青春はスクリーンの手前に

 やけに早かった。まるで答えが用意されていたみたいに。
 どことなく白々しいその表情も、どうにも信用出来ない。

「本当に見てない?」
 私は少し語気を強めた。

「うん」

「本当?」

「見てないって」
 今度は向こうが強める。

 少し疑いつつも、
 さすがにそれ以上追求もできなかった。

「……ありがとう」

 同時に、ある映画監督の名前が脳裏に浮かぶ。

 柊 (たもつ)
 日本が誇る映画監督で、数多くの俳優が柊保作品をきっかけにスターダムへと駆け上がった…なんて話も聞く。
 その孫が、彼。

 知っているけど、口には出さない。

 それはおじいさんの情報であって、彼自身の情報ではない。

 私はふぅ、と息を吐いてノートをリュックに突っ込む。
 いつの間にか階段を降りていた柊くんのうしろを小走りで追いかけた。

「あのさ柊くん」

「なに」
 くるっとはねた襟足に声をかけると声だけが返ってきた。

「部内選考、参加するの?」

 興味本位だった。
 入部してから1年が経つ。
 巨匠と呼ばれる人を祖父に持ちながら、彼自身の制作姿は見たことがない。

 足を止めた柊くん。
 一瞬間を開けて、振り返る。

「しないよ」

 短い言葉が、私の足をピタリと止める。
 一線をひかれたーーそんな気がした。

「あ…そうなんだ」
 自分から聞いておいてそんな返ししかできない。

 なんとなく、呼ばれてもないのに後ろを振り向いて、また彼を見る。

「そういう楠木さんは?」

「え?」

「部内選考出るの?」

「ま、まさか。
 私は観る専だし、作るなんて出来ないよ」

「…観るのも才能だと思うけど?」

 一瞬、固まる。

「……いやいや、」
 すぐに愛想笑いで謙遜するも、そのまま首を傾げた。

 なんとも言えない空気が流れたまま、下駄箱についた。

「あ、じゃあまた…」
 私は下足に履き替えて柊くんに背中を向けた。

 普段、柊くんは近寄りがたくてほとんど初めての会話に等しい。
 今日に限ってどうして世間話なんて振っちゃったかな。

「ストップ」
 背負っていたリュックが、また肩から浮く。

「なっ…なに」

「もしかして鑑賞会も毎回あれ書いてんの?」

「へ?」

「さっきのノート」

 映研部では毎週水曜日に部員オススメの映画鑑賞会がある。
 私は実はそれがいちばんの楽しみだったりする。
 もちろん映画分析が出来るから。

「…えーっと。うん、はい」
「ふーん」

 微かに口角が上がっているように見えるのは、気のせいだろうか。

「…え、なんで?」
 バラされる?…訳ないか。
 ペラペラ喋るタイプにも見えない。

「なんとなく。じゃ、おつかれ」
 柊くんはそう言うと、さっさと靴を履き替えて校門へと歩いていった。

 その後ろ姿を見送りながら、背中のリュックに触れる。

「ほんとに見てないのかな…」

 私の右肩からはリュックのベルトがだらし無く落ちた。