その好きは隠しておいてね



 部屋に戻りカバンを持つと、そのまま史苑と一緒に学校へ行った。
 高校棟は三年生まで同じ校舎だが、三年生は三階で二年生は二階だったので、史苑とは途中で分かれた。
 教室に入り自分の席についても、光希はメールのことが気になっていた。
 勉強に集中したいのに、別の事に気を取られるなんて自分らしくない。思わずため息が漏れる。教科書を取り出して、教師が来るのを待った。

 異変が起きたのは、学校が終わり寮へ戻ってからだった。
 最終下校時間は17時50分。
 18時には寮に戻るように決められている。アルバイトの届け出を出している生徒については特例で、彼らの門限は19時だ。
 部活もアルバイトもしていない光希は、授業が終わって職員室に行ったり図書室に寄ったりして寮に戻った。
 寮に着いたのは17時頃だった。

 部屋に入ってすぐに着替えた光希は、廊下が騒がしいのに気づいた。隣の部屋の甲斐はベッドに寝転がって漫画を読んでいたが、騒がしいのに気づいてのそりと起き上がった。

「何だ? 何かうるさいな」

 ベッドから下りて立ち上がると部屋のドアを開けた。光希もそちらに顔を向けていると、廊下をどたどたと数名の生徒たちが走って行くのが見えた。

「うわっ」

 甲斐が慌ててドアを閉めて鍵をかけた。

「どうした?」

 光希が、甲斐の方へ近づくと彼の顔が真っ青になっているのに気づいた。

「甲斐?」
「な、何か変なものがいた」
「……はっ?」
「変、変な生きもの。真っ赤な何かが四つ這いになっていたように見えた」
「ちょっと待って……」

 怖いのは苦手なんだ、と光希は甲斐の腕にしがみつく。二人とも幽霊は信じないと言っていたのは、超怖がりだったからだ。

「やめろ、そう言うの。俺、駄目なんだよ。ホラー映画とかサスペンス映画とか、血みどろバイオレンスは絶対に見ない……」

 光希が震えながら言うと、甲斐が横目で光希を見た。

「一人で夜中に出ていくやつのセリフとは思えねー」

 そう言う甲斐も震えている。その時、廊下から複数の生徒の悲鳴が聞こえた。

「ちょ、マジか? 俺マジ無理なんだけど……」
「甲斐、ドアを開けろっ」
「ええっ?」
「放っておくわけにはいかないからっ」

 光希はそう言うと鍵を開けて、ドアノブに手を乗せた。ぎいっとドアを開けて恐る恐る外をのぞく。廊下には何もなかった。甲斐が光希の腕にしがみついて、二人は三階のロビーへと足を向けた。
 あんなに大騒ぎがあったのに、ロビーには誰もいない。
 あの悲鳴は何だったのか。訳が分からなかった。
 ロビーには壁時計がかかっていて、17時を過ぎていた。
 夕食は18時半からなので、ほとんどの生徒たちは部屋にいるものと思われた。
 何が起きたのか全く分からず、二人はその場でしばらく立っていた。

「甲斐、さっき言っていた赤い物ってなんだ?」
「怖すぎてよく見られなかったんだけど、その……血まみれの女の人に思えて……」
「そんなのいるわけないだろ」
「うん……」

 廊下に血が落ちているわけでもないし、もちろん血まみれの女性などいやしない。

「みんな、どこに行ったんだ?」

 甲斐が不気味そうに言った。

「俺、先輩のとこ行ってくる」
「俺も行く」

 甲斐が、光希の腕につかまり二人は急いで二階へ移動した。二階も静かで誰もいない。
 どの部屋も明かりはついていないようだった。
 史苑の部屋の前に立つと光希は部屋をノックした。何度かノックしてドアを開けようとしたが、鍵がかかっている。

「まだ、学校なんだ」

 甲斐が言った。

「そうだ。寮内放送をする」

 光希が思いつく。一階玄関に全寮生に向けてマイク放送できる装置がある。
 寮父室前には固定電話があり、ごくまれに家族からの電話や外部からの電話がかかってくることがあるので、生徒を呼び出したりするためもあった。
 マイク放送は、双葉寮の一階から六階、ランドリー室まで聞こえる仕組みになっていた。

「何かあったのは間違いない。各班のリーダーと班長を呼び出す」

 二人は一階へ降りると寮父の部屋に行った。寮父にも知らせようと部屋のドアをノックしたが、彼もいなかった。