青春はスクリーンの手前に

 家に帰って、自分が書いた脚本を読み直す。
 同じページを何度も往復した。

“何も残らない”

 残るって、なに?
 全部画面に映ってるし、セリフもある。
 ちゃんと書いた。
 なのに、残らない?
 …なにが違うの。

 何も分からないまま、ペン先をノートにくっつける。

 でも、ピクリとも動かない。

 映画を観て、好きなようにノートに書き溜めていた時は感じ取れていた気がするのに。
 それが今は、分からなくなってしまった。

 その3冊目の映画ノートが、とてもつまらないものに見えた。

 私は、ノートもペンも机の奥に追いやって、空いたスペースに頬を乗せた。

 あの時と今。一体なにが違うんだろう。

 観られることを意識したかたら?
 伝えなきゃいけないと思うから?
 それすらも、もう分からない。

 ゆっくりと顔を回転させ、額を机につける。

「あーあ…

 …戻りたいな」

 私の声は、タイミング悪く唸り出したエアコンの霜取りの音にーーかき消された。


 その週、ほとんど柊くんと喋らなかった。
 教室はもちろん、部室では最低限の挨拶だけ交わし、いつもの席に座った。
 隣にいるのに別々のことをして、何枚も壁があるような気がした。


「汐果、これお父さんが取引先の方に貰ったんだって」

 土曜日の朝、起きて早々に母が私に映画のチケットを手渡した。

「あ、これ…観たかったやつ」

「あらそうなの?よかったじゃない。お父さんにお礼言っときなさいよ」

 そう言うと、母は洗濯カゴを持ってベランダに出た。

 受け取ったチケットに視線を落とす。
 …今日、行こうかな。
 私はすぐに身支度を済ませ、近くのショッピングモールへ自転車を走らせた。

 隣接された映画館には、若い女性が多くいてサイリウムを手にしていた。
 アイドルのライブビューイングでもあるのかな…。
 私はその横を早歩きで通り過ぎる。

 いつも映画館に来ると、あんな風にワクワクした気持ちで入場を待っていた。

 観たかった映画のはずなのに。
 今日は飲み物もスナックも買う気にはなれなかった。

 上映時間を十分程過ぎてから、スクリーンに向かった。
 足元で微かに照らされたプレートを頼りに、座席を探す。
 一番後ろの端の席。
 休日ということもあり、座席は八割くらい埋まっていた。
 照明が落ち、非常灯が消える。
 空調の音がうっすら響く空間。
 誰かがポップコーンを触る音。
 ヒソヒソと話す声。
 そういうものに、意識が向いた。

 やがてスクリーンに映像が映し出された。

 映画は、犬と人間のつながりを描いた物語。

 生き物を題材にした映画は、どこを取っても絵になる。
 印象に残るシーンも多い。
 なのに、私にはそれが全て“構造”にしか見えなかった。
 カメラの位置、光の入り方…
 気付けばそんな所ばかりに目が行く。

 終盤、会場内からは鼻をすする音が聞こえていた。

 少し遅れた、なんでもないシーンで、私の頬にも一筋こぼれた。

 ーーどうして


 この日。
 私は初めてエンドロールの途中で席を立った。