俺以外を見るのは許さないから

「何か、悪いな。せっかく手伝ってくれたのに」
 それから小一時間後、俺は真介と共に喫茶店にいた。
 真介が捕まえた男は、半泣きになりながら謝り、すぐにどこかにいなくなった。
 真介曰く、あの男は恐らく塩原のファンだったのだろうということだ。
「いや。俺の方こそ悪かったな。こういう結果になってしまって」
 俺はそれに対して首を振り、頼んだカフェオレを口に含む。
 半ば呆けたような心地でカフェオレを味わうと、目の前の真介をぼんやり眺めた。
 今日一日で劇的に変化したことは二つ。
 なぜか塩原にしっかり縁を切られてしまったことと、真介が意外と頼もしいと知ったこと。
「まあ、そう気を落とすな。お前は俺と違ってモテるんだから」
 俺がぼんやりしているのをそれだけだと取られたらしいとほっとしていたが、真介は探るような目で俺を見た。
「何?」
「いや。あの時のこと、やっぱり気になってるんだろ?」
「まあ、そりゃ。殺したいほど憎いなんて言われたらな」
「……」
 束の間、真介が無表情で黙る。
 俺が内心ヒヤリとしていると、すぐに真介は噴き出した。
 少しもわざとらしくない、自然な笑いだった。
 だから俺も、するりと文句を言うことができた。
「笑うなよ」
「悪い。確かにな。だけど、その台詞は別の意味にも取れないか?」
「別の意味?」
 首を傾げると、真介は観察するようにじっと見てきた。
 少し考えたが、思い浮かばない。
「分からない。ヒントくれ」
「言葉通りの意味には取らなくていい」
 と言われたものの、分からないものは分からない。
 俺は真介と不思議なくらいに心地いい時間を過ごした。