった佐々木が振り返るも、現れたのは大きな花束を抱えた同じクラスの神谷だった。
「二人とも、なにしてんの?」
「神谷こそなんでここに。てか、その花束どうしたん?」
「まぁ、いろいろ……。てか用がないならどっかいってや。これから俺、大事な用あんねん」
「そんなん俺かて。……あれ?」
神谷と佐々木が言い合っていると、続いてぞろぞろとクラスメイト達がやってくる。
中山、松園、野崎、峰尾……、ほかにもたくさん。
いつもは根性とともに背筋が曲がった男子たちが、皆一様にシャキッとしている。
「なんやねんお前ら! 立花先生までなにしてんすか!?」
気合の入ったクラスメイトの中に紛れていたタキシード姿の立花先生が、ぎくりと肩を上げる。
「お、お前らこそ! お子ちゃまははよ帰れ!」
ギャーギャーと騒ぎ出すクラスメイト達に、佐々木は泣きつくように声を上げる。
「もう勘弁してや!? これから一世一代の勝負やねん!」
「はぁ? 勝負ってなんやねん!?」
「やから! 俺今からチョコくれた子に告白するんよ! 邪魔せんとっ……て?」
佐々木の言葉に、騒がしかった空気が一変し、水を打ったような静けさがあたりを包む。
「え、なに?」
「……佐々木がもらったのって、もしかしてこれ?」
そういって神谷は綺麗に折られた花柄の手紙を取り出す。
「なんで神谷が持ってるん? え、みんなも?」
他のみんな、立花先生も同様に花柄の手紙を取り出し、佐々木は目を見開く。
もうあかん! 耐えられへん!
「ぶふっ……!」
「なに笑てんねん、……須田?」
みんなの視線が一気に集まり、俺を捉える。
「なぁ佐々木、チョコ美味しかった?」
「う、美味かったよ……?」
「そっか。よかった」
「よかったって? お前、まさか……!?」
声を震わせる佐々木に、俺は両手を広げてみせる。
「そのチョコ、俺が作りました~!」
「はぁあ!?」
みんなの声が重なりあい、笑いのツボに刺さりまくる。
あかん、おもろすぎるっ……!
みんなのリアクション、最高すぎやろ!
「じゃあ、ラッピングも……」
「百均でそれっぽいものを買いました」
「この手紙も」
「何回も書き直しました」
わざわざ早朝に学校に行ってみんなの下駄箱に仕込み、一度家に帰って佐々木と一緒に登校したことを告げると、みんなは信じられないと、口々にこぼす。
「なんて手の込んだイタズラを……!」
「人の心がないのか!」
「おい! 立花先生が泣いてるぞ!」
みんなの罵詈雑言を浴びながらケラケラと笑っていると、誰かの叫びが耳に留まった。
「どうしてこんなことを!?」
「それは……」
正直、みんなに配ったのはマジの気まぐれ。ただのイタズラだ。
俺はただ、お菓子作りが大好きで、自分で作ったお菓子をみんなに食べてほしかっただけだ。
……でも。
──良平がお菓子作りとか似合わなすぎやろ!
もはや誰に言われたかも思い出せない言葉が、俺の喉をきゅっと絞る。
口から出かけた本音を飲み込み、再び口角を吊り上げる。
「お前らの絶望に歪んだ顔を見たかったからさっ!」
「なんだこいつ」
「悪役すぎる」
高笑いを決め込んでいると、佐々木が膝から崩れ落ちる。
「そ、そんな……、じゃあ、俺の運命の相手は……」
「俺です。ごめんちゃい♡」
きゃぴ、と首をかしげてウインクすると、佐々木はぼそりと呟く。
「……〇す」
「え」
「ぶっ〇す! いくぞみんな!」
「おわっ!?」
佐々木に煽動されたクラスメイト達が一斉に俺目掛けて飛び込んでくる。
俺はかろうじて避け、そのまま校舎へと逃げ込む。
階段を駆け上がり、廊下を突き抜ける途中。
誰もいないはずの教室に立つ、一人の男子を見つけた。
あいつはたしか、隣のクラスに転校してきたやつ、……やっけ。
「なにしてんの?」
「わ、びっくりした……」
そういって振り向く転校生を見て、思わず息をのむ。
かっこよぉ……!?
顔面偏差値ばり高やん!
髪の毛サラサラ、鼻たっか、目きらっきら。
おまけに、背も高い。ほんまに俺と同じ高一かよ。
さすが東京から来た都会人は、わてのようなドブ生まれドブ育ちの関西人とは作画が違いますわ。
転校生の輝きに思わず心の中の卑屈関西人が下卑た笑いを浮かべていると、転校生の手にチョコが入った包みと花柄の手紙が握られているのに気づいた。
そういえば、一個余って適当にほかのクラスの下駄箱に入れたんやった。
「体育館裏に行こうとしてた?」
「うん。今から行こうかと」
爽やかに答える転校生に、ぐふふ、と笑いがこみ上げる。
さてさて、ドイケメン転校生はどんなリアクションをするかな……!?
俺は期待を寄せながら、再びテッテレーと両手を広げる。
「残念でしたぁ! それは俺が作ったチョコで~す!」
しかし。
「うん。知ってる」
「えっ」
知ってる? なんで?
ほかのやつらみんな騙せたのに?
きっと誰よりもアホ面をしながら困惑する俺に、転校生は柔らかくほほ笑む。
「これ、本命のチョコだよね?」
「ほ、本命って……」
想定外のリアクションに動揺する俺をよそに、転校生は包みから取り出したチョコをそっとかじる。
イケメンはチョコ食うだけで画になるなぁ。
ぼんやりと眺めていると、転校生は幸せそうに笑みをこぼす。
「美味しい」
転校生の甘い囁きに、胸のあたりが熱くなる。
ドクン……、ちゃうわ!
なにを高鳴ってんねん、俺の心臓!
「ま、まぁな! 俺の愛情をたっぷり注いでるからな!」
ペースを乱された俺は指ハートを作り、転校生へと差し出す。
『やめろや!』とか、『きもいねん!』とか。
そんなリアクションが来ると思っていたのに、転校生は口元に手を当て、小さく呟く。
「そっか……」
そっか、やないねん!
なんやねんその顔は!
目を伏せるな! ほっぺを赤らめるな!
なんでこいつ、ガチ照れしてんねん!
「いや、なんか勘違いしてるかもしれんけど、これは……っ!?」
訂正しようとした矢先、転校生は俺の指ハートをぎゅっと包み込む。
「チョコのお返しはちゃんとするから。それまで告白の返事は待ってほしい」
「こ、告白……!?」
慌てて手を引っ込めようとした瞬間、ふと冷静になる。
いや、なにを本気で受け取ってんねん。
こんなの、ギャグに決まってるやん。
東京から来た転校生やからって甘く見てたわ。チョコだけに。
俺は引っ込みかけた手をさらに強く握り返す。
「お、おう! ホワイトデー楽しみにしてるわ!」
これが正解の返し、やんな……?
さらにほっぺを赤く染める転校生に首をかしげていた、そのとき。
「須田ぁ!」
廊下の向こうから佐々木の怒号が轟いてくる。
「やばっ!? じゃあな! 転校生!」
「鏑木」
「えっ」
転校生は俺の手を握ったまま、優しく繰り返す。
「俺の名前、鏑木進」
「そっか! 俺は」
「須田良平」
「お! 知ってたか! じゃあな鏑木!」
鏑木に手を振り、教室を飛び出す。
おもろいやつやん、鏑木。
もっと早く話しとけばよかったな。
──美味しい。
そんなことを考えていると、ふいにチョコをかじったときの鏑木の表情が脳裏によぎる。
……なんやろ、この感じ。
激しく高鳴る心臓を抑えながら、階段を駆け下りた。
それは、一年に一度、愛を伝える特別な日──。
「なにがバレンタインデーじゃボケぇ!」
朝の登校中。
友人の佐々木哲司の咆哮に、俺、須田良平は耳を押さえて怒鳴り返す。
「朝からなんやねん! 荒れすぎやろ!」
「どこもかしこも、チョコ! 愛! ラブ! もうええて!」
「ええやんかバレンタイン。佐々木だってチョコもらえるかもしれんやん」
「適当なこと言うなや〇すぞ」
言い過ぎやろ。
「いや、可能性もなくはないやろ?」
「ないって!」
佐々木はぴしゃりと言い捨て、薄汚れた校門をばんばん叩く。
「だってここ、男子校やぞ!?」
俺たちが通っているのは創立七十年を超える老舗の男子校。
校内には世間のようなラブラブな雰囲気は一切なく、絶望と諦め、悟りの境地に至った生徒たちがさまよっている。
「こんなところに入学した時点で、俺たちの青春は終わってるも同然や!」
昇降口につくと、佐々木は靴を乱暴に脱ぎ捨てる。
「バレンタインなんて、どうせ俺らには無縁の……!?」
下駄箱の扉を開けた瞬間、佐々木が石のように固まる。
「どした?」
「チョ、チョチョチョチョ、チョコや……!?」
佐々木が下駄箱から取り出したのは透明なビニールの小さな包み。
ピンク色のリボンがあしらわれた袋の中にはカップに入った一口サイズのチョコが入っていた。
「しかもこれ手作りやん……! このかわいい梱包! 間違いない! 絶対に女子や!」
そういって家宝のように包みを抱きしめる佐々木に、俺は唇をぎゅっと結んで笑いをこらえる。
「あれれぇ? なんか入ってるぞぉ?」
「え……? 手紙や!?」
やっと気づいた佐々木はキレイに折られた花柄の手紙を広げる。
「『ずっと前から好きでした。放課後、体育館裏で待ってます』……って。このかわいい字、絶対に女子や!」
「ぶふぉっ……!」
俺は顔をそらし、必死に耐える。
あかん。今はまだ笑ったらあかん……。
呼吸を整え、佐々木に問いかける。
「うーん、誰なんやろなぁ」
「この際もう誰でもいい! だって見てみ、このかわちこなチョコ!」
かわちこ、て。
「俺はこの愛情たっぷりな手作りチョコに惚れたんや! バレンタインデー最高ぉう!」
愛情たっぷり、ねぇ。
舞い上がる佐々木に気づかれないよう、俺はにやりと口角を上げる。
放課後。
強く差し込む西日を浴びながら階段を下りていると、前を歩いていた佐々木が疎ましそうに振り返る。
「お前ついてくんなや」
「ええやん。てか、なにその髪型?」
「なにが? べつにいつも通りですけど」
べったりとワックスで塗り固めたオールバック佐々木とともに体育館裏で待っていると、背後から足音が聞こえる。
「来た!?」
緊張と期待に染まった佐々木が振り返るも、現れたのは大きな花束を抱えた同じクラスの神谷だった。
「二人とも、なにしてんの?」
「神谷こそなんでここに。てか、その花束どうしたん?」
「まぁ、いろいろ……。てか用がないならどっかいってや。これから俺、大事な用あんねん」
「そんなん俺かて。……あれ?」
神谷と佐々木が言い合っていると、続いてぞろぞろとクラスメイト達がやってくる。
中山、松園、野崎、峰尾……、ほかにもたくさん。
いつもは根性とともに背筋が曲がった男子たちが、皆一様にシャキッとしている。
「なんやねんお前ら! 立花先生までなにしてんすか!?」
気合の入ったクラスメイトの中に紛れていたタキシード姿の立花先生が、ぎくりと肩を上げる。
「お、お前らこそ! お子ちゃまははよ帰れ!」
ギャーギャーと騒ぎ出すクラスメイト達に、佐々木は泣きつくように声を上げる。
「もう勘弁してや!? これから一世一代の勝負やねん!」
「はぁ? 勝負ってなんやねん!?」
「やから! 俺今からチョコくれた子に告白するんよ! 邪魔せんとっ……て?」
佐々木の言葉に、騒がしかった空気が一変し、水を打ったような静けさがあたりを包む。
「え、なに?」
「……佐々木がもらったのって、もしかしてこれ?」
そういって神谷は綺麗に折られた花柄の手紙を取り出す。
「なんで神谷が持ってるん? え、みんなも?」
他のみんな、立花先生も同様に花柄の手紙を取り出し、佐々木は目を見開く。
もうあかん! 耐えられへん!
「ぶふっ……!」
「なに笑てんねん、……須田?」
みんなの視線が一気に集まり、俺を捉える。
「なぁ佐々木、チョコ美味しかった?」
「う、美味かったよ……?」
「そっか。よかった」
「よかったって? お前、まさか……!?」
声を震わせる佐々木に、俺は両手を広げてみせる。
「そのチョコ、俺が作りました~!」
「はぁあ!?」
みんなの声が重なりあい、笑いのツボに刺さりまくる。
あかん、おもろすぎるっ……!
みんなのリアクション、最高すぎやろ!
「じゃあ、ラッピングも……」
「百均でそれっぽいものを買いました」
「この手紙も」
「何回も書き直しました」
わざわざ早朝に学校に行ってみんなの下駄箱に仕込み、一度家に帰って佐々木と一緒に登校したことを告げると、みんなは信じられないと、口々にこぼす。
「なんて手の込んだイタズラを……!」
「人の心がないのか!」
「おい! 立花先生が泣いてるぞ!」
みんなの罵詈雑言を浴びながらケラケラと笑っていると、誰かの叫びが耳に留まった。
「どうしてこんなことを!?」
「それは……」
正直、みんなに配ったのはマジの気まぐれ。ただのイタズラだ。
俺はただ、お菓子作りが大好きで、自分で作ったお菓子をみんなに食べてほしかっただけだ。
……でも。
──良平がお菓子作りとか似合わなすぎやろ!
もはや誰に言われたかも思い出せない言葉が、俺の喉をきゅっと絞る。
口から出かけた本音を飲み込み、再び口角を吊り上げる。
「お前らの絶望に歪んだ顔を見たかったからさっ!」
「なんだこいつ」
「悪役すぎる」
高笑いを決め込んでいると、佐々木が膝から崩れ落ちる。
「そ、そんな……、じゃあ、俺の運命の相手は……」
「俺です。ごめんちゃい♡」
きゃぴ、と首をかしげてウインクすると、佐々木はぼそりと呟く。
「……〇す」
「え」
「ぶっ〇す! いくぞみんな!」
「おわっ!?」
佐々木に煽動されたクラスメイト達が一斉に俺目掛けて飛び込んでくる。
俺はかろうじて避け、そのまま校舎へと逃げ込む。
階段を駆け上がり、廊下を突き抜ける途中。
誰もいないはずの教室に立つ、一人の男子を見つけた。
あいつはたしか、隣のクラスに転校してきたやつ、……やっけ。
「なにしてんの?」
「わ、びっくりした……」
そういって振り向く転校生を見て、思わず息をのむ。
かっこよぉ……!?
顔面偏差値ばり高やん!
髪の毛サラサラ、鼻たっか、目きらっきら。
おまけに、背も高い。ほんまに俺と同じ高一かよ。
さすが東京から来た都会人は、わてのようなドブ生まれドブ育ちの関西人とは作画が違いますわ。
転校生の輝きに思わず心の中の卑屈関西人が下卑た笑いを浮かべていると、転校生の手にチョコが入った包みと花柄の手紙が握られているのに気づいた。
そういえば、一個余って適当にほかのクラスの下駄箱に入れたんやった。
「体育館裏に行こうとしてた?」
「うん。今から行こうかと」
爽やかに答える転校生に、ぐふふ、と笑いがこみ上げる。
さてさて、ドイケメン転校生はどんなリアクションをするかな……!?
俺は期待を寄せながら、再びテッテレーと両手を広げる。
「残念でしたぁ! それは俺が作ったチョコで~す!」
しかし。
「うん。知ってる」
「えっ」
知ってる? なんで?
ほかのやつらみんな騙せたのに?
きっと誰よりもアホ面をしながら困惑する俺に、転校生は柔らかくほほ笑む。
「これ、本命のチョコだよね?」
「ほ、本命って……」
想定外のリアクションに動揺する俺をよそに、転校生は包みから取り出したチョコをそっとかじる。
イケメンはチョコ食うだけで画になるなぁ。
ぼんやりと眺めていると、転校生は幸せそうに笑みをこぼす。
「美味しい」
転校生の甘い囁きに、胸のあたりが熱くなる。
ドクン……、ちゃうわ!
なにを高鳴ってんねん、俺の心臓!
「ま、まぁな! 俺の愛情をたっぷり注いでるからな!」
ペースを乱された俺は指ハートを作り、転校生へと差し出す。
『やめろや!』とか、『きもいねん!』とか。
そんなリアクションが来ると思っていたのに、転校生は口元に手を当て、小さく呟く。
「そっか……」
そっか、やないねん!
なんやねんその顔は!
目を伏せるな! ほっぺを赤らめるな!
なんでこいつ、ガチ照れしてんねん!
「いや、なんか勘違いしてるかもしれんけど、これは……っ!?」
訂正しようとした矢先、転校生は俺の指ハートをぎゅっと包み込む。
「チョコのお返しはちゃんとするから。それまで告白の返事は待ってほしい」
「こ、告白……!?」
慌てて手を引っ込めようとした瞬間、ふと冷静になる。
いや、なにを本気で受け取ってんねん。
こんなの、ギャグに決まってるやん。
東京から来た転校生やからって甘く見てたわ。チョコだけに。
俺は引っ込みかけた手をさらに強く握り返す。
「お、おう! ホワイトデー楽しみにしてるわ!」
これが正解の返し、やんな……?
さらにほっぺを赤く染める転校生に首をかしげていた、そのとき。
「須田ぁ!」
廊下の向こうから佐々木の怒号が轟いてくる。
「やばっ!? じゃあな! 転校生!」
「鏑木」
「えっ」
転校生は俺の手を握ったまま、優しく繰り返す。
「俺の名前、鏑木進」
「そっか! 俺は」
「須田良平」
「お! 知ってたか! じゃあな鏑木!」
鏑木に手を振り、教室を飛び出す。
おもろいやつやん、鏑木。
もっと早く話しとけばよかったな。
──美味しい。
そんなことを考えていると、ふいにチョコをかじったときの鏑木の表情が脳裏によぎる。
……なんやろ、この感じ。
激しく高鳴る心臓を抑えながら、階段を駆け下りた。



