青春はスクリーンの手前に

 乾いた喉が、ごくりと鳴る。

 私は彼の視線を追うことしか出来ない。
 右にいったり左にいったり。
 一番下からまた上へ戻ってみたり。
 いま、どこを見て何を思ったんだろう。

「これ」

 柊くんが口を開くと、私はすぐに顔を上げた。

「ここのカメラワーク面白そう」

 彼がトンと指を置いた箇所を覗き込む。

《初めて過去に戻って目覚めたシーン
 主人公の視線をカメラパンで再現
 天井→窓→扉→時計→机上カレンダー》

「ぁあ!そうそう!最近観た映画の戦闘シーンで敵を探す描写に使われてたんだけど、応用できると思って!没入感、出そうだよね」

 言い終わると同時に、柊くんが笑った。

「すぐスイッチ入れんなって」
「あ…ごめん。つい」
「…まぁ、ちゃんと設計図にはなってる。
 原型があのカオスなメモとは思えない」

 彼がまたノートを指で弾くと、挟まっていたルーズリーフが地面に落ちた。

「ハハ…それなら、良かった」
拾い上げようと腰を落とすと、先に手が伸びてきて、それを拾う。

「このカオス感も悪くなかったけどね」
 読んでいたページの上に広げられたルーズリーフ。

「…読むの大変だったよ」

「それが記憶に残るじゃん」

「……」

 私は無意識に、視線を追いかけようとした。
 でも、動かない。
 目の前のルーズリーフを見てるはずなのに、彼はそれを、“読んで”いない気がした。
 私の喉が、またゴクリと鳴る。

「楠木さんさ」

 ノートがパタンと閉じる音がした。

「こんなに知識あって分析も出来るなら、それなりに映画作れると思うんだけど」

 ブラウンの瞳が、私を捉える。

「なんで作んないの?」

 靴底から、ジャリ、と音がした。

「それは、」

 同時に、視線がさまよい、そのまま道路に落ちる。

「…作り始めたら、映画……嫌いになりそうで、怖い」

 つむじに痛いほど視線を感じた。
 けど顔を上げられない。

「……」
「ふーん」

 その声で、再び空気が動き出したかのように、私の視線は道路から外れた。

「…何か、言いたげだね」
「いや?一応、自己分析出来てんだね」
「どういう意味?」
「そのままの意味」

 と、今度は自分の両手でフレームを作り私に向ける。

「…皮肉?」
 思わず睨みつけた。

「お。今のいいね」

 何がいいのか分からない。ただ不機嫌なだけなのに。

「もういいよ、行こう」

 そして、柊くんのフレームを両手でぐしゃりと潰し、そのまま歩き出した。
 彼がルーズリーフに何を感じ、いま何を見て、何を切り取ろうとしていたのか、私には何ひとつ分からなかった。


「なんとなく夕方のほうが絵になるな」
「夕方はもっと影伸びるもんね」
「グッとくるタイミングで音楽入れよう」
「思い出の場所にたどり着いた瞬間とか?」

 不思議と会話は途切れない。
 でも、話すたびに溝落ちのあたりがぐるぐると重たくなる。

「…柊くんも結構さ、いろんな映画観てるよね」

 私は、ひとしきり脚本のネタを話したあとで、そう言った。
 どんなタイトルを挙げても乗ってきてくれる。
 自分は人より多く観てる自信があったけれど、彼も負けていない。

 ーーだけど。

 ぽりぽりと鼻を掻き「まぁ、映研部なんでね」と呟く。

 ふっと熱が引いたような気がした。
 その手が元の位置に戻るのを見届ける。

「…柊くんって、なんで映研部に入ったの?」

「なに、急に」
 一瞬、柊くんの歩みが止まりかけてまた進んだ。

「え?なんとなく」
 私もつられて同じように歩いた。
 彼はまた、鼻を掻く。

「……ノリ?」
「……」

 一瞬、視線がこっちに向いたかと思えば、肩をすくめている。

「私、さっき真面目に答えたのに」
「ハハ。仕返しか」
 柊くんは顔を背けて笑い、続けた。

「面倒だから入っただけ。色々と周りがうるさいからな」

 周りって…ああ。
 そういえばーーそうだった。

「……」

 軽く聞いていいことなのか、わからない。
 私が何を言おうかと考えていると、柊くんの方から話し始めた。