未完成フレーム

 彼が言わなかった言葉を、拾い上げようとして、やめた。

 床にわずかに残った水分が、吸い込まれるように乾いていく。

 私が何も言えないまま、炭酸水の容器がベコと音を立てた。

 すぅ、と息を吸う音。

「…それにしても。
 『パララックス・リープ』
 どうよ、このタイトルセンス」

 すぐに得意げな顔をしてみせた柊くん。
 私は少しほっとして笑った。

「それ、いつ浮かんだの?…あんまり使わない言葉だよね」

「ああ、視差?」

 柊くんは片足を持ち上げ、膝を立てた。
 パイプ椅子が軋む音が、響く。

「俺は楠木さんが語ったことを拾ってるからね」

 伸ばした両手でフレームを作り私を覗いた。

 吸い込まれるように、フレームの奥の柊くんと目が合う。


 ーーあの日、切り取った校舎が脳裏に浮かんだ。



「同じ時間でも、
 自分が立ってる場所で見える景色が違うって話」


 ふと床に視線を落とすと、柊くんの影がこっちに伸びている。


「それが“俺ら”の映画」

 ーーまた、その言い方。

「……っ、」

 また柊くんが眉毛を上に持ち上げ、「あらら」と困った顔をする。

 私は何回、こんな顔を見せるんだろう。




 窓から差し込む光は、柊くんを避けながらここまで届く。
 でもそれは私の視界で乱反射して、伸びた影も、うまく見えなくなった。





 “俺ら”の映画。
 

 ーーあのフレームの中じゃない。

 その手前に、
 あった気がした。