おしゃべりな雑貨店でティータイムを




 店の前で久保さんと別れて店内へ戻ると、満面の笑みの珠美に出迎えられた。

「さっちゃん、おかえりー。ふふーん。今の人、だぁれ? カッコいい人じゃなかったー?」

 わざとらしく外をのぞき見て、下世話な笑みを見せる珠美にあきれてしまう。彼女は恋の話が好きだ。

「このまえ話したクボックの店長さんだよ。たまたま駅で会ったの」
「たまたまねぇ。そうやって近づいてくる男っているわよねー」
「リリーカフェの様子、見に来てたみたい」

 勘ぐりすぎ、と笑いながら、久保さんの言葉を思い出す。

 偶然は作り出せるという、あの言葉だ。

 今日、久保さんは偶然を装って私に声をかけたのだろうか。そう考えてみても、どうにもしっくり来ない。
 久保さんが私に会いたい理由はないだろう。珠美は綺麗だから、そういう経験をしたこともあるのかもしれないが。

「カフェね! どうだった?」
「すごい人だったよ。中の様子なんて全然。でもみんなのお目当ては、サンドイッチみたい」
「サンドイッチが美味しいお店なんだ? 今度一緒に……あっ、さっちゃんはさっきの彼と行くからいっか」
「行かないよー」

 苦笑いすると、珠美は心底不思議そうな顔をする。

「少しぐらい、いい人だなぁって思ったりしないの?」
「いい人だけど、同じ商店街でお店開いてる同業者って感じかな」
「ふーん。クボックの久保さんだったよね。今度お店に行ってみようかしら」
「おしゃれなお店だったよ。行くのはいいけど、妙な気は起こさないでね」

 釘をさしておく。珠美は言わずと知れたおせっかい焼きだ。

「何よー、妙な気って。さっちゃんに似合う男か、見てきてあげるって言っただけ」
「だからそれが余計だよって。久保さんも迷惑するよ。だいたい、彼女がいるかもしれないんだし」

 そう言ってみて、自分でどきっとしてしまう。久保さんに彼女がいるかどうかなんて、今まで少しも考えたことなかったのに。

「彼女いるのか、確認してないの?」
「しないよー」
「そっかー。いい男そうだったし、いてもおかしくないわよね。年齢は?」
「さあ。ちょっと年上かなって感じはするけど」
「なーに、その返事。ほんとにさっちゃん、彼のことなんにも知らないんだね」

 珠美があきれるほど、私は久保さんに無関心だったかもしれない。会えば話すが、お互いに知っていることはほとんどない。

「まあ、知らなくても恋に落ちちゃうことあるしね。久保さんはさっちゃんに興味ある感じ?」
「そんなのわかんないよ」
「ほんとにさっちゃんは消極的なんだから。いいなぁって思ったら、アタックしなきゃ」
「お姉ちゃんは美人だからそう言えるんだよ」

 思わず本音を漏らすと、なぜか、珠美はきょとんとした。

 昔からパーツが派手だと言われてきた彼女は、とびきりの美人だ。容姿に自信があって当然。私はと言えば、本当に珠美の妹なのかと、よくからかわれてきた。

「さっちゃんもかわいいじゃない」

 珠美はそう言ってくれるが、慰めにもならない。

 姉妹なのにこんなにも違うのかというぐらい、私たちは似ていない。

 利発な理恵子に美女の珠美、誠実な幸子。私たちの特徴をとらえた表現に、少なからず傷ついたこともある。

 私には、誠実さしかない。誠実な人なんて、この世界にはたくさんいるのに、と思っていた。理恵子も珠美も誠実だったから。

「お姉ちゃんみたいにはモテないよ」
「それはさっちゃんがアピールしないからよ。まあ、そういうところがさっちゃんの良さだけどね」
「お姉ちゃんはアピールするの?」

 素朴な疑問を投げかけてみると、意外にも彼女は「あたりまえじゃない」とうなずいた。あたりまえなんだと、軽い衝撃を受けた。私は努力していないと言われたみたいだった。

「好きな人にはアピールしまくるよ。付き合えないこともあるけどね」
「そうなんだ。今は? 今は好きな人いるの?」

 ふと、志島さんのことを思い出して尋ねた。

「今はいないかなぁ。すっごく好きだった人と別れてから、いろいろ喪失って感じ」
「すごく好きだったのに別れたの?」
「まあねー。もっといい人がいるかもって思っちゃったのかも。理想を求めすぎて、彼が一番理想の人だったことに気付けなかったのよ」

 さらっと珠美は答えたが、ひどくさみしそうな表情が私の目に焼き付いて離れなかった。