*
「昨日の雨、すごかったねー。停電するかなって心配しちゃうぐらい。さっちゃんは大丈夫だった?」
姉の珠美はエプロンをつけると、薄手のブラウスを腕まくりする。
平日は正社員で仕事しているのに、土曜日の今日も朝からやる気満々だ。昔から彼女はとてつもなくバイタリティがある。
見習いたいとは思わないが、ただただ尊敬している。私と珠美は比べるまでもなく、全然似ていないのだろう。志島さんが驚くのも無理はない。
「こっちは全然」
「それならよかった。やっぱり一人だとこういう時、不安だよね。さっちゃんも困ったことあったら電話してきなさいよ」
珠美にとっての私は、いくつになっても子どもみたいだ。
ちょっと笑った時、カウンターの上の電話が鳴った。
「はい。お話やです」
受話器を取ると、珠美はホウキを持って表へ出ていく。
「はい、わかりました。ありがとうございます。近いうちに取りにうかがいます」
すぐに電話を切ると、ひょこっとのれん越しに珠美が顔を出す。
「もう終わったの? 何の電話?」
「注文してた本が届いたって、本屋さんから」
「取りに行ってくる? 店番は任せて」
珠美は胸を張る。
「大丈夫だよ。月曜に取りに行ってくるから」
「急ぎじゃないの?」
「全然。読みたかった本を注文してただけ」
「ほんとに本が好きだよね、さっちゃん。ほら、小学生の時も。何する時でもずっと本持ってたよね。……あっ、これこれ。スタープリンセス」
書籍コーナーに歩み寄った珠美は、表紙のないスタープリンセスの背表紙に、人差し指で触れる。
「表紙なくなっちゃったの、残念だったよね」
あの時のことを、珠美は覚えているのだろう。
当時、彼女は六年生だった。表紙のないスタープリンセスをランドセルから見つけると、いじめられているんじゃないかと心配してくれた。クラスメイトの女の子にも、何か知らないかと聞いてくれた。でも誰も、表紙を破った男の子の真実は語らなかった。
珠美はいきなりツカツカと近づいてくると、カウンターに両手をついた。
「やっぱりさっちゃん、本屋に行ってきなさいよ。何があるかわからないんだから、なんでもはやく手元に置いた方がいいよ」
あさってには取りに行くと言っているのに、せっかちだ。本が逃げ出すわけでもないのに。
「大丈夫だよ」
「遠慮しなくていいの。本屋って、商店街の中のでしょ? すぐなんだし」
「商店街じゃなくて、駅前の」
「どっちだって一緒よ。すぐはすぐでしょ。行ってきなさい」
最後は命令口調になるところも、お姉さんぶってておかしい。ここで折れないと、余計にめんどくさいことになる。昔からそうだった。
「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね」
ショルダーバッグを手に取って、店の入り口に向かう。
「あ、そうそう。駅前のカフェ、今日オープンみたいだから、ちょっとのぞいてきたら? 敵情視察も大事だよ」
「うちはカフェじゃないよ」
くすくす笑って外に出るが、「カフェみたいなもんじゃない」とごちる珠美の声が、店内から聞こえてきた。
「昨日の雨、すごかったねー。停電するかなって心配しちゃうぐらい。さっちゃんは大丈夫だった?」
姉の珠美はエプロンをつけると、薄手のブラウスを腕まくりする。
平日は正社員で仕事しているのに、土曜日の今日も朝からやる気満々だ。昔から彼女はとてつもなくバイタリティがある。
見習いたいとは思わないが、ただただ尊敬している。私と珠美は比べるまでもなく、全然似ていないのだろう。志島さんが驚くのも無理はない。
「こっちは全然」
「それならよかった。やっぱり一人だとこういう時、不安だよね。さっちゃんも困ったことあったら電話してきなさいよ」
珠美にとっての私は、いくつになっても子どもみたいだ。
ちょっと笑った時、カウンターの上の電話が鳴った。
「はい。お話やです」
受話器を取ると、珠美はホウキを持って表へ出ていく。
「はい、わかりました。ありがとうございます。近いうちに取りにうかがいます」
すぐに電話を切ると、ひょこっとのれん越しに珠美が顔を出す。
「もう終わったの? 何の電話?」
「注文してた本が届いたって、本屋さんから」
「取りに行ってくる? 店番は任せて」
珠美は胸を張る。
「大丈夫だよ。月曜に取りに行ってくるから」
「急ぎじゃないの?」
「全然。読みたかった本を注文してただけ」
「ほんとに本が好きだよね、さっちゃん。ほら、小学生の時も。何する時でもずっと本持ってたよね。……あっ、これこれ。スタープリンセス」
書籍コーナーに歩み寄った珠美は、表紙のないスタープリンセスの背表紙に、人差し指で触れる。
「表紙なくなっちゃったの、残念だったよね」
あの時のことを、珠美は覚えているのだろう。
当時、彼女は六年生だった。表紙のないスタープリンセスをランドセルから見つけると、いじめられているんじゃないかと心配してくれた。クラスメイトの女の子にも、何か知らないかと聞いてくれた。でも誰も、表紙を破った男の子の真実は語らなかった。
珠美はいきなりツカツカと近づいてくると、カウンターに両手をついた。
「やっぱりさっちゃん、本屋に行ってきなさいよ。何があるかわからないんだから、なんでもはやく手元に置いた方がいいよ」
あさってには取りに行くと言っているのに、せっかちだ。本が逃げ出すわけでもないのに。
「大丈夫だよ」
「遠慮しなくていいの。本屋って、商店街の中のでしょ? すぐなんだし」
「商店街じゃなくて、駅前の」
「どっちだって一緒よ。すぐはすぐでしょ。行ってきなさい」
最後は命令口調になるところも、お姉さんぶってておかしい。ここで折れないと、余計にめんどくさいことになる。昔からそうだった。
「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね」
ショルダーバッグを手に取って、店の入り口に向かう。
「あ、そうそう。駅前のカフェ、今日オープンみたいだから、ちょっとのぞいてきたら? 敵情視察も大事だよ」
「うちはカフェじゃないよ」
くすくす笑って外に出るが、「カフェみたいなもんじゃない」とごちる珠美の声が、店内から聞こえてきた。
