点呼が終わり、ほとんどの生徒たちが寝静まった夜更け、ふっと体が動かない事が増えた。
まただ、と光希は思う。
金縛りに合うのはこれで何度目だろう。
もうすっかり慣れてしまった。
首すじを撫でる指先、ハギモリマリアの顔が浮かんでくる。
耳元で囁く声は、こう言っている。
あなたと一緒にいると誰もが不幸になるわよ。
もう、スマホがなくても彼女と交信ができているようなものだ。
彼女は、史苑と別れろと何度も囁く。
光希は耳を貸さなかった。絶対に先輩と別れるつもりはないからだ。
「俺はあんたの言うことは聞かない……」
金縛りにあったまま、動けるようになるのをただ待つ。
ハギモリマリアはしつこい。
また、笑っている。
耳元で笑う声。
母の笑い声に似ている。
そう思った時、目が覚めた。
呼吸が乱れていた。
部屋の中は冷房が効いていて涼しかったが、寝汗を掻いたのかパジャマが濡れている。
シャツに着替えてもう一度布団に横になった。
怜の言葉を思い出した。
光。
光に包まれている事をイメージしよう。
ぎゅっと目を閉じた。瞼の裏に張り付いた顔、それは母の顔だった。
目が自分を邪魔だと訴えている。
小さい頃から母の目が怖かった。
二人きりの時は息苦しくて、何がいけないのかなと何度も考えた。
光希は目を開けて寝返りを打った。
史苑の事を思い浮かべる。
彼は光だ。自分にとっての光だから。
史苑を思い描こう。そう思って眠りについた。
苦しみは一生続くわけではない。
卒業式。
大学受験は、推薦を受ける先輩たちもいたが、多くは一発勝負の国公立受験である。皆、試験を受けて後は結果発表を前にして、三年生たちは皆、卒業式を迎えた。
そして、史苑と怜が卒業した。
史苑と怜がいなくなり、光希は叔父の家に帰省していた。
史苑との関係を家族に伝えてから、母から、もう自分の息子だとは思えない、身内として絶対に受け入れられないと連絡を受けていた。
元々、帰る家などなかったのだから平気だと思ったが、母からの完全な拒絶に少しだけショックを受ける自分がいた。
卒業しても史苑はずっと優しかった。
毎日、連絡が来て彼と数分の間でも話ができると安心できた。
ハギモリマリアの話はしなかった。
母と縁が切れた代わりに、ハギモリマリアがずっとそばにいるのを感じていた。
ハギモリマリアはずっと耳元で囁いている。
史苑と別れろ、と。

