青春はスクリーンの手前に

 その右側を見つめながら、どれにしようかと唇を噛んだ。

 私は、柊くんが書いた紙を持ち上げて置いて…また持ち上げる。

 最初は黙って見ていた柊くんも、途中で「まだ?」「悩みすぎ」と小言を言い始めた。

 その声に、どうしても適当に選びたくなくて更に紙を持ち上げて顎に手を添える。

 そもそも、書いてあるのが単語だけだから時間がかかるのに。
 そこから想像を膨らませる身にもなってほしい。
 心の中でそう文句を言った。

「直感でいいって。なんとなく、適当に」

 そう言って柊くんは軽く机をたたく。

「適当になんて選べないよ」

「なんで?」

「なんでって…せっかく柊くんが考えてくれたものだから」

 私は机に置いていた自分の拳をぎゅっと握りしめる。

「……」

「大事にしないと」

 そこまで言い終えると柊くんに視線を向けた。

 一瞬合った視線は、すぐに逸らされる。

「……くそ真面目かよ」

 柊くんは、ぼそっと呟くと、頬杖をつきながら私と反対方向に顔を向けた。

 急に静かになった彼の様子に首を傾げる。
 そして視線を机に戻すと、ようやく1枚の紙を両手で持ち上げた。

「私、これがいい」

 少し誇らしげに掲げた紙を、隣からひょこっと柊くんが覗き込む。

「え。これ?」

 一瞬、目を丸くした。
 そして少し遅れて気まずそうに笑った。

「目についた物とりあえず書いただけなんだけど」

 彼は部室の正面にある時計を指差す。

 誇らしげだった私の顔は、すぐに元の頼りない顔に変わった。

「“時計”って、あの時計なの…?」

 紙を持っていた指の力がゆるむ。

「うん」

 ハラリとそれが机の上に落ちた。

 うそでしょ?

 私は時計に関連した映画とか、連想されるテーマとか、考えてすごくワクワクしたのに。
 まさか書いた本人が、目についただけって。

「そんなこと、ある?」

「ね。俺もビックリ」

 そう言うと柊くんは肩をすくめてみせた。


「え…じゃあ、また選び直し?」

 私はため息混じりで聞いた。自然と背中が丸くなる。

「なんで?目についた物でも別に不正解じゃないでしょ。
 楠木さんがいいと思ったならそれが正解だよ」

 当然のようにそう返され、口をつぐむ。

 柊くんは、さっき選んだ紙を左右に並べた。

「主人公に没入出来る時計関連の題材…か」

 柊くんの言ったことを頭の中で噛み砕く。

 時計に関連するワード?

 時計が出てくる映画…何の映画だったかな、と映画ノートをペラペラめくる。

 その様子を見ていた柊くんが、いくつか映画のタイトルを口にした。
 偶然にも、そのどれも映画ノートに記録していたタイトルだった。

「…時間、時空…時間軸、パラレルワールド…とか」

 ノートを見ながら呟くと、柊くんはニヤリと笑った。

「つまり?」

 え?もうわかってる…?
 もう一度、左右に並んだ紙に視線を落とす。

 そしてまた、勢いよく柊くんの顔を見た。

「「タイムリープ」」

 すぐに口に出したそのワード。
 今度はちゃんと二人同じ言葉が重なった。


「決まりだな」

「うんっ」

 机の上に並んだ2枚の紙を見ながら、私は高揚していた。

 まだ題材が決まっただけなのに。
 自分たちで考えたということだけで、こんなにもワクワクする。

 誰かが開けた部室の窓から、風が吹き込む。
 机の上の紙切れが舞い上がり、一気に散らばった。

 床を飛び跳ねるように飛んでいく紙切れを「だーっ」と紙を足で踏んで止める柊くん。

 それがなんだか滑稽で。
 気付けば私は、笑いながら紙を拾っていた。