真介に出会ったのは、高校二年に上がったばかりのクラス替えで、偶然隣同士の席になった時だった。
「初めまして、赤池凌平です。名前なんて言うの?」
俺は笑顔で真介に声をかける。
人は第一印象で決まると、大企業の人事部をやっている父は言う。
その教えのおかげか、人に嫌な印象を持たれることはあまりなかったように思う。
だけど、笑顔を向けられた真介は、黒縁眼鏡を押し上げ、目尻にかけて切れ上がった目を細めて、睨むように俺を見た。
「成瀬」
「下の名前は?」
「言う必要ない」
真介は俺から視線を逸らしながら、ボソボソと言った。
真介がクラスで浮いた存在として嫌われていると知ったのは、後になってからだ。
俺はそれを知る前も、知ってからも、真介に付きまとい、何とか笑顔を引き出そうと躍起になった。
我ながらなぜそこまでしたのか不思議だが、笑顔を向けてそんな態度を取られたことがなかったため、真介の態度は俺にとって新鮮だったのかもしれない。
「しんすけー!」
名前を知った直後、俺は放課後に颯爽と教室から立ち去る真介を追いかける。
「なっ、一緒に帰ろうぜ」
俺は真介に追いつくと、回り込んで通せんぼした。
「邪魔。名字で呼べ」
真介の態度はいつも頑なだ。
眼前に岩のように硬いシールドを突き出されて鼻を打つ感覚を毎度味わう。
でも、俺はめげなかった。
「いいだろ。友達なんだし」
「誰が、いつお前なんかと」
真介はうんざりと吐き捨てるように言って、長い足を素早く動かしながらさっさと行ってしまおうとする。
「え?そりゃ、最初に自己紹介した時から?」
「……」
真介は溜め息をつき、何かを言おうとして、背後からかかった声で遮られた。
「凌平くーん!一緒に帰らない?」
「あ、塩原」
手を大きく振りながらやって来たのは、塩原鈴音。クラスが一緒になった時からやたら懐かれている。
美人なのに、こんな平均的な俺でいいなんて変わってるな。
と思いつつも悪い気はせず、俺は返事をしようとした。
「うん、かえーーあれ?」
「どうしたの?」
「真介がいない」
見回すと、真介がちょうど校門から出るところだった。
「おーい!待てよ!」
俺は真介を追いかけようとしたが、塩原に腕を掴まれた。
「待って。二人で帰ろう?」
塩原に上目遣いにお願いされ、さすがの俺も断れなかった。
塩原と歩き出した時、視線を感じた気がして顔を上げると、遠ざかる真介の背中が見えた。
相変わらずつれねえな、と呟けば、塩原が苦笑する。
「何?」
「ううん。赤池君、物好きだなあって」
「物好き?」
「うん。だって、成瀬君って何か取っつきにくいじゃない?いつも話しかけると素っ気ないし、ボソボソ喋るし」
「ああ……。愛想笑いして、人からの印象ばかり気にしてる俺からすれば、羨ましいと思うけど」
そうだ、俺は羨ましいのだと口にして初めて気がついた。
真介の人からの評価を全く気にせずにありのままを晒している態度は羨ましく、同時にすごく格好いいと思えた。
「ふうん。でもそれ、普通だと思うけど。多少は周りの目を気にしないと、周り中敵だらけになるよ」
塩原が口にした台詞が事実になるのは、それからすぐのことだった。
「初めまして、赤池凌平です。名前なんて言うの?」
俺は笑顔で真介に声をかける。
人は第一印象で決まると、大企業の人事部をやっている父は言う。
その教えのおかげか、人に嫌な印象を持たれることはあまりなかったように思う。
だけど、笑顔を向けられた真介は、黒縁眼鏡を押し上げ、目尻にかけて切れ上がった目を細めて、睨むように俺を見た。
「成瀬」
「下の名前は?」
「言う必要ない」
真介は俺から視線を逸らしながら、ボソボソと言った。
真介がクラスで浮いた存在として嫌われていると知ったのは、後になってからだ。
俺はそれを知る前も、知ってからも、真介に付きまとい、何とか笑顔を引き出そうと躍起になった。
我ながらなぜそこまでしたのか不思議だが、笑顔を向けてそんな態度を取られたことがなかったため、真介の態度は俺にとって新鮮だったのかもしれない。
「しんすけー!」
名前を知った直後、俺は放課後に颯爽と教室から立ち去る真介を追いかける。
「なっ、一緒に帰ろうぜ」
俺は真介に追いつくと、回り込んで通せんぼした。
「邪魔。名字で呼べ」
真介の態度はいつも頑なだ。
眼前に岩のように硬いシールドを突き出されて鼻を打つ感覚を毎度味わう。
でも、俺はめげなかった。
「いいだろ。友達なんだし」
「誰が、いつお前なんかと」
真介はうんざりと吐き捨てるように言って、長い足を素早く動かしながらさっさと行ってしまおうとする。
「え?そりゃ、最初に自己紹介した時から?」
「……」
真介は溜め息をつき、何かを言おうとして、背後からかかった声で遮られた。
「凌平くーん!一緒に帰らない?」
「あ、塩原」
手を大きく振りながらやって来たのは、塩原鈴音。クラスが一緒になった時からやたら懐かれている。
美人なのに、こんな平均的な俺でいいなんて変わってるな。
と思いつつも悪い気はせず、俺は返事をしようとした。
「うん、かえーーあれ?」
「どうしたの?」
「真介がいない」
見回すと、真介がちょうど校門から出るところだった。
「おーい!待てよ!」
俺は真介を追いかけようとしたが、塩原に腕を掴まれた。
「待って。二人で帰ろう?」
塩原に上目遣いにお願いされ、さすがの俺も断れなかった。
塩原と歩き出した時、視線を感じた気がして顔を上げると、遠ざかる真介の背中が見えた。
相変わらずつれねえな、と呟けば、塩原が苦笑する。
「何?」
「ううん。赤池君、物好きだなあって」
「物好き?」
「うん。だって、成瀬君って何か取っつきにくいじゃない?いつも話しかけると素っ気ないし、ボソボソ喋るし」
「ああ……。愛想笑いして、人からの印象ばかり気にしてる俺からすれば、羨ましいと思うけど」
そうだ、俺は羨ましいのだと口にして初めて気がついた。
真介の人からの評価を全く気にせずにありのままを晒している態度は羨ましく、同時にすごく格好いいと思えた。
「ふうん。でもそれ、普通だと思うけど。多少は周りの目を気にしないと、周り中敵だらけになるよ」
塩原が口にした台詞が事実になるのは、それからすぐのことだった。


