怜と史苑、そして甲斐も一緒に四人は三階へと向かった。
光希と甲斐が先に上がって行くと、三階の方から生徒たちの争う声が聞こえた。ハッとして光希が駆け上がり、甲斐が後に続いた。
ロビーには人だかりができていて、一人が床に倒れて、そばで一人の少年が数人の学生に羽交い絞めにされていた。
甲斐が前へ飛び出して叫んだ。
「何やってんだよっ」
両手をついて膝をついていた少年が、羽交い絞めにされている少年を指さした。
「こ、こいつがいきなりっ、俺を背中から蹴ったんだ」
そう訴えた少年こそが、今月頭にお風呂場で前田和明を痴漢だと言った張本人、愛河秀彦だった。
愛河は涙目になって、興奮している少年、一色拓馬を睨みつけた。一色は、前田を庇った少年だ。
「お前がっ、お前があいつを殺したんじゃないかっ」
羽交い絞めにされている一色が興奮した様子で叫んだ。
その場にいた学生たちがざわつく。光希はすぐに、あいつというのが前田のことだと思った。でも前田は生きているはずだった。
「愛河、君の話はちゃんと後で聞く。甲斐、愛河をソファに座らせてやってくれ」
光希が頼むと甲斐と史苑が愛河の両脇を抱えて移動させてくれた。愛河はすごい目で一色を睨みつけていた。
愛河がソファに座ると、一色も少し冷静になったのか息を吐きながら、もう大丈夫だから、ともごもごと言った。
「一色、君の話も後で聞かせてもらうから」
光希が言うと、一色はぷいっと顔を横に向けると小さく頷いた。ホッとして光希はその場にいる全員に声をかけた。
「俺がみんなに知らせたいことがあって寮内放送をした。寮内放送をする前の事だ。学校が終わって17時過ぎ、この廊下で悲鳴が聞こえた。誰か聞いた奴はいるか?」
その場にいる生徒たちは顔を見合わせてから、その中から数名がおずおずと手を挙げた。全員ではなかったが、多くの生徒が聞いていた。やっぱり何かがあったのだ。
「じゃあ、廊下で何か不審なものを見たやつはいるか?」
学生たちの手が下りて、ほんの数名の生徒が手を小さく挙げたまま、自信のなさげな声で答えた。
「はっきりはよく見ていない。何か、変な物が、赤かった気がするだけで……。怖くて逃げた」
甲斐と同じような反応の答えだった。
「何がいたの?」
史苑が光希に尋ねた。
「先輩、後で説明します」
「分かった」
史苑がニコッと微笑む。
「じゃあ、とりあえず夕食の時間だからみんな食堂へ行こう。光希はそこで全寮生にさっき起きたことを説明するんだ。それで何かあれば各班長、リーダーに伝えるように指示をして」
「はい」
「寮父さんにも伝えて、巡回してもらおう」
史苑がてきぱきと指示をしてくれる。光希は頷きながら、彼がいてくれてよかったと心から思った。
「俺、何もできなくてすみません」
「何言ってるんだよ」
史苑が優しく光希の肩をポンポンと叩いた。
「怖かったんだろ。光希に何もなくてよかったよ」
「先輩、俺は見たんですよ。すっげえ怖かった」
「甲斐も大変だったね。食事しながら詳しく教えてくれる?」
「ウッス」
甲斐が見た赤い色の変な生き物。
誰かの悲鳴。
突然起きた、痴漢事件の目撃者たちのケンカ。
そして、自分宛に来た謎のメール。
光希はぐっと下唇を噛みしめた。
何が起きているのか、全く分からない。
苦痛そうな顔でもしていたのだろうか、怜がそっと近づいて来て囁いた。
「大丈夫?」
「あ、はい」
「僕も興味があるから、食事の時に教えて」
「はい」
光希は、すぐ横に立つ怜の一重で、シュッとした感じの冷静な目元に思わず見とれてしまった。
薄い唇がフッとほほ笑む。怜はかなりの美形だと改めて思った。
「光希」
史苑に呼ばれる。
「あ、はい」
「おいで、行こう」
「はい」
素直に返事をして史苑について行った。皆、ぞろぞろと食堂へ向かった。

