それから1週間が経った。
直感型の柊くんと理屈っぽい私では、まるで話が噛み合わない。
物語の流れやキャラクター設定すら決めきれないでいた。
「何も考えてないんだって。なんつーか衝動的?その方が面白いじゃん」
柊くんが主人公のキャラ設定を私に向かって説明する。
私はその言葉を断片的にルーズリーフにメモする。
けどそこから先が進まない。その繰り返し。
「衝動的って、それでもなんか行動原理みたいなのあると思うし…そこから考えようよ」
私は“衝動的”の文字をペンでクルクルと囲む。
「全部に理由付け必要か?
なんとなく、でまとめといた方がいいこともあるでしょ」
はぁ…またそれだ。
なんとなく、ってよく言うんだよね柊くん。
なにも言わなくても伝わると思ってる?
それとも、センスのある人ってそれが当たり前なのかな。
「衝動的ってことは、思ったことはすぐ口に出しちゃうし、後先考えずに動いちゃうってことだよね?」
そう言って私は囲った“衝動的”の周りに具体的なアクションを書き加える。
「トラブルに巻き込まれたり、失敗したり。結果オーライってことも…あと、相手を傷付けちゃったり、逆に救いになったり?」
想像で言葉にしてみると、さっきまでの漠然とした状態から、少しだけ世界が広がる気がする。
それは柊くんも同じだったようで、すぐに私からペンを奪って更に書き加えた。
「こんなのどう?
衝動的に動いて失敗、タイムパラドックスが起きる、また過去に戻る、を繰り返す」
そう言って私の意見を待つ柊くんの表情はキラキラと輝いている。
その瞳があまりに綺麗で、少しだけ反応が遅れた。
「…あ、えっと。
過去と現在をループする主人公、ってこと?」
「そう、それ」
柊くんはペンを半分投げ捨てるように置いた。
私はあんな断片的な情報をストーリーに落とし込めない。
彼はそれをサラリとやってのけた。それも即興で。
「うん、面白そう!すごく」
言いながら思わず前のめりになった。
私の言ったことをすぐに理解して形にして返してくれる。
考え方も価値観も対極なのに、近くに感じる。
やっぱり柊くんはすごい。素直にそう思った。
「俺たちさ。
たぶん机で考えるより実際に“感じる”方が膨らむと思うんだよね」
「感じる?」
私はよく分からず首を横に傾けた。
「風景とか匂いとか、雰囲気?そこから拾う」
それを聞いて、少し口元がゆるむ。
柊くんはそんな私の反応を見逃さない。
「好きだよな、そういうの」
「…」
唇がうねうねと動く。
柊くんは「ふっ。分かりやす」と言って、さっきまで書き込みに使っていたルーズリーフを手に取る。
それをクルっとまるめてズボンのポケットに差し込んだ。
「行こうか。ロケハン」
言ったのは柊くん。
でも、私の方が先に歩き出していた。
校門を出ると、夏のジリジリとした日差しがアスファルトを照らしていた。
少し遅れてやってきた柊くんを振り返ると、彼もまた背後から太陽に照らされている。
私は眉毛の上に手をかざし、薄目で柊くんを見た。
「こんな時期に外に出るもんじゃねぇな。あちぃ」
顔をしかめながらも、どこか楽しそうに笑っている。
私も「ふふ。あちぃ」とつられて笑うと、ようやく隣に並んで歩き始めた。
ふとアスファルトに伸びる2人の影を見下ろす。
夕方ならもっと影が伸びていい絵になりそうーー
でも口には出せなかった。
「活動時間内に戻んないとだから、あんま遠くは行けないな」
「そうだね」
並んで歩くと、なんだか歩幅が合わなくて妙なリズムになった。
柊くんは一定の速度で歩いてるはずなのに…。
「この時間の外、気温やべーな」
「うん」
「野球部の声ここまで聞こえるわ」
「ほんとだね」
「……」
「……」
「映画ノートって、何冊あんの?」
「うーん、3冊……って、ぇえ?!」
思わず声が裏返る。
うっかり答えた私を見て柊くんはケラケラと笑った。
この人、からかうの趣味なのかな。
「誘導尋問だ…」
「いやいや、普通に聞いただけだし。世間話」
「そうかな」
「楠木さんがテキトーに返事してっから」
「適当…」
私は気まずくて首にぶら下げていたハンディファンで顔の熱を冷ました。
しばらくして柊くんはまた喋り始める。
「つーか思うんだけど。
タイムリープ物ってさ、大抵は過去を変える話だよな」
映画の話になると、私も自然と緊張が遠のいた。
「たしかに…そういう風に見えるのが多いよね」
「そういう風?どういう意味?」
興味深そうに柊くんがこっちを見た。
私は、今まで観てきたタイムリープ系の映画を思い出しながら話をする。
「主人公は過去を変えようとしてるけど、最終的に変わったのは主人公自身…みたいな」
ちらりと柊くんの反応をうかがう。
何かの映画を思い起こしているのか、真っ直ぐ前を見て「あー」とか「うーん」とか言っている。
私は気になりつつも続けた。
「SFちっくだけど、実は人間の哲学的な部分を表現してるんじゃないかな。
演出もそういう部分にフォーカスしてることが多いし………」
そこまで喋って、柊くんの視線を感じたので止まる。
「あ…また喋りすぎた、よね」
「いや?
新しい視点だった。俺はそこまで考えたことないし」
「…。それはよかった」
私はポリポリと頬をかいた。
「なんだそれ」
ハハっと笑う柊くん。
よく、笑うんだな。
太陽が眩しくて、私はまた目を細めた。
直感型の柊くんと理屈っぽい私では、まるで話が噛み合わない。
物語の流れやキャラクター設定すら決めきれないでいた。
「何も考えてないんだって。なんつーか衝動的?その方が面白いじゃん」
柊くんが主人公のキャラ設定を私に向かって説明する。
私はその言葉を断片的にルーズリーフにメモする。
けどそこから先が進まない。その繰り返し。
「衝動的って、それでもなんか行動原理みたいなのあると思うし…そこから考えようよ」
私は“衝動的”の文字をペンでクルクルと囲む。
「全部に理由付け必要か?
なんとなく、でまとめといた方がいいこともあるでしょ」
はぁ…またそれだ。
なんとなく、ってよく言うんだよね柊くん。
なにも言わなくても伝わると思ってる?
それとも、センスのある人ってそれが当たり前なのかな。
「衝動的ってことは、思ったことはすぐ口に出しちゃうし、後先考えずに動いちゃうってことだよね?」
そう言って私は囲った“衝動的”の周りに具体的なアクションを書き加える。
「トラブルに巻き込まれたり、失敗したり。結果オーライってことも…あと、相手を傷付けちゃったり、逆に救いになったり?」
想像で言葉にしてみると、さっきまでの漠然とした状態から、少しだけ世界が広がる気がする。
それは柊くんも同じだったようで、すぐに私からペンを奪って更に書き加えた。
「こんなのどう?
衝動的に動いて失敗、タイムパラドックスが起きる、また過去に戻る、を繰り返す」
そう言って私の意見を待つ柊くんの表情はキラキラと輝いている。
その瞳があまりに綺麗で、少しだけ反応が遅れた。
「…あ、えっと。
過去と現在をループする主人公、ってこと?」
「そう、それ」
柊くんはペンを半分投げ捨てるように置いた。
私はあんな断片的な情報をストーリーに落とし込めない。
彼はそれをサラリとやってのけた。それも即興で。
「うん、面白そう!すごく」
言いながら思わず前のめりになった。
私の言ったことをすぐに理解して形にして返してくれる。
考え方も価値観も対極なのに、近くに感じる。
やっぱり柊くんはすごい。素直にそう思った。
「俺たちさ。
たぶん机で考えるより実際に“感じる”方が膨らむと思うんだよね」
「感じる?」
私はよく分からず首を横に傾けた。
「風景とか匂いとか、雰囲気?そこから拾う」
それを聞いて、少し口元がゆるむ。
柊くんはそんな私の反応を見逃さない。
「好きだよな、そういうの」
「…」
唇がうねうねと動く。
柊くんは「ふっ。分かりやす」と言って、さっきまで書き込みに使っていたルーズリーフを手に取る。
それをクルっとまるめてズボンのポケットに差し込んだ。
「行こうか。ロケハン」
言ったのは柊くん。
でも、私の方が先に歩き出していた。
校門を出ると、夏のジリジリとした日差しがアスファルトを照らしていた。
少し遅れてやってきた柊くんを振り返ると、彼もまた背後から太陽に照らされている。
私は眉毛の上に手をかざし、薄目で柊くんを見た。
「こんな時期に外に出るもんじゃねぇな。あちぃ」
顔をしかめながらも、どこか楽しそうに笑っている。
私も「ふふ。あちぃ」とつられて笑うと、ようやく隣に並んで歩き始めた。
ふとアスファルトに伸びる2人の影を見下ろす。
夕方ならもっと影が伸びていい絵になりそうーー
でも口には出せなかった。
「活動時間内に戻んないとだから、あんま遠くは行けないな」
「そうだね」
並んで歩くと、なんだか歩幅が合わなくて妙なリズムになった。
柊くんは一定の速度で歩いてるはずなのに…。
「この時間の外、気温やべーな」
「うん」
「野球部の声ここまで聞こえるわ」
「ほんとだね」
「……」
「……」
「映画ノートって、何冊あんの?」
「うーん、3冊……って、ぇえ?!」
思わず声が裏返る。
うっかり答えた私を見て柊くんはケラケラと笑った。
この人、からかうの趣味なのかな。
「誘導尋問だ…」
「いやいや、普通に聞いただけだし。世間話」
「そうかな」
「楠木さんがテキトーに返事してっから」
「適当…」
私は気まずくて首にぶら下げていたハンディファンで顔の熱を冷ました。
しばらくして柊くんはまた喋り始める。
「つーか思うんだけど。
タイムリープ物ってさ、大抵は過去を変える話だよな」
映画の話になると、私も自然と緊張が遠のいた。
「たしかに…そういう風に見えるのが多いよね」
「そういう風?どういう意味?」
興味深そうに柊くんがこっちを見た。
私は、今まで観てきたタイムリープ系の映画を思い出しながら話をする。
「主人公は過去を変えようとしてるけど、最終的に変わったのは主人公自身…みたいな」
ちらりと柊くんの反応をうかがう。
何かの映画を思い起こしているのか、真っ直ぐ前を見て「あー」とか「うーん」とか言っている。
私は気になりつつも続けた。
「SFちっくだけど、実は人間の哲学的な部分を表現してるんじゃないかな。
演出もそういう部分にフォーカスしてることが多いし………」
そこまで喋って、柊くんの視線を感じたので止まる。
「あ…また喋りすぎた、よね」
「いや?
新しい視点だった。俺はそこまで考えたことないし」
「…。それはよかった」
私はポリポリと頬をかいた。
「なんだそれ」
ハハっと笑う柊くん。
よく、笑うんだな。
太陽が眩しくて、私はまた目を細めた。
