クボックに到着すると、若い男の子が店内に見えた。彼は私に気づくと、小さく頭を下げる。
知り合いだろうか。そう思ったけど、すぐに違うと気づいた。彼は名札をつけていた。久保さんが言っていたアルバイトだろう。
どういうわけか、少しだけホッとした。しかし、そんな気持ちになるのも複雑だった。
もし、アルバイトがかわいい女の子だったら、どうだというのだろう。考えたらいけない気がして、邪念を取り払うと、店内へと足を踏み込んだ。
「こんにちは。日高と言いますけど、店長さん、いらっしゃいますか?」
男の子の名札をさりげなく確認する。沼田くんというらしい。一見、どこにでもいる大学生のようだが、しゃれたピアスや指輪は風変わりで、どこかしらアーティストのような雰囲気を帯びている。
「店長は今、席を外していて……。どんな御用ですか?」
沼田くんはまだ新人だろうか。困り顔で、いない久保さんを探すみたいにきょろきょろする。
一方、私はどこか安心していた。久保さんに会えなくてよかった……と。
「ちょっと頼まれごとで来ました。洋菓子店のアキノ、知ってますか?」
「この商店街の?」
「そうです。アキノのオーナーに頼まれて、これを。お話やの日高が持ってきたと伝えてくれればわかるはずです」
洋菓子のつまった紙袋を渡す。沼田くんは戸惑っていたが、「お話やの日高さん」とつぶやきながらメモ書きし、紙袋と一緒にレジ横のカウンターに置いた。
「じゃあ、失礼します」
早々に立ち去ろうとすると、沼田くんがあわてたように言う。
「あのっ、よかったら、ネックレスのお手入れします」
来店客にはそう声かけするように言われているのだろう。
彼は祈るように、私の首筋を見つめている。ネックレスのチェーンに釘付けだ。妙に必死だからおかしくなってしまう。
「まだ新しいので大丈夫ですよ」
「あ……そうですか」
目に見えて、がっかりと肩を落とす。何かしなくてはと、空回りしているようだ。あんまり悲しそうな顔をしているから、私も申し訳ないような気持ちになってくる。
「じゃあ、手入れしてもらおうかな」
「ほんとですかっ」
パッと表情を明るくした沼田くんは、早速トレイを持ってくる。
ネックレスを外して、そこへ乗せると、彼は「ん?」と首をかしげた。
「どうしたの?」
「このネックレス、こちらで買っていただいた商品ですね。ありがとうございます」
「え? 違うと思うけど……」
プレゼントだから、絶対違うとは言えないが、久保さんの作るアクセサリーは一点物だから、彼が気付かないはずはない。
それとも……、気づいていて知らないふりをしたのだろうか。
不安な顔をしていたのだろう。沼田くんはハッとして、ぺこりと頭を下げる。
「申し訳ありません。俺の勘違いだと思います」
「勘違いって……でも、何か似た商品があるんですよね?」
問い詰めたわけでもないのに、彼はますます恐縮して、戸惑いをあらわにする。
「うちの商品はすべて世界に一つだけのものですので」
「それは知ってます。別に責めてるわけじゃないんです。でも、あなたが何を見て、私のネックレスをここで買ったものだと思ったのか、気になって」
「すみません」
そう言いながら、沼田くんはカウンターケースの後ろに回り込むと、壁面に取り付けられた棚を開き、いくつかファイルを取り出す。
「修理するときに、見た気がするんです……」
それはひとりごとだろう。記憶をたどるように、「えっと、確か……」とつぶやきながら、ファイルの中の資料を次々と確認していく。
そうして、二冊目のファイルを開いたとき、彼は手を止めた。
「これですっ。やっぱり、同じだ」
カウンターの上にファイルを置くと、私に見えるように差し出してくる。
それは、作成したアクセサリーの情報が載った資料だった。デザイン画、実物の写真、作成日、材料の種類など、詳細に記されている。
「似てませんか?」
沼田くんは資料の写真の横に、トレイを引き寄せた。私ものぞき込む。
「似てるっていうか、同じものみたい」
沼田くんが勘違いするのも無理はないぐらい酷似している。
「あれっ?」
沼田くんがすっとんきょうな声をあげる。
「何かあったの?」
「非売品になってます」
沼田くんは指差した。販売価格と記された欄には、確かに『非売品』の文字が並んでいる。
「なんだろう?」
彼は不思議そうに首を傾げたが、途端に気まずそうな表情をした。
「なに?」
「あ、いや……、店長があなたにプレゼントするために作ったのかなって思って。まずいですよね、そんなことあなたに知られたら。店長は知られたくなかったかもしれないのに……」
大失態だ。そう顔に書いた沼田くんは、あわててファイルを閉じる。
「内緒にしてください、今の」
「久保さんが私にプレゼントしてくれたわけじゃないし、まずいことなんてないですから。でも、言いません」
「ほんとに、すみません」
「久保さんが作ってくれたんだとしたら、むしろ、嬉しいですから」
そう言うと、沼田くんは安堵の笑みを浮かべ、「すぐにお手入れしますっ」と頭を下げた。
知り合いだろうか。そう思ったけど、すぐに違うと気づいた。彼は名札をつけていた。久保さんが言っていたアルバイトだろう。
どういうわけか、少しだけホッとした。しかし、そんな気持ちになるのも複雑だった。
もし、アルバイトがかわいい女の子だったら、どうだというのだろう。考えたらいけない気がして、邪念を取り払うと、店内へと足を踏み込んだ。
「こんにちは。日高と言いますけど、店長さん、いらっしゃいますか?」
男の子の名札をさりげなく確認する。沼田くんというらしい。一見、どこにでもいる大学生のようだが、しゃれたピアスや指輪は風変わりで、どこかしらアーティストのような雰囲気を帯びている。
「店長は今、席を外していて……。どんな御用ですか?」
沼田くんはまだ新人だろうか。困り顔で、いない久保さんを探すみたいにきょろきょろする。
一方、私はどこか安心していた。久保さんに会えなくてよかった……と。
「ちょっと頼まれごとで来ました。洋菓子店のアキノ、知ってますか?」
「この商店街の?」
「そうです。アキノのオーナーに頼まれて、これを。お話やの日高が持ってきたと伝えてくれればわかるはずです」
洋菓子のつまった紙袋を渡す。沼田くんは戸惑っていたが、「お話やの日高さん」とつぶやきながらメモ書きし、紙袋と一緒にレジ横のカウンターに置いた。
「じゃあ、失礼します」
早々に立ち去ろうとすると、沼田くんがあわてたように言う。
「あのっ、よかったら、ネックレスのお手入れします」
来店客にはそう声かけするように言われているのだろう。
彼は祈るように、私の首筋を見つめている。ネックレスのチェーンに釘付けだ。妙に必死だからおかしくなってしまう。
「まだ新しいので大丈夫ですよ」
「あ……そうですか」
目に見えて、がっかりと肩を落とす。何かしなくてはと、空回りしているようだ。あんまり悲しそうな顔をしているから、私も申し訳ないような気持ちになってくる。
「じゃあ、手入れしてもらおうかな」
「ほんとですかっ」
パッと表情を明るくした沼田くんは、早速トレイを持ってくる。
ネックレスを外して、そこへ乗せると、彼は「ん?」と首をかしげた。
「どうしたの?」
「このネックレス、こちらで買っていただいた商品ですね。ありがとうございます」
「え? 違うと思うけど……」
プレゼントだから、絶対違うとは言えないが、久保さんの作るアクセサリーは一点物だから、彼が気付かないはずはない。
それとも……、気づいていて知らないふりをしたのだろうか。
不安な顔をしていたのだろう。沼田くんはハッとして、ぺこりと頭を下げる。
「申し訳ありません。俺の勘違いだと思います」
「勘違いって……でも、何か似た商品があるんですよね?」
問い詰めたわけでもないのに、彼はますます恐縮して、戸惑いをあらわにする。
「うちの商品はすべて世界に一つだけのものですので」
「それは知ってます。別に責めてるわけじゃないんです。でも、あなたが何を見て、私のネックレスをここで買ったものだと思ったのか、気になって」
「すみません」
そう言いながら、沼田くんはカウンターケースの後ろに回り込むと、壁面に取り付けられた棚を開き、いくつかファイルを取り出す。
「修理するときに、見た気がするんです……」
それはひとりごとだろう。記憶をたどるように、「えっと、確か……」とつぶやきながら、ファイルの中の資料を次々と確認していく。
そうして、二冊目のファイルを開いたとき、彼は手を止めた。
「これですっ。やっぱり、同じだ」
カウンターの上にファイルを置くと、私に見えるように差し出してくる。
それは、作成したアクセサリーの情報が載った資料だった。デザイン画、実物の写真、作成日、材料の種類など、詳細に記されている。
「似てませんか?」
沼田くんは資料の写真の横に、トレイを引き寄せた。私ものぞき込む。
「似てるっていうか、同じものみたい」
沼田くんが勘違いするのも無理はないぐらい酷似している。
「あれっ?」
沼田くんがすっとんきょうな声をあげる。
「何かあったの?」
「非売品になってます」
沼田くんは指差した。販売価格と記された欄には、確かに『非売品』の文字が並んでいる。
「なんだろう?」
彼は不思議そうに首を傾げたが、途端に気まずそうな表情をした。
「なに?」
「あ、いや……、店長があなたにプレゼントするために作ったのかなって思って。まずいですよね、そんなことあなたに知られたら。店長は知られたくなかったかもしれないのに……」
大失態だ。そう顔に書いた沼田くんは、あわててファイルを閉じる。
「内緒にしてください、今の」
「久保さんが私にプレゼントしてくれたわけじゃないし、まずいことなんてないですから。でも、言いません」
「ほんとに、すみません」
「久保さんが作ってくれたんだとしたら、むしろ、嬉しいですから」
そう言うと、沼田くんは安堵の笑みを浮かべ、「すぐにお手入れしますっ」と頭を下げた。
