俺以外を見るのは許さないから

「おい、お前調子こいてんじゃねえぞ」
 その声が響いたのは、昼休みに真介の姿を探していた時だった。
 屋上に行く手前の踊り場で、柄の悪い三年生達が真介に絡んでいる。
 真介はどう絡まれようと無視して、屋上に向かおうとしているが、三年生のうち一番派手な髪色をしている男が立ち塞がる。
「どけ」
 地の底から響くような真介の声に、三年生が拳を振り上げようとして。
 俺は咄嗟に駆けていき、間に割り込んだ瞬間に頬を殴られ、階段から転がり落ちた。
「っつ……」
「おい、やべえぞ」
 三年生達が慌てた声を上げて、俺を跨いで逃げていく。
 その足音が遠ざかった頃に、頭上から声が降ってきた。
「何してるんだ」
「殴られたんだよ。見てただろ」
「そうじゃなくて」
 真介は溜め息をつき、俺の目の前に背中を向けて屈み込んだ。
「乗れよ」
「え?いや、でも」
「いいから早く」
 苛立ったように急かされ、俺は恐る恐る背中におぶさった。
 真介は細い見た目に似合わず、俺を軽々と背負って歩き出す。
「ごめん。重いだろ」
「別に。お前が殴られに行った方を謝ってくれ」
「それは謝れない。だって、それだと真介が……いや、成瀬が殴られたから」
「名前、真介でいい」
 素っ気なくそう言われて、俺は痛みを忘れて嬉しくなった。
「俺が殴られたからって、別にお前は気にしなくていい。嫌われるのはいつものことだ」
「俺は、嫌ってなんかいない。むしろ好きだ」
「………」
 長い沈黙の後、真介は俺の方を振り向いた。
 その目が、熱を帯びているような気がして、俺は慌てて言い募る。
「あ、いや。別にそういう意味じゃ……」
「そうか。別にどっちでもいい」
「え?」
 言葉の意味を理解できずに問い返そうとしたが、保健室についてしまい、機会を逃した。
 その時から、俺は視線を頻繁に感じるようになった。
 視線の先を追えば、必ず真介がいる。
 けれど、決まって俺の方は見ていなかった。
 俺が気づく前に視線を逸らしていると思ったが、自意識過剰だとも思えて、気に留めないように努めた。