青春はスクリーンの手前に

 準備室は閑散としていた。

 背中合わせに置かれた長机の上を軽く手で払い荷物を置く。
 ブックスタンドだけが点在している本棚を横目に、椅子を探した。

 本棚の下に備え付けられた引き戸棚を、順番に遠慮なく開けていく柊くん。

「準備室っつっても、何もねーのな」

 ひと通り確認し終えると、つまらなさそうな顔でそう言った。
 窓からは強く日差しが差し込み、部屋の南側だけが異様に眩しい。

「普段は使わないもんね」

 私は壁際に立てかけてあったパイプ椅子を長机の手前に開いた。

 念のため両手で揺らしてから座ってみる。
 ギィと軋む音が、静かな準備室に響く。
 ……大丈夫そう。

 柊くんも隣にパイプ椅子を並べた。

「さてと」
 と、スマホを操作する柊くん。

 私はエコバッグからお菓子と飲み物を適当に取り出して並べた。

 柿ジュースを柊くん寄りに置くと、彼がチラリと目をやる。
「ハハ、俺かい」
 と、笑ってすぐにスマホに視線が戻った。

「やべ、スマホスタンドない」
 柊くんがそう言い始めたのは、スマホを横向きに持ち替えた時だった。

「えー、私もないよ…あ!」
 私はよいしょと腰を再び持ち上げ、目についたブックスタンドを持ってきた。

 黒いスチールのそれは、ひんやりしている。

「おおー、完璧。天才」

 スマホを立てかけると、柊くんはそう言って調子よく私に拍手を送ってきた。

 画面からはサブスクの短い広告が流れ始める。

 私は鞄から映画ノートを取り出して広げた。

 ふと隣の視線が気になり、大きめのお菓子の袋をズルズルと引っぱる。

 そのまま私と柊くんの間に置いた。

「そんなことしなくても覗かないって」

 呆れ気味に笑われる。

「つーか、どうせ見るでしょ。これに関しては」

 広告が1/2から2/2へと変わった。

「分かってるけど。
 気持ちの問題なの……あ!」

 ヒョイとお菓子を回収される。
 それを追いかけようとして机に半分乗り上げる。
 届かなくて柊くんを睨んだ。

 広告の音が途切れ、準備室がシンと静まった。

 途端に野球部のランニングの掛け声が耳に入る。
「いち、にっ、いち、にっ…」

 私はそのまま、自然と窓に顔を向けた。

 所々に、「つぎもっ、かつぞっ、」なんてセリフが混ざっていて。

 つい口元を押さえるように顔を伏せた。

「早く座ったら?始まるよ」

 私はしぶしぶと椅子に腰を下ろす。

 同時にスマホの画面が暗転したかと思うと、
 急に真っ白に変わり、遠くで機械音が鳴っているーー

 そんな映画の本編が流れ始め、目を見開きスマホに近付く。


《目が覚めるようなシーン、
 暗転→白、なんか怖い》

 私はすぐにノートにペンを走らせ始める。

 隣からは「ハッ。切り替えはや」と短く笑う声が聞こえた。