別の何かが重なって、邪魔をしてくる。
…犬の話をしているはずなのに。
結局、高梨先輩の言ったことは、半分くらいしか分からなかった。
「楠木さんはどうだった?映画」
高梨先輩の声に、ハッとする。
「えーっと」と発した声が掠れていて、慌ててドリンクを口に運んだ。
ひとつ、咳払いをする。
「私は…」
テーブルの隅に置いたパンフレットが視界に入る。
「なんか、内容全然入ってこなくて」
と、頭に手を置いて答えた。
「ラストシーンの犬の後ろ姿だけは…目に焼きついてるんですけどね」
そう言って、もう一度ドリンクを飲んだ。
その言葉に高梨先輩は笑いながら頷いている。
「分かる。あのシーン、私よく分かんなくてさ。そこだけ不完全燃焼」
「え?」
キラ、と輝くネイルが、ドリンクのストローに触れた。
「でも…うん。なんでか目に焼きついてるよね」
高梨先輩はそう言ってパンフレットに指を置いた。
ラストシーンと同じ、犬の後ろ姿。
ショッピングモールからの帰り道。
自転車を漕ぐスピードが、定まらない。
柊くんはカオスなルーズリーフが、記憶に残ると言ったーー
よく分からない帰宅ルートの動画が、頭から離れなかった。
私も高梨先輩も、分からないのに目に焼きついたラストシーンがあった。
「……」
“語らない方が刺さるだろ”
ブレーキレバーを引く。
道路とタイヤが擦れる音が鳴り、ゆっくりと自転車から降りた。
スマホのカメラを起動し、赤い丸をタップすると、それが四角に変わる。
私はそのスマホを右手に構えながら、自転車を押して歩き続けた。
その日の夜。
もう一度、机の前に座った。
4冊目のノートを開き、隣に3冊目を並べる。
正面には、スマホを立てかけた。
今日の帰り道の動画を、何度も繰り返し再生する。
実際に私の目で見た景色と、変わらない。
少し、狭いだけ。
なのに、全然ちがう場所を歩いているように感じた。
一画書いて、シャープペンを握った手が、止まった。
「……」
握り直した指の関節が、白くなる。
一行明けてから、もう一度、書き出した。
この前より、シャープペンをノックする回数が、少なく感じる。
でも、ゆっくり、少しずつ、書き進めた。
行間ばかりが増えて、繋がっていたはずの場面も、ほどけて元に戻らない。
残ったのは、どうしても何か足りないものばかり。
だけど、そのまま進んだ。
とにかく、このまま、最後までーー
…犬の話をしているはずなのに。
結局、高梨先輩の言ったことは、半分くらいしか分からなかった。
「楠木さんはどうだった?映画」
高梨先輩の声に、ハッとする。
「えーっと」と発した声が掠れていて、慌ててドリンクを口に運んだ。
ひとつ、咳払いをする。
「私は…」
テーブルの隅に置いたパンフレットが視界に入る。
「なんか、内容全然入ってこなくて」
と、頭に手を置いて答えた。
「ラストシーンの犬の後ろ姿だけは…目に焼きついてるんですけどね」
そう言って、もう一度ドリンクを飲んだ。
その言葉に高梨先輩は笑いながら頷いている。
「分かる。あのシーン、私よく分かんなくてさ。そこだけ不完全燃焼」
「え?」
キラ、と輝くネイルが、ドリンクのストローに触れた。
「でも…うん。なんでか目に焼きついてるよね」
高梨先輩はそう言ってパンフレットに指を置いた。
ラストシーンと同じ、犬の後ろ姿。
ショッピングモールからの帰り道。
自転車を漕ぐスピードが、定まらない。
柊くんはカオスなルーズリーフが、記憶に残ると言ったーー
よく分からない帰宅ルートの動画が、頭から離れなかった。
私も高梨先輩も、分からないのに目に焼きついたラストシーンがあった。
「……」
“語らない方が刺さるだろ”
ブレーキレバーを引く。
道路とタイヤが擦れる音が鳴り、ゆっくりと自転車から降りた。
スマホのカメラを起動し、赤い丸をタップすると、それが四角に変わる。
私はそのスマホを右手に構えながら、自転車を押して歩き続けた。
その日の夜。
もう一度、机の前に座った。
4冊目のノートを開き、隣に3冊目を並べる。
正面には、スマホを立てかけた。
今日の帰り道の動画を、何度も繰り返し再生する。
実際に私の目で見た景色と、変わらない。
少し、狭いだけ。
なのに、全然ちがう場所を歩いているように感じた。
一画書いて、シャープペンを握った手が、止まった。
「……」
握り直した指の関節が、白くなる。
一行明けてから、もう一度、書き出した。
この前より、シャープペンをノックする回数が、少なく感じる。
でも、ゆっくり、少しずつ、書き進めた。
行間ばかりが増えて、繋がっていたはずの場面も、ほどけて元に戻らない。
残ったのは、どうしても何か足りないものばかり。
だけど、そのまま進んだ。
とにかく、このまま、最後までーー



