その好きは隠しておいてね


 夕食に集まっている全寮生と各リーダーの生徒たちに伝えてから、寮父にも起きた出来事を説明した。
 寮父は60歳前後の男性で寮の仕事を長く勤めている人物だった。
 穏やかな人で光希の話も熱心に聞いてくれた。生徒たちが食事をしている間と今夜は夜間も巡回すると約束してくれた。

 それから夕食を食べながら、甲斐と光希は詳しい話を二人に話した。
 悲鳴を聞いたはずなのに、どこにもその証拠も見つからない。話せば話すほど、あれは夢だったのではないかと思った。甲斐も同じで、食事が終わる頃にはしょんぼりとしていた。

「なんか、俺、夢を見ていたような気がします」

 甲斐が自信なさげに締めくくった。
 話を聞いていた怜は、相変わらず静かな顔付きで何も言わなかった。史苑はニコニコしていた。

「今夜は俺が光希の部屋に行くよ」
「えっ?」

 驚いた声を上げたのは光希ではなく、甲斐だった。

「えー、嬉しいっ」
「甲斐、黙ってろ。史苑先輩、大丈夫ですよ。今夜は寮父さんが巡回するって言ってくれたし」

 光希は、史苑に迷惑をかけたくない気持ちで言った。すると、甲斐が口を尖らせた。

「今日あれだけ怖いことがあったんだ。先輩、来てくださいよ。俺、先輩と一緒に寝たい」
「甲斐」

 光希がじろりと甲斐を睨んだ。

「光希は怖がりなんだろ。それに、もしかしたらまた、あのメールが送られてくるかもしれないよ」

 謎のメールの話を出されると少しゾッとした。
 本音を言うと史苑が来てくれるなら嬉しかった。恋人のフリでも半年以上も付き合っているのだから、そばにいたら心強い。

「まあ、先輩がいいのなら……。一緒に寝てあげてもいいです」
「ハハ。じゃあ、点呼が終わったら、部屋に行くから待ってて」
「はい」

 消灯の前に光希の部屋にいれば、夜中に移動する必要はない。おそらくこのようにこっそり移動している生徒たちはいると思われた。
 光希も同じように電灯がついている時に移動すればいいのだが、万が一、何かあった場合、夜中か朝方に自分の部屋に移動しなくてはならない事になる。それが怖かった。

 夕食をすませると、史苑たちと分かれて光希と甲斐は部屋に戻った。
 光希はすぐに時計を確認した。
 寮では、起床時間から消灯まで行動時間が決められていた。
 下校時刻からも時間が決められている。夕食、入浴、自由時間は20時まで。
 20時から22時まではスマホも使用禁止の学習時間となる。
 規則違反をすると罰則もある。

 寮生すべての部屋の中まで確認するわけにはいかないが、高い寮費を払ってここにいるのだ。するべきことは勉強だ、と中学一年の頃から教育されてきた。
 光希は勉強は嫌いではなかったが天才ではない。普通の学生だ。おそらくこのままどこかの大学へ行くんだろうな、という感覚しかなく、どこへ行くかは明確に決めていなかった。

 残り二年弱。長いのか短いのか。そして、来年は自分が三年生になる。
 先輩はどこの大学を受けるのだろう。ふと思いがよぎった。
 その時、コンコンと部屋をノックする音がした。ぼうっとしていた光希は立ち上がってドアを開けた。
 すると意外な人物が立っていて驚いた。

「三春先輩」
「入ってもいい?」
「どうぞ」

 てっきり史苑が来ると思ったのに、怜が一人でやってきた。彼は部屋に入ってくるとそのまま絨毯が敷いている床にペタンと座った。

「先輩一人ですか?」
「そうだよ」

 怜はこくっと頷いた。先程食堂で、差出人不明のメールと甲斐が見た赤い何かの話は説明した。

「もっと詳しく聞きたかったんだ」

 詳しくと言われてもこれ以上分かっている情報はない。

「ケンカしていただろ。愛河くんと一色くんだっけ、あの子たちの話を聞きに行かない?」

 あ、すっかり失念していた。

「行きます」

 光希はすくっと立ち上がると
 怜も立ち上がった。