俺以外を見るのは許さないから

 俺の危惧をよそに、塩原との恋人関係は驚くほど順調に続いた。
 だがそれも、塩原に適当な理由をつけて周囲には秘密にしておこうと伝え、塩原が守ってくれたおかげもあったのだろう。
 理由は分からないが、真介にだけはばれてはいけないと思った。
 そんな折、夏休みの最中に塩原から一本の電話がかかってきた。
「ねえ、凌平君。今すぐ来て」
 塩原は電話越しに何やら切羽詰まったような声で俺を急かす。
「どうした?」
「誰かに、つけられてるの」
「つけられてる?分かった、すぐ行く。場所は?」
 塩原が震える声で伝えてこようとするけれど、周囲のざわめきが大きくて上手く聞き取れない。
「ごめん、もう一回言って」
「だ、だからーー」
 塩原が再度居場所を口にしかけた、その時だった。
 電話がふつりと切れた。
「おい!塩原?塩原!」
 自室に自分の声だけが反響する。
「くそっ、どうしたら」
 俺は手当たり次第に塩原とよく行く場所を当たることにしたが、闇雲に捜したところで見つかるはずもなく。
 気がつけば、繁華街に来た時にはすっかり日が暮れ、辺りは闇に飲まれ始めていた。
「もう一回かけてみるか」
 幾度もかけた塩原の番号をタップしようとしたところで、当の本人から電話がかかってきた。
「っ……塩原?大丈夫か?」
 開口一番にそう尋ねると、塩原が暗い声で答えた。
「平気。心配しないで」
「心配しないでって、何かあったんだろ?」
「ううん、気のせいだったみたい。知り合いだったから大丈夫。ごめんね」
「なんだ、こっちは焦ったんだぞ」
「うん、ごめん。じゃあ、私はこの後用事があるから」
 それだけ素っ気なく伝えられると、あっさり通話が切れた。
 違和感を抱いたが、塩原に怯えている様子はなさそうだったため、気にしないことにした。
「よし、じゃあ帰るか」
 一人頷き、踵を返そうとした時、通りの向こうから男女が歩いてくるのが見えた。
 遠目にも、すぐに男の方は真介だと分かる。
「なんだ、あいつ女がいたのか」
 俺はほっとしたような、どこか残念なような気持ちで二人を見送る。
 残念……?
 自分の気持ちに首を傾げて、二人とは反対方向に歩き始める。
 すれ違った瞬間に首筋がぞわりとしたが、気のせいだと思うことにした。
 塩原と付き合い始めて以来、俺はボロが出ないように、真介と距離を置くようにしている。
 真介も真介で、自分から関わってくるようなタイプの人間ではないため、自然と関わることがなくなった。
 ただ、時折強い視線は相変わらず感じている。
 真介がその視線の主だと分かっていても、分からないふりをした。
「だって、あいつは平気で俺のこと」
 途中まで出かかった台詞を飲み込み、俺はゆっくりと帰路に着く。
 だが、努めて忘れようとしていたところへ、次の異変が起こったのはそれからすぐのことだった。