放課後の部室。
私と柊くんの目の前には、居心地悪そうに佇む真っ白なルーズリーフ。
これは、なんとも。
「アナログだね」
言うと、柊くんは「タブレット壊れてんだよ」と答えた。
「それにこっちの方が湧いてくんだよね。色々と」
柊くんはルーズリーフを1枚手に取る。
「え?!なにしてるの」
まずは脚本にする物語の題材を決めようって集まったのに…あろうことか彼はルーズリーフをビリビリと乱雑に破り始めた。
「思い浮かんだこと適当に書いて。ハイ」
手渡されたのは歪な形に破られた紙切れ。
え…?みんなこんな感じで作ってるの?本当に?
私は困惑しながら、筆箱からボールペンを取り出した。
隣では柊くんが題材になりそうなことを思いつきのように次から次へと紙切れに書いていく。
私は何ひとつ出てこない。
破られたルーズリーフの端に指を置いたまま、握りしめたペンがピクリとも動かなかった。
「あの…、もっとこう、どんな雰囲気にしたいとか、何を伝えたいとか、そういうことから考えない?」
私の言葉に柊くんはペンを止める。
「なんで?
楽しそう、面白そう。でよくね?」
あ。この人、理屈より感覚で動いている。
「構造とかプロセスばっか考えてたらつまんないし」
そう続けた柊くんに、ムッとして言い返す。
「明確な理由とか、時間軸とか、全てちゃんと繋がらないと観てる人は置いてけぼりになる。
柊くんの言うその感覚をしっかり表現する手段も考えないと、伝わらないきゃ一瞬で冷められると思う」
私は至って真面目に、真剣に話しているのに。
柊くんは何がおかしいのか、口元が緩んでいた。
「…なに?」
「映画のことになるとえらく饒舌だね。普段はおとなしいのに」
カッと顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「もう、からかうなら、やめようよ」
いたたまれなくて席を立つと、腕を掴まれて再び座らされる。
「ごめんごめん。じゃあさ、こうしよう」
柊くんは机の上の紙切れを左右に分けて並べた。
「なにこれ?」
「そっちは楠木さんの好きなの書いて。構成とか、演出…構図とか?そういうのでいいよ」
柊くんは左側の紙切れにトントンと指を置きながら言った。
「好きなの…」
「俺は思いついた面白そうなワードをこっちに並べるから。組み合わせよう」
それは、なんだか面白そう。
…って、いきなり丸め込まれてる。
それでも自分が好きな作品を思い浮かべると、自ずとペンは動くものだ。
例えば雰囲気。
静かな自然の描写も入れて、心情とリンクさせたり。
場所にもこだわりたい。
自分も物語の中にいるような、そんな構図が好き。
それから登場人物。
完璧な人よりも欠点があった方が感情移入できる。
でも映画って現実を忘れて楽しむ空間だし、非日常感も少しだけ欲しい…
「ハハッ」
柊くんの笑い声で、ハッと我に帰る。
隣を向くと柊くんは既にペンを置いていて、くくっとまた笑った。
もしかして待たせてる?
「あ…ごめん。もう少し、書くから」
彼は首を横に振った。
「全然いいよ。
いいんだけど………全部声に出てるから」
え、うそ。声に出てた?
私は急激に熱くなった頬を、黙って横髪で隠した。
チラリと隣を盗み見ると、ちらちらと私に視線をよこしながら肩を揺らしている。
そんなに揺れてたら、顔を指差して笑っているのと変わらないよ。
そう言ってやりたかった。
「よし」
こんなもんか、とペンを置く。
目の前に並べられた紙切れたち。
ついさっきまで白紙だったのに、今は文字を書かれてまるで命を宿したみたい。
私は、自分が書いた左側と柊くんが書いた右側を交互に眺める。
すぐに明確な違いがあることに気づいた。
「短くない?」
「長すぎだろ」
2人の声が重なり、思わず顔を見合わせた。
私は右側の1枚を手に取る。
「“宇宙”って……単語すぎて内容全然想像できないよ。
せめて述語とかテーマとか…」
そんな私の意見に、負けじと柊くんが左側の1枚を手に取った。
「いや、これもどうなの?
1、2……6行もあるじゃん。長すぎ。手紙交換してんじゃねぇんだから」
「そ……」
言い返そうとして口を閉じた。
言われてみたら確かに私のは長い。
柊くんが書いたのはどれも1行。ほぼ単語。
圧倒的に左側の方が…なんか黒い。
私は何も言えなくなった。
他の部員がアニメを観ている音が、やけに耳にさわる。
「……まぁ、でもさ。
これとか、普通にいいと思うよ。映像にしたら面白そう」
そう言って柊くんが指で弾いたのは、主人公に没入できる臨場感がある構図について書いた紙。
一番最初に思い浮かんで、気づけば一番長く書いていた物だった。
「えーっと?“構図は主人公に没入…”」
そのまま柊くんが紙を掲げ読み上げようとする。
「ちょっと、やめて!声に出さないで」
私は慌てて紙に手を伸ばすけれど、ヒョイと遠ざけられた。
「さっきは自分で声に出してたのに?」
と言われ、「もういい」と椅子にドシンと座った。
「子供なの?柊くん」
「子供だよ、17歳なんて」
彼は静かに笑った。
嫌味のつもりで言ったのに。
全然くらわない。
「で?楠木さんはどう思う? 選んでみてよ。右側」
柊くんはそう言って軽く目を細めると、机の右側をポンポンと叩く。
右側は……柊くんの書いたアイデアだ。
私と柊くんの目の前には、居心地悪そうに佇む真っ白なルーズリーフ。
これは、なんとも。
「アナログだね」
言うと、柊くんは「タブレット壊れてんだよ」と答えた。
「それにこっちの方が湧いてくんだよね。色々と」
柊くんはルーズリーフを1枚手に取る。
「え?!なにしてるの」
まずは脚本にする物語の題材を決めようって集まったのに…あろうことか彼はルーズリーフをビリビリと乱雑に破り始めた。
「思い浮かんだこと適当に書いて。ハイ」
手渡されたのは歪な形に破られた紙切れ。
え…?みんなこんな感じで作ってるの?本当に?
私は困惑しながら、筆箱からボールペンを取り出した。
隣では柊くんが題材になりそうなことを思いつきのように次から次へと紙切れに書いていく。
私は何ひとつ出てこない。
破られたルーズリーフの端に指を置いたまま、握りしめたペンがピクリとも動かなかった。
「あの…、もっとこう、どんな雰囲気にしたいとか、何を伝えたいとか、そういうことから考えない?」
私の言葉に柊くんはペンを止める。
「なんで?
楽しそう、面白そう。でよくね?」
あ。この人、理屈より感覚で動いている。
「構造とかプロセスばっか考えてたらつまんないし」
そう続けた柊くんに、ムッとして言い返す。
「明確な理由とか、時間軸とか、全てちゃんと繋がらないと観てる人は置いてけぼりになる。
柊くんの言うその感覚をしっかり表現する手段も考えないと、伝わらないきゃ一瞬で冷められると思う」
私は至って真面目に、真剣に話しているのに。
柊くんは何がおかしいのか、口元が緩んでいた。
「…なに?」
「映画のことになるとえらく饒舌だね。普段はおとなしいのに」
カッと顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「もう、からかうなら、やめようよ」
いたたまれなくて席を立つと、腕を掴まれて再び座らされる。
「ごめんごめん。じゃあさ、こうしよう」
柊くんは机の上の紙切れを左右に分けて並べた。
「なにこれ?」
「そっちは楠木さんの好きなの書いて。構成とか、演出…構図とか?そういうのでいいよ」
柊くんは左側の紙切れにトントンと指を置きながら言った。
「好きなの…」
「俺は思いついた面白そうなワードをこっちに並べるから。組み合わせよう」
それは、なんだか面白そう。
…って、いきなり丸め込まれてる。
それでも自分が好きな作品を思い浮かべると、自ずとペンは動くものだ。
例えば雰囲気。
静かな自然の描写も入れて、心情とリンクさせたり。
場所にもこだわりたい。
自分も物語の中にいるような、そんな構図が好き。
それから登場人物。
完璧な人よりも欠点があった方が感情移入できる。
でも映画って現実を忘れて楽しむ空間だし、非日常感も少しだけ欲しい…
「ハハッ」
柊くんの笑い声で、ハッと我に帰る。
隣を向くと柊くんは既にペンを置いていて、くくっとまた笑った。
もしかして待たせてる?
「あ…ごめん。もう少し、書くから」
彼は首を横に振った。
「全然いいよ。
いいんだけど………全部声に出てるから」
え、うそ。声に出てた?
私は急激に熱くなった頬を、黙って横髪で隠した。
チラリと隣を盗み見ると、ちらちらと私に視線をよこしながら肩を揺らしている。
そんなに揺れてたら、顔を指差して笑っているのと変わらないよ。
そう言ってやりたかった。
「よし」
こんなもんか、とペンを置く。
目の前に並べられた紙切れたち。
ついさっきまで白紙だったのに、今は文字を書かれてまるで命を宿したみたい。
私は、自分が書いた左側と柊くんが書いた右側を交互に眺める。
すぐに明確な違いがあることに気づいた。
「短くない?」
「長すぎだろ」
2人の声が重なり、思わず顔を見合わせた。
私は右側の1枚を手に取る。
「“宇宙”って……単語すぎて内容全然想像できないよ。
せめて述語とかテーマとか…」
そんな私の意見に、負けじと柊くんが左側の1枚を手に取った。
「いや、これもどうなの?
1、2……6行もあるじゃん。長すぎ。手紙交換してんじゃねぇんだから」
「そ……」
言い返そうとして口を閉じた。
言われてみたら確かに私のは長い。
柊くんが書いたのはどれも1行。ほぼ単語。
圧倒的に左側の方が…なんか黒い。
私は何も言えなくなった。
他の部員がアニメを観ている音が、やけに耳にさわる。
「……まぁ、でもさ。
これとか、普通にいいと思うよ。映像にしたら面白そう」
そう言って柊くんが指で弾いたのは、主人公に没入できる臨場感がある構図について書いた紙。
一番最初に思い浮かんで、気づけば一番長く書いていた物だった。
「えーっと?“構図は主人公に没入…”」
そのまま柊くんが紙を掲げ読み上げようとする。
「ちょっと、やめて!声に出さないで」
私は慌てて紙に手を伸ばすけれど、ヒョイと遠ざけられた。
「さっきは自分で声に出してたのに?」
と言われ、「もういい」と椅子にドシンと座った。
「子供なの?柊くん」
「子供だよ、17歳なんて」
彼は静かに笑った。
嫌味のつもりで言ったのに。
全然くらわない。
「で?楠木さんはどう思う? 選んでみてよ。右側」
柊くんはそう言って軽く目を細めると、机の右側をポンポンと叩く。
右側は……柊くんの書いたアイデアだ。
