おしゃべりな雑貨店でティータイムを

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 カウンターのペンダントライトをつける。薄暗い店内に、ほのかな明かりが灯った。

 定休日のお話やは、主人の帰りを待ちわびるおもちゃ箱のようだ。ふたたび箱が開くその時を、静かに待っている。

 カウンターに腰かけて、本を開く。

 昔から大好きな、児童書のスタープリンセス。伊坂さんが送ってくれた古本だ。

 表紙のあるその本を、感慨深く眺める。

 スタープリンセスはどれほどの月日が経っても、私に幸福をもたらしてくれる。この本がなければ、伊坂さんと親しくすることはなかっただろう。

 しばらくスタープリンセスを読みふけっていると、柔らかなインターフォンの音が店内に響いた。

 すぐに腰を上げ、引き戸を半分開く。
 外には、ちょっと驚いた表情の久保さんが立っていた。いきなり開くとは思っていなかったのだろう。

「お待ちしてました」

 頭を下げると、久保さんも笑顔になる。

「月曜定休だったこと、うっかり忘れてました。自分が来れる日のことばっかり考えてて、すみません」
「大丈夫ですよ。雑貨の方は閉めてますけど、お話やに定休日はないんです」

 中へどうぞと手を差し伸べて、カウンターへ案内する。

「お休みが月曜日だけだと、大変ですよね」
「学生バイトもいるし、なんとかやれてます」
「アルバイト、雇ってるんですか」

 全然知らなくて、驚いてしまった。

 久保さんはそっとほほえんで、「夕方や土日に来てもらってます」と言う。

「店番してもらえるだけでも助かりますよね」
「お話やさんも、お姉さんに店番頼んでましたね。うちは学生バイトですが、まじめな子なので、本当に助かってますよ」

 アルバイトって、女の子だろうか。

 ふと、そんなことが気になった。しかし、尋ねる勇気もないまま、いつものようにメニュー表を広げた。

「何飲みますか?」
「アイスコーヒーで」

 久保さんはメニューをじっくり眺めたが、最初から決めていたように迷いなく答えた。

 冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して、すぐに用意を整えた。

 グラスとクッキーを乗せたプレートを、彼の前に置く。簡単なサービスしかできないが、お客さんは喜んでくれる。彼も例外じゃなかった。

「サービスがいいですよね。お話やさんのファン、商店街にたくさんいるみたいですよ」
「ありがとうございます。姉のおかげでもあるんですけど」
「姉妹っていいですね」
「はい。久保さんはご兄弟いらっしゃるんですか?」
「……ええ、弟がひとり」

 彼はまぶたを伏せ、ストローでアイスコーヒーをゆっくりと一周混ぜる。カラリと氷が鳴ると、その手を止めた。

「弟さんなんですね。うちは、言いましたっけ? 二歳と四歳年上の姉がふたりです」
「お店を手伝ってらっしゃるのが……」
「二歳年上の姉です」
「うちは三歳年下です」
「そう言えば、久保さんはおいくつなんですか?」

 年齢も知らないのか、と珠美にあきれられたことを思い出し、尋ねてみた。

「三十二です」
「じゃあ、私の三歳上ですね。……私、弟さんと同い年みたい」
「そうじゃないかと思ってました」

 久保さんはちょっと微笑んだ後、アイスコーヒーをひと口飲んで、息をつく。

「久保さんの地元はこちらですか?」
「八福寺第一中学校に通ってました」

 てっきり、垢抜けた彼は地元の人ではないと思っていた。

「私は第二です。小学校も八福寺ですか?」

 八福寺小学校はマンモス校で、地域によって学区が違い、中学生になる時に進学先が第一から第三まで分かれるようになっていた。

「はい、八福寺小学校でした」
「一緒に通ってたこともあるんですね。じゃあ、弟さんと私は同級……」

 そう言いかけた時、半分開いたままの引き戸の前に人影がちらついているのに気づいた。

「ごめんなさい。ちょっと外しますね」
「お客さんなら、俺、帰りますから」

 腰を浮かせる久保さんに「大丈夫ですから」と言って、入り口に向かう。

 定休日の来客はかなり珍しい。戸が開いているから、営業していると勘違いした客かもしれない。

 そんなことを考えながら、引き戸から顔をのぞかせると、見知った女性が立っていた。久しぶりに会う彼女は、私を見るなり、華やかな笑顔を見せた。

「お久しぶり、幸子ちゃん。近くに来たからちょっと顔が見たくて」

 彼女は可愛らしい声を弾ませると、顔の前でうれしげに両手を合わせた。