青春はスクリーンの手前に

 学校を出て北方向に10分ほど歩くと線路があって、私たちはそこで足を止めた。

「電車ってどう?」

 ぽつりと言った柊くんと同じ方向に視線を向ける。
 いかにも主要な駅…の周辺の駅。
 住宅街に突如広がる、いくつもの路線。

「あ…うん!いい!単線だとノスタルジックになりすぎるけど、長い列車が通る大きな線路の方がタイムリープの映像と相性良さそうで…過去に飛んだ瞬間とか、いい気がする!」

 私が頷く代わりに息継ぎする間もなく喋ると、柊くんが短く笑った。

「急に監督みたいに喋るじゃん」

 その瞬間、貨物列車がガタンゴトンと目の前を通り過ぎていく。

 長いコンテナが続き、一定のリズムで響く車輪音が、早まった心拍を落ち着かせる。
 やがて最後尾が遠ざかり、ふと静かになる。
 隣に視線を移すと柊くんが私を見ていて、思わず息を呑む。

「相当好きなんだね、映画」
「……うん」

 私は、もう一度視線を線路に戻した。
 また遠くで車輪の音が聞こえてくる。

「…でも今の絵、浮かんだわ」

 そう言った彼の表情は、それこそクリエイター。

「ほ、ほんと?」

「うん。
 なんでか楠木さんが語り出すと浮かぶ」

 ヒヒっと笑った柊くん。
 私はまたハンディファンの電源を入れた。

「でも、なんか過去に戻って未練解消しましょーって、既視感しかねぇな」
「ミッション変えるか。あえて未練を作って未来に残す」
 冗談なのか本気なのか分からないアイデア。
 私は一応全部ルーズリーフにメモする。
 それを読んで彼が更に書き加えた。

 屋外だから字はくちゃくちゃだし誤字脱字だらけ。
 もしかしたら後から読解できないかもしれない。
 でもそれは確かに私たちから生まれた脚本の種。
 ひと通り書き終えたら、角をきっちり揃えて折りたたんだ。

 部室に戻ると、高梨先輩だけが残っていて「おかえり」と出迎えてくれた。

「遅くなってすみませんでしたっ」

 私が焦ったように頭を下げると、高梨先輩は気にしないでと笑った。

「創作してると、時間を忘れちゃうよね」
「あ…そうですね。つい」

 ついこの間まで観る専門だったのに。
 もうだいぶ作る側に片足を突っ込んでる。

「部長としては、色んな部員が意欲的なのは部内選考が活気付くから嬉しい限り」

 高梨先輩は部室の入り口にチラリと目をやると続けた。

「ところで、相棒はどこに行ったのかしら」

 あれ?
 さっきまですぐ後ろを歩いていたのに。
 廊下を覗くと、扉のすぐ外で座り込んでルーズリーフに何やら書き込んでいた。

「柊くん、なにしてるの?」

 私の声に、彼は慌てて立ち上がった。

「べつに…あ、部長おつかれっすー」
 と、部室内から視線だけ覗かせていた高梨先輩に、わざとらしく挨拶をした柊くん。

 流れるように自分のリュックを背負い、折りたたんだルーズリーフを私に手渡した。

「また明日。楠木“監督”」

 ニヤリと笑ってそう言うと、柊くんは部室を後にする。

 私はその背中に「…うるさいな」と呟き、渡されたルーズリーフを開いた。

 しかし特に書き加えられた痕跡はない。
 絶対に何か書いてたのに。

 首を傾げながら高梨先輩を振り返ると、

「楽しそうね」
 と、閉まったばかりの扉を見ながら笑っていた。